原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

訴えの変更と反訴はセットで押さえる

2011-06-09 | 民訴法的内容
今日は,請求の拡張申出書やら訴えの変更申出書やらを起案しておりました。建築瑕疵・医療過誤,専門的知識が必要な分野というのは大変です。

では,表題の話を。まず,基本的な点から押さえてください。それは,次のことです。

訴えの変更と反訴は,本来不要である。なぜなら,訴えの変更の場面においては,旧訴を取下げて新訴を提起すれば目的を達成でき(あるいは旧訴を取下げずに新訴提起して旧訴と併合すればよく),反訴の場面においては,被告が別に新訴を提起すればよいからである。

本来不要である。これが,訴えの変更と反訴を理解する第一歩です。ただ,これではやや不都合が生ずる。何かと言えば,新訴は別の裁判官によって裁かれ,旧訴の訴訟状態(訴訟資料)を利用することができないことです。結果,関連する紛争の争点について異なった判断がされうる。これはいけない,だから,民訴は訴えの変更と反訴を制度化したのです(民訴143,146)。

すなわち,訴えの変更と反訴は,関連する紛争を別の裁判体で審理することに伴う不都合を回避するための制度,旧訴(本訴)について形成された訴訟状態を新請求においても利用できる道を開くものです。ここに価値があります。単純に「取下げ+新訴提起」としてしまうと,取下げは訴訟状態の遡及的消滅効果を伴うので,旧訴の訴訟状態を利用できないのですね。

このベース,つまり「交換的変更なら基本は取下げ+親訴提起で,追加的変更なら新訴提起+併合なので,それぞれ(取下げ・新訴提起・併合)の規制は働くけれど,適宜修正されたうまい制度だ」という発想がポイントです。

このあたりの発想があると,要件を理解しやすくなるかと思います。訴えの変更(変)と,反訴(反)の要件を並べてみます。この要件は,民訴講義案(司法協会)に倣った表現で書いてみます。

(1)

変:請求の基礎に変更がない(143Ⅰ本)
反:反訴請求が本訴請求又はこれに対する防御方法と関連すること

要するに,旧訴(本訴)の訴訟状態を利用するにふさわしいか,という点を判断するための要件です。

(2)

変:著しく訴訟を遅延させないこと(143Ⅰ但)
反:著しく訴訟を遅滞させないこと

訴訟状態の利用は当事者の便宜にすぎないので,訴訟経済の要請には劣後します。そういう場合は別訴を提起しろ,ということ。そもそも,それで訴訟が著しく遅延するなら,訴訟状態をうまく使えないということなのでしょう。

(3)

変:事実審の口頭弁論終結前であること(143Ⅰ本)
反:本訴が事実審に継続し,かつ,口頭弁論終結前であること

新訴提起の性質を有するので,本来は,高裁(二審)では不可のはず。それゆえ,控訴審での反訴は本訴原告の同意または応訴を必要とする(300)。しかし,一般論として,関連紛争なので,進級の利益はさほど侵害されず,それなら事実審終結まで可とするのが合理的。

(4)

変:訴えの変更の一般的要件を具備していること
反:反訴請求につき訴えの併合の一般的要件を具備していること

併合を伴うので。

(5)

反:反訴の目的である請求が他の裁判所の専属管轄に属しないこと

新訴提起の性質を有することからして,それは当たり前でしょうか。

このように並べてみると理解しやすいかと思います。手続も,先に述べた点が頭に入っていると理解しやすくなります。請求の(趣旨の)変更は・反訴は,新訴提起の性質を有するので,書面でする必要があります(143Ⅱ,146Ⅲ)。これに対し,請求の「原因の」変更は書面ですることを要しません(最判S35.5.24)。請求の原因の変更ならば,新訴提起の性質はないのですね。訴状と同じように,請求の(趣旨の)変更申立書は被告に送達することが必要で(143Ⅲ),被告に送達された時に新請求について訴訟係属が生じます。

こういった視点を持って,勉強を進めてみてください。

<参考文献>

「民事訴訟法講義案<再訂補訂版>」(司法協会)79頁以下


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