(前回から続く。。。)
自作のギリシャ語エントリープログラムと Perseus 2.0 を使い、プルタークの対比列伝(Parallel Lives)を快適に読み進むことができた。しかし Perseus 2.0で辞書のエントリー語を見つけたあとは、Perseus についている、 Liddell & Scott の Intermediate Greek-English Lexicon だけでは物足りなく、紙の辞書も頻繁に活用していた。
それと言うのも、『ヨーロッパにまで辞書を買いに行った話』に書いたように、以前フランスで、非常に良い希仏辞書を買ってきたからである。それは、
"Dictionnaire Grec-Francais", by V. Magnien M. Lacroix
French & European Pubns
この辞書の特徴は、意味が多岐に渡る単語には、意味の関連づけを一目でわかるチャートが付いていることである。ざっと見てどの意味に近いかを見つけて、詳細を後でじっくりと読むことで、能率よく辞書をひくことが可能となる。さらに私のような初心者にとって便利なのは、引用されているギリシャ語の例文には、かならずフランス語訳がついていることである。私は正直なところ、フランス語を完全に読めるわけではないので、分からないフランス語は辞書をひきながら読まないといけないが、それでも非常に助かった。
世の中で、希仏辞書というと、
"Le Grand Dictionnaire - Grec Francais", by Anatole Bailly
Hachette
が挙がる。書評によると、Bailly のこの有名な辞書は内容以前に、フォントがつまって読みにくいレイアウトで不評のようだ。しかし、私はこの辞書によって、ギリシャ語の単語の互いの関連やその語源に興味を持つに至った。即ち、発生順序などを無視すると、辞書のエントリーの観点から言うと、ギリシャ語の中核は『動詞』である。その動詞からたくさんの名詞が派生している、あるいは、関連付けられている。先ほどの L&S にも多少はこの観点の記述があるがこの Bailly は大抵の語句にそのような語源関連の説明が付いている。それで、ヨーロッパに辞書を買いに行く前には、L&S とこの Bailly を持っていたが、Bailly の方を参考にすることが多かった。
ギリシャ語の語源に興味を持って、探していると、次の2冊の本に巡り会った。
"Griechisches Etymologisches Woerterbuch", by Hjalmar Frisk
Carl Winter, Universitaetsverlag (Heidelberg)
"Grundzuege der Griechischen Etymologie", by Georg Curtius, 1879
Teubnerher (Leipzig)
これらはいづれもドイツ語の本であるが、英語ではこれに匹敵する本が私が探した範囲では見つからなかった。後者の Curtius の本は、今から100年以上も前に作られたので、その後の比較言語学の研究によって内容にかなりの間違いがあることが指摘されている、という。
ギリシャ語の語源に興味をもって探していると、独希辞書で私の要望にぴったりの辞書を見つけることができた。
"Grosswoerterbuch Griechisch Deutsch", Prof. Dr. Hermann Menge
Langenscheidts
Menge は Otto Guethling のギリシャ語の辞書をベースに、語源に関する情報を詳しく追加した辞書を作った。私のギリシャ語とラテン語の語源に関する限り、彼の2冊の辞書が一番満足のする情報を与えてくれ、現在のところ一番多用している。
また独希辞書はこれ以外に次の辞書を保有する。最後の Pape の辞書は分厚く私の知る限り、ドイツ語で書かれた古典ギリシャ語の中では一番詳しい。これはちょうど、英語の L & S の大型版に該当すると言えよう。
"Taschen-woerterbuch, Altgriechisch", by Hermann Menge
Langenscheidts
"Benselers Griechisch - Deutsches Schulwoerterbuch", by Adolf Kaegi, Gustav E. Benseler.
Saur
"Griechisch-Deutsches Handwoerterbuch", by W. Pape
Akademische Druck Universitaet Verlagsanstalt
ついでにラテン語についても触れておきたい。
ラテン語の語源関係では次の本がある。2番目の本は、ギリシャ語やラテン語だけではなく、ほとんど全ての印欧語を網羅している、いわば比較言語学史上の金字塔的な辞書である(と私には思える)。
"Lateinisches Etymologisches Woerterbuch", by A. Walde und J.B. Hofmann
Carl Winter, Universitaetsverlag (Heidelberg)
"Indogermanisches Etymologisches Woerterbuch", by Julius Pokorny
Francke Verlag (Tuebingen und Basel)
また、ドイツ語のラテン語の辞書では次の本が詳しい。
"Ausfuehrliches Handwoerterbuch, Lateinisch-Deutsch", by Karl Ernst Georges
Hahnsche Buchhandlung
"Enzyklopaedisches Woerterbuch der latainischen und deutschen Sprache, Lateinische-Deutsch", by Menge-Guethling Langenscheidt
また、フランス語のラテン語の辞書では次の本にはイラストがたくさん入っていて、また引用文にフランス語訳がついているので、私のような初心者には使いやすい。
"Dictionnaire illustre latin-francais", by Felix Gaffiot.
Hachette
逆に現代語からギリシャ語を調べるには、次の2冊の辞書がある。
"English-Greek Dictionary", by S.C. Woodhouse
Routledge
"Taschen-woerterbuch, Altgriechisch", by Hermann Menge
Langenscheidts
また、古典ギリシャ、ローマの参考書としては次の2冊がある。
"Der Kleine Pauly", by Ziegler, Konrat und Walter Sontheimer (Hrsg.):
Dtv
Lexikon der Antike. Auf der Grundlage von Pauly's Realencyclopaedie der classischen Altertumswissenschaft unter Mitwirkung zahlreicher Fachgelehrter bearbeitet und herausgegeben von Konrad Ziegler und Walther Sontheimer. Fuenf Baende.
"The Oxford Classical Dictionary", by Simon Hornblower, Antony Spawforth
Oxford University Press
これらの辞書を使っていて感心するのは、いずれも作られてからすでに150年近く経っているのに、いまだにその知性の光芒が衰えていないことである。当時の比較言語学のレベルの高さが分かるとともに、古典語を学ぶ人が少なくなった現在も、なお出版しつづける会社の、ヨーロッパ文化の粋を維持する高い心意気が感じられ、非常に好感がもてる。
私のギリシャ語やラテン語のレベルは掛け値なしに不十分であるが、辞書だけは以上に挙げた以外に、L&Sの希英大辞典や Lewis & Short の羅英辞典や、綴りをオーソドックスに変えたため非常に使いづらい Oxford のラテン語辞典も自宅には備えてある。そういった訳で、とりあえず図書館にいくことなく、自分の持っているだけの辞書で用が足りるようにはなっている。
(続く。。。)
自作のギリシャ語エントリープログラムと Perseus 2.0 を使い、プルタークの対比列伝(Parallel Lives)を快適に読み進むことができた。しかし Perseus 2.0で辞書のエントリー語を見つけたあとは、Perseus についている、 Liddell & Scott の Intermediate Greek-English Lexicon だけでは物足りなく、紙の辞書も頻繁に活用していた。
それと言うのも、『ヨーロッパにまで辞書を買いに行った話』に書いたように、以前フランスで、非常に良い希仏辞書を買ってきたからである。それは、
"Dictionnaire Grec-Francais", by V. Magnien M. Lacroix
French & European Pubns
この辞書の特徴は、意味が多岐に渡る単語には、意味の関連づけを一目でわかるチャートが付いていることである。ざっと見てどの意味に近いかを見つけて、詳細を後でじっくりと読むことで、能率よく辞書をひくことが可能となる。さらに私のような初心者にとって便利なのは、引用されているギリシャ語の例文には、かならずフランス語訳がついていることである。私は正直なところ、フランス語を完全に読めるわけではないので、分からないフランス語は辞書をひきながら読まないといけないが、それでも非常に助かった。
世の中で、希仏辞書というと、
"Le Grand Dictionnaire - Grec Francais", by Anatole Bailly
Hachette
が挙がる。書評によると、Bailly のこの有名な辞書は内容以前に、フォントがつまって読みにくいレイアウトで不評のようだ。しかし、私はこの辞書によって、ギリシャ語の単語の互いの関連やその語源に興味を持つに至った。即ち、発生順序などを無視すると、辞書のエントリーの観点から言うと、ギリシャ語の中核は『動詞』である。その動詞からたくさんの名詞が派生している、あるいは、関連付けられている。先ほどの L&S にも多少はこの観点の記述があるがこの Bailly は大抵の語句にそのような語源関連の説明が付いている。それで、ヨーロッパに辞書を買いに行く前には、L&S とこの Bailly を持っていたが、Bailly の方を参考にすることが多かった。
ギリシャ語の語源に興味を持って、探していると、次の2冊の本に巡り会った。
"Griechisches Etymologisches Woerterbuch", by Hjalmar Frisk
Carl Winter, Universitaetsverlag (Heidelberg)
"Grundzuege der Griechischen Etymologie", by Georg Curtius, 1879
Teubnerher (Leipzig)
これらはいづれもドイツ語の本であるが、英語ではこれに匹敵する本が私が探した範囲では見つからなかった。後者の Curtius の本は、今から100年以上も前に作られたので、その後の比較言語学の研究によって内容にかなりの間違いがあることが指摘されている、という。
ギリシャ語の語源に興味をもって探していると、独希辞書で私の要望にぴったりの辞書を見つけることができた。
"Grosswoerterbuch Griechisch Deutsch", Prof. Dr. Hermann Menge
Langenscheidts
Menge は Otto Guethling のギリシャ語の辞書をベースに、語源に関する情報を詳しく追加した辞書を作った。私のギリシャ語とラテン語の語源に関する限り、彼の2冊の辞書が一番満足のする情報を与えてくれ、現在のところ一番多用している。
また独希辞書はこれ以外に次の辞書を保有する。最後の Pape の辞書は分厚く私の知る限り、ドイツ語で書かれた古典ギリシャ語の中では一番詳しい。これはちょうど、英語の L & S の大型版に該当すると言えよう。
"Taschen-woerterbuch, Altgriechisch", by Hermann Menge
Langenscheidts
"Benselers Griechisch - Deutsches Schulwoerterbuch", by Adolf Kaegi, Gustav E. Benseler.
Saur
"Griechisch-Deutsches Handwoerterbuch", by W. Pape
Akademische Druck Universitaet Verlagsanstalt
ついでにラテン語についても触れておきたい。
ラテン語の語源関係では次の本がある。2番目の本は、ギリシャ語やラテン語だけではなく、ほとんど全ての印欧語を網羅している、いわば比較言語学史上の金字塔的な辞書である(と私には思える)。
"Lateinisches Etymologisches Woerterbuch", by A. Walde und J.B. Hofmann
Carl Winter, Universitaetsverlag (Heidelberg)
"Indogermanisches Etymologisches Woerterbuch", by Julius Pokorny
Francke Verlag (Tuebingen und Basel)
また、ドイツ語のラテン語の辞書では次の本が詳しい。
"Ausfuehrliches Handwoerterbuch, Lateinisch-Deutsch", by Karl Ernst Georges
Hahnsche Buchhandlung
"Enzyklopaedisches Woerterbuch der latainischen und deutschen Sprache, Lateinische-Deutsch", by Menge-Guethling Langenscheidt
また、フランス語のラテン語の辞書では次の本にはイラストがたくさん入っていて、また引用文にフランス語訳がついているので、私のような初心者には使いやすい。
"Dictionnaire illustre latin-francais", by Felix Gaffiot.
Hachette
逆に現代語からギリシャ語を調べるには、次の2冊の辞書がある。
"English-Greek Dictionary", by S.C. Woodhouse
Routledge
"Taschen-woerterbuch, Altgriechisch", by Hermann Menge
Langenscheidts
また、古典ギリシャ、ローマの参考書としては次の2冊がある。
"Der Kleine Pauly", by Ziegler, Konrat und Walter Sontheimer (Hrsg.):
Dtv
Lexikon der Antike. Auf der Grundlage von Pauly's Realencyclopaedie der classischen Altertumswissenschaft unter Mitwirkung zahlreicher Fachgelehrter bearbeitet und herausgegeben von Konrad Ziegler und Walther Sontheimer. Fuenf Baende.
"The Oxford Classical Dictionary", by Simon Hornblower, Antony Spawforth
Oxford University Press
これらの辞書を使っていて感心するのは、いずれも作られてからすでに150年近く経っているのに、いまだにその知性の光芒が衰えていないことである。当時の比較言語学のレベルの高さが分かるとともに、古典語を学ぶ人が少なくなった現在も、なお出版しつづける会社の、ヨーロッパ文化の粋を維持する高い心意気が感じられ、非常に好感がもてる。
私のギリシャ語やラテン語のレベルは掛け値なしに不十分であるが、辞書だけは以上に挙げた以外に、L&Sの希英大辞典や Lewis & Short の羅英辞典や、綴りをオーソドックスに変えたため非常に使いづらい Oxford のラテン語辞典も自宅には備えてある。そういった訳で、とりあえず図書館にいくことなく、自分の持っているだけの辞書で用が足りるようにはなっている。
(続く。。。)