原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

【平成22年】民事・設問4(1)の答案例

2011-05-08 | 民訴法的内容
「何が聞かれているのかわからない」「難しい」問題は,必ず出ます。そういった場合こそ,基本・大原則に立ち返ることが何よりも大切です。法律論文の基本・大原則とは,「法を適用して事案を解決すること」です。難しいことは必要ないのです。条文に素直になる,この姿勢が重要です。

受験生の間で,「何を書けばいいかわからなかった」と評された,平成22年・民事・設問4(1)の答案例です。出題趣旨等が出る前,試験直後の6月の分析講座で使用するために私が作成したものです。初見では,私も「??」でしたが,その後に発表された出題趣旨には概ね合致する答案になりました(速報答案的なものを書く時って,プレッシャーかかるんです…。この時は法セミなんかも含めて参考文献が何もない段階でしたので…)。

難しいことは書いていません。法律構成②が請求の放棄と構成しているので,267と266に飛んで,そこに書いてある「調書」「期日」という言葉に着目し,素直に冷静に考えたことを文章にしただけです。

こういう類の問題に遭遇した時(本試験では多かれ少なかれ出ます),難しいことを考えるのではなく,条文に戻って確実な論理を丁寧に積み重ねる。慌てない。実は与し易しの問題なのです。直前も直前のこの時期だからこそ,この姿勢を再確認してください。その上で,以下の答案例を読んでみてください。

=答案例=

(1)法律構成①について

ア.長所について

まず、法律構成①によれば、訴訟物は元本債務全体であるので、確定判決の遮断効により、1500万円の部分については蒸し返しの恐れがないことが長所となる。
また、審判対象は元本債務の全体と構成し、1500万円の部分は原告自らが請求の範囲を画したものととらえることは、原告の意思を尊重し、それに忠実な審理をするという点も長所となる。

イ.短所について

まず、元本債務全体が審判対象であるところ、1500万円の部分も審判の対象となることになるが、この部分については当事者双方が争っていないため、確認の利益が肯定できるか、という疑問が生ずる点が短所といえる。
また、元本債務全体が訴訟物であるならば、1500万円の部分についても主文で判断すべきことになるところ、これが明確には判決主文に表現されないということは短所となりうる。

(2)法律構成②について

ア.長所について

1500万円の部分につき、請求の放棄があったと構成すれば、その部分につき「確定判決と同一の効力」(民事訴訟法267条)が与えられることになり、紛争の蒸し返しができなくなる点が長所として挙げられる。

イ.短所について

1500万円の部分について確認の利益が認められるかどうかの疑問が生ずる点は、(1)イで述べた点と同じである。 
また、法律構成②は、1500万円の部分を原告の請求の放棄と捉えるが、これは原告の意思を拡張して解釈しているのではないか、原告の意思を蔑ろにする構成ではないか、という点が短所となる。
加えて、請求の放棄と構成するのであれば、本来は「調書」に記載しなくては確定判決と同一の効力が生じない(民事訴訟法267条)はずである。法律構成②のように構成した場合には、何をもって「調書」の記載があったとするのかが疑問である。仮に「調書」が不存在であれば確定判決と同一の効果は与えられず、紛争の蒸し返しを黙認することになりかねない。さらには、請求の放棄は「期日」でしなくてはいけないところ(民事訴訟法266条1項)、原告が明確に放棄の意思表示をしていないにもかかわらず、放棄があったと認めることができるのか、という点も短所となりうる。要するに、技巧的すぎる構成である。

=答案例は以上=

「知らないことが多すぎる…」と焦り,心配している受験生の皆様。知識が必要はことは間違いないのですが,本試験で差が付くのはそこではないのです。ちょっと気持ちを楽にして,本番はどっしりと腰を据えて答案作成をしてください!

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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
分析会でお世話になりました (受験生)
2011-05-08 19:11:54
先生には分析会でお世話になっただけですが、非常にテンポの良い聞きやすい先生の講義を懐かしく思い出します。

出題趣旨を読んで、先生がお書きになった民事の答案の質の高さに驚きました。未公表の出題趣旨を既に読んでいたのでは?と思うほどでした。

いつもこのブログで勉強させていただいております。今日の記事には大変勇気づけられました。難しく考えて尻込みする必要はないのですね。有益なアドバイス、ありがとうございます。

東京で受験です。気合いを入れて受けてきます!
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Unknown (はら)
2011-05-08 23:43:19
いえいえ,とんでもございません。ブログがお役に立っているなら何よりです。

あとは,余計なことを考えず,合格だけを考えて受験するのみです。合格を心よりお祈りします!
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とても参考になりました。 (受験生)
2011-05-09 00:51:11
絶対にやっておくべきことさえも、間に合っておらず、そのせいで焦りばかりが募っていました。
でも、この記事を読ませていただいて、気持がだいぶ楽になりました。ありがとうございます。

焦るくらいならもう何にもしない方がいいのでしょうか?頭の中になんにも残っていないような感じです。
後は本番のコンディションだけ…のような気もします。先生のご意見があればお聞かせください。宜しくお願いします!!
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Unknown (はら)
2011-05-09 01:37:27
完全な準備ができる受験生など存在しないし,だからこそ焦るというのも全ての受験生に共通することだと思います。状況・心情は,程度の差こそあれ,皆同じだと思います。

…もう何もしないというのはさすがに賛成しかねます。やっぱり,慣れというか何というか,法律の頭に,短答・論文に挑む頭にしておかねばなりません。

月曜・火曜で,少なくとも1通は論文を書いておくべきです。既に書いたことのある問題でも構いません。やっぱり,論文作成から離れてしまうと,いざ書くときに,非常に違和感を感じてしまうものです。

短答も然りです。何かしら,短答の頭にしておきたい。条文の素読をしてみて,もし自分が試験委員ならどう出すか,そんなシュミレーションをしながら読むだけでも違います。

焦っている状況であれば,「絞る」ことも必要です。各科目,自分が一番不安なところだけやる。民法であれば担保物権,行政法であれば思い切って代執行法に絞る,でも構わないと思います。

受験生は皆,「水面に顔を付けている」ような状況です。これは,試験終了の瞬間までそうです。苦しいながらも,最後まで顔を上げなかった人が合格をする,そういうものだと思います。

顔を上げず,やってみてください!
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ありがとうございます。 (受験生)
2011-05-09 09:23:15
最後まで頑張ります。
焦って空回りになるより、先生のおっしゃる通り範囲を絞って丁寧に勉強してみます。あと2日しかないようでいて、試験は15日まで続くので、最後まで諦めずに頑張ります。
ありがとうございました。
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