原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

和解について

2011-05-05 | 民訴法的内容
今日は,和解について少し。読者の皆様もご存じかと思うのですが,裁判所に持ち込まれる紛争も,かなりの数は和解で解決しており,条文は少ないのですが実際上は非常に重要なものです。

和解は,大きく分けると,裁判外の和解と裁判上の和解があります。前者は,民法上の和解契約(民法275)ですね。後者には,紛争を予防するための訴え提起前の和解(275)と訴訟上の和解があります。

試験的に(実務的にも)重要なのは,訴訟法上の和解なので,今日はその点を。

訴訟上の和解ですが,裁判所はいつでも和解を試みることができます(89)。和解は,紛争解決に有意義なんですよね。双方が納得した形で合意されるので,例えば,当事者の一方から他方へ金銭の給付がなされる場合も,任意の給付がなされやすい。裁判所・弁護士にとっても効率的な事件処理ですから,できるだけ和解で解決するべきというのも一つの正しい考え方であると言ってよいはずです。「いつでも」和解を試みることができるわけですから,口頭弁論終結後でも,判決が出来上がってしまっていてもできるわけです。

そして,この和解をするための要件ですが,①当事者が処分できる権利関係であること,②公序良俗違反でない合意内容であること,といった点は争いのないところです。ちょっと争いのあるところは,③訴訟要件を具備する必要があるか,という点ですが,これは訴え提起前の和解との均衡から不要とされるのが通説です。ただ,当事者が実在することや,権利を処分するわけですから訴訟能力を必要とする,といった制約はあります。実際にも,結構いろいろなタイミングで和解の提案がされます。訴訟の早い段階もあれば,本人尋問を行って言い分を聞き,裁判所がある程度心証を形成した段階で行われることも多いです。ラウンドテーブルが使われて,当事者双方が意見を言いやすくする工夫などがされます。

訴訟上の和解がされると,訴訟が終了します(訴訟終了効)。一般的には,裁判所がお互いの意思を確認して,和解内容が調書に記載されるわけですね。そうすると,この調書の記載は,確定判決と同一の効力があります(267)。この「確定判決と同一の効力」として,執行力があること(民執22⑦)があることは明らかなのですが,既判力があるかどうかは問題となります。裁判所が公権的に判断しているわけではないし,当事者に攻撃防御を尽くさせているわけでもないので,既判力を正当化できないのではないか,というのがその問題の所在です。この点,判例は基本的には既判力を肯定する考え方ですが,当事者の意思表示に瑕疵があれば和解が無効になる場合もあるとします(最大判S33.3.5)。制限的既判力説的な立場と分析されています。

そして,その意思表示に瑕疵がある場合,どのように救済を求めたらよいかについては,続行期日の申立てをすべきという考え方(和解が無効になることによって訴訟終了効も遡及的に失われる)と,別訴を提起すべきという考え方(和解によって新たな法律関係が形成されており,元の事件とは別の事件になっている)があります。この両説の違いですが,

期日指定…訴訟資料が流用可能で効率的だが,高裁で和解した場合は高裁で再開することになり審級の利益の保護の点でやや問題。

別訴提起…訴訟資料が流用できず非効率的だが,第一審からスタートするので審級の利益は確保できる。

ということになります。判例は,当事者の態度に応じて,いずれの方法も認めます。ですから,論文で出た場合は,当事者の態度をまず認定し,その上で,それが合理的であって認められるべきであるか,という点を考察すればよいでしょう。

なお,訴訟上の和解には,期日に当事者が出頭して話を付けるのが原則なのですが,次の2つの方式のように当事者双方の出頭を要しない方式もあります。

(1)書面受諾和解(264)

当事者の一方が裁判所の提示した和解条項案を受諾する旨の書面を提出し,他方が期日に出頭して和解条項を受諾した時には当事者間に和解が調ったとみますものです。当事者の一方が遠隔地に居住しているときなどに活用されます。

(2)裁定和解(265)

当事者「双方」から裁判所の定める和解案に服する旨の「共同の」申立てがあるときは,裁判所が和解条項を定めることができるという制度です。仲裁のイメージです。裁判所と当事者双方に十分な信頼関係が構築されたときに有意義です。

和解については,このあたりを知っておけばよいかと思います。

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