《試練》――現在史研究のために

日本の新左翼運動をどう総括するのか、今後の方向をどう定めるのか

友への手紙――激動する情勢の核心問題をえぐる(下)

2014-01-17 22:41:53 | 資本主義論・帝国主義論・共産主義論
(前からつづく)
2 日米同盟の現在について

 ところで、こう書いてくると、日米関係について異論を唱える方がおられるかもしれません。

「ちょっと待ってくれ。この間の安倍政権の動向をみていると、一層対米追随姿勢が強まっているように見受けられる。例えばシリア空爆だ。シリアの化学兵器使用が問題化された時、アメリカは即座に空爆を呼びかけた。だが国際世論はそれにどう応えただろうか? 帝国主義諸国は同意したのか? 否、共同歩調を取らなかった。ドイツはもちろん、アメリカ最大の『理解者』であり最強の同盟者であるイギリスも、議会で参戦を否決した。その窮地に陥ったアメリカを救ったのが、日本だ。日本ははっきりと『空爆支持』を表明したのだ。唯一フランスが『どちらかと言えば支持』と弱々しく態度表明しただけで、アメリカ支持を表明したのは、この2国だけだった。
 さすがにオバマも空爆を強行できず、『化学兵器の処理』案へと後退せざるをえなかった。『落ち目の米帝』に各国帝国主義が一定の距離をとり始めたなかで、日本帝国主義だけが、忠犬よろしく追随している。これをどう見るのか?」

「まだある。昨年10月23日、元CIA職員スノーデンが持ち出したNSA(米国安全保障局)の機密資料がそれだ。そこにはメルケル首相の携帯番号など、世界の要人の電話番号が登録されていた。ドイツのメルケル首相は烈火のごとく怒り、直通電話でオバマに対し、『このような監視があってはならない。両国間の信頼を破る行為で、重大な結果を招くことになる』と厳しく抗議をした。さらには、メデイア、マスコミにも公表し、アメリカのスパイ行為を弾劾した。
 ところが同じく大使館・米軍基地などを盗聴されていた日本政府の取った態度はどうだったのか。小野寺防衛大臣は、『そのような報道は信じたくない』『同盟国間でそんなことはありえない』とコメントしただけで、抗議も批判もしなかった。いくら同盟国といっても『あまりにも卑屈すぎる』との声が上がった。
 1994年当時、日米両政府は、経済摩擦とりわけ自動車産業の軋轢を解消すべく貿易協定締結の交渉中だった。この時、盗聴された橋本竜太郎通産大臣(当時)は『決して愉快なことではない』と不快感をマスコミに表明した。約20年前でさえこのように抗議した。その当時と比べて、明らかに対米姿勢は後退している。」
「イラン空爆ならびに盗聴事件は、明らかに対米追随姿勢を強めている証拠だ。竜氏はこの事実をどう考えるのか?」

 こういった反論が聞こえてきそうです。
 確かにその通りです。ご指摘のように、アメリカへの追随・追従をより一層示しているのも事実です。しかし、それだけに目をとらわれてはなりません。冒頭書きましたように、日米同盟を日本側の主導権で強めようとしているのも事実です。アメリカの制止を聞かずに國神社参拝を強行したのも事実だし、首相官邸内での『アメリカに強く物申すのだ』という空気も事実です。さらには、『なぜ今国有化しなければならないのか』とのアメリカの疑問と反発を無視して釣魚台(「尖閣列島」)国有化を宣言したのも事実です。アメリカが「猶予と懸念」「慎重に」との声明を発表したのを無視し、中国との関係を悪化させているのも事実です。
 これらの相反する二つの事実をどう見るのか? どう位置づけ、どう分析するのかが極めて重要になります。

 この場合、日米両帝国主義の関係とその展開を現象論や力学論だけでみては何も核心をつかめないと思います。
 世界史あるいは戦後世界は、大きく変転してきています。その中で日本帝国主義がどのように動こうとしているのか、その一つとしての安倍政権の凶暴性と破滅性を歴史的・構造的にとらえなければならないでしょう。

 今日の世界史あるいは世界および日本を規定している要因は、少なくとも次のようなものです。
・1991年ソ連スターリン主義の崩壊。それによる戦後世界秩序の根本的瓦解。
・チェルノブイリ原発事故と3・11福島原発事故が突き出した原子力開発の現代的・人類史的な過ち、すべてを飲み尽くすような大きさ。反原発の運動の奔流が世界的にも日本的にも最大の情勢決定要因化し、支配階級の分裂さえ引き起こすこと。
・帝国主義の継起的な世界金融恐慌情勢。
・アメリカによるグローバリズムの展開とその行きづまり。経済政策としての新自由主義の限界の露呈。
・中国の政治的・経済的・軍事的な大きさの前面化とその底流にある中国大乱の恒常的危機。
・南北朝鮮をめぐる戦争状態の継続および激化、韓国・朴槿恵体制による強権支配の絶望的強化、北朝鮮・金正恩大粛清体制の危機、そして同時に南北分断の軍事的固定化を下から突き破る民族統一・南北統一の抑えがたい胎動の激化。
・01年9・11反米ゲリラ戦の炸裂と9・11以後情勢としてのパレスチナ・中東・アラブ人民の歴史的な解放闘争の展開。
・アメリカのイラク侵略戦争(03年8月~11年12月)における歴史的な敗北。アメリカ帝国主義による世界支配力の決定的な衰退。
・アラブの春(10年12月~)以後情勢の展開。
・アフリカ問題の世界史的な再前面化。
・その他。

 日本帝国主義は安倍政権に具体化されているように、独自の対米対抗的な戦争国家化のものすごい衝動を秘め、かつ強めています。それは、ほんとうに東アジア情勢における戦争放火者として暴走しかねないものであることについて、危機感と怒りをもって、直視しなければなりません。
 しかし同時に、その安倍政権は、(a)対米関係において、(b)中国・韓国・北朝鮮という対アジア関係において、(c)いったんは自民党政権から民主党政権への政権交代を実現し、かつ反原発を軸に反戦、反改憲、反貧困、反失業、反差別の根強いたたかいの再生産構造をもつ労働者人民および在日アジア人民との関係において、(d)上記したような転変する世界情勢への対応において、まがりなりにも「国家戦略」「世界戦略」と呼べるものをつくり出しえていないのです。
 つまり、戦後日本の支配階級においては、日米安保同盟政策がほとんど唯一の世界政策としてありました。そして、1990年代以降、日米はその再編、見直しを重ねてきています(詳しくは別の機会に)。
 それに対して、第一次安倍政権は「戦後レジームからの脱却」を標榜したものの、挫折しました。現安倍政権もそれを引き継いではいるのですが、日米安保に代わる世界政策を形成できずに、もがいています。安倍の言う「積極的平和主義」も、正確には「国際協調主義に基づく積極的平和主義」と規定されています。日米安保体制から完全に離陸することはできないのです。そこには安倍政権の抱える矛盾があります。
 したがって、安倍および安倍政権の凶暴性と、その背後にある破滅性を統一的にとらえることが肝要かと思います。

3 奇襲とルール無視の特定秘密保護法成立

 12月6日特定秘密保護法案が国会で強行採決されました。稀代の悪法が国会を通過したわけです。しかし、公布から1年以内に施行となっており、この悪法が効力を発揮するまで若干の時間があります。この悪法を廃止に追い込むためにまだ時間が残されています。大衆運動を盛り上げて、何としても廃止にしましょう。60年安保闘争や70年安保・沖縄闘争がそうであったように、全国各地で反対運動を巻き起こし、その力を国会に集中し、国会を数万、数十万のデモの隊列で包囲しましょう。

 安倍はこの悪法を成立させるために、綿密に策を練り上げ、用意周到に準備していました。夏の参議院選挙の選挙公約には勿論入っていませんでした。そして「ねじれ」が解消して初めての国会を「成長戦略実行国会」と位置づけ、22分間の所信表明の70%を経済政策に費やし、この悪法に関してはおくびにも出しませんでした。野党各党も同じでした。直前に生じた福島第一原発の汚染水漏れを重大視し、「汚染水対策国会」と位置づけ、その追及に的を絞っていました。今では想像できないですが、自民党に擦り寄ったあのみんなの党渡辺代表さえも「このような情況で原発再稼動など問題にならない」と語気を強めたほどでした(10月17日、国会代表質問)。
 しかし、事態は一変しました。10月25日の閣議で国会提出を決定。そして国会審議になりました。ここでも安倍はルール無視の禁じ手を使いました。重要法案は臨時国会で扱わず、通常国会で審議する。これが与野党間の暗黙のルールでした。短期間の臨時国会で重要法案を審議するのは物理的に無理であり、臨時国会は、あくまでも事務的処理だけに止めるというのが、国会の「運営ルール」でした。また野党も「まさか53日間の短期間で成立までもっていくまい」「本格的議論は次の通常国会だ」との油断がありました。
 東アジア情勢の強まる激動と緊張、アベノミクス効果の限界露呈、その中での帝国主義国日本の危機的現状、そこからくる安倍のあせりと焦燥感、さらには安倍のゲバルト性(強権政治志向)への過小評価が、野党各党にあったと思われます。こうしてこの悪法は、奇襲とクーデター的手法を駆使して国会を通過しました。
 関連するので書き置きますが、10月25日の閣議議事録はありません。この時だけでなく、およそ閣議の議事録を残さないのが日本の流儀です。世界広しといえども日本だけです。他国ではしっかりと議事録を取り、一定期間の後には公開されています。3・11大震災直後の閣議議事録も「消失」と言われていますが、実際は議事録を取っていなかったと思われます。

 この悪法の問題点を4点にわたって書いてみます。

●「平成の治安維持法」である

 この悪法が、個人の思想調査、身上調査に先鞭をつけることは、すでに指摘されているところです。秘密保持を名目に、国家公務員ならびに担当民間人だけを対象にすると言い逃れをしていますが、やがて日本人全てと在日外国人をリストアップすることは明白です。思想・身上調査に道を開くという意味で、極めて危険な治安立法です。石破自民党幹事長が反対する国会デモをテロ呼ばわりしたことに端的に現われているように、表現・言論の自由を侵害する憲法違反でもあります。
 まさしく「平成の治安維持法」であり、廃止以外ありません。
 
●情報隠蔽、とりわけ原発事故隠しの犯罪性

 福島第一原発事故が起こった時、メルトダウンやスピーデイ(SPEEDI= 緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)などの情報が、生命を危険にさらすがゆえにいち早く知らせ、避難と対策を講じねばならないのに、意図的に隠蔽されました。その結果、多くの人が被曝しました。政府は「無用な混乱と疑心暗鬼を生起させないため」と情報隠しを正当化しましたが、轟々たる非難を浴びました。
 福島の人々を始め多くの市民が「この悪法は原発事故隠しを意図したものではないか」との不安を感じているのは全く正しいですし、そうであるがゆえにあれだけ多くの労働者人民が反対の声をあげ、デモに立ちあがったのです。

●意図的な情報流しによる民心掌握

 これは余り指摘されていないことですが、情報操作による民心掌握という卑劣な面もあります。『図書新聞』1月1日号に「響きあう日韓のファシズムを正面突破せよ」との寄稿があります。筆者は徐勝(ソ・スン)さんです。彼はその中で、昨年の韓国大統領選挙に触れ、こう書いています。少し長いですが全文引用します。

「昨年の大統領選の最終局面で、盧武鉱(ノ・ムヒョン)大統領と金正日(キム・ジョンイル)委員長が08年10月に行った会談で、NLL(北方限界線)を盧大統領が北朝鮮に譲歩し、国益を売り渡したとの宣伝が与党議員によってなされ、盧大統領の秘書室長であった文在寅(ムン・ジェイン)大統領候補の攻撃材料に使われた。実は、大統領選挙の局面反転のために、国家機密として大統領文書館に保存されている会議文書を元世勲(ウォン・セフン)国家情報院(元KCIA)長が与党議員にリークし、改ざんしたものだった。……国家情報院や韓国軍の情報司令部が2200万件ほどのインターネットやツイッターの書き込みをして、野党や政権批判勢力を『従北勢力』(北朝鮮への追随勢力=アカ)と中傷誹謗した。これによって野党大統領候補に不利、与党候補に有利な世論を誘導した」

 つまり、特定秘密保護法により「公開されないはずの情報」が、権力者によって改ざんされ、捻じ曲げられ、180度正反対の情報として流されるという危険性です。これは大いにありうることだと考えています。今回特定秘密保護法とセットで立法化された国家安全保障会議は、アメリカにおけるCIA、韓国におけるKCIAに相当する情報機関になる危険性を有しており、とうてい許されるものではありません。現在の「内閣調査室」とは全く異なる規模と権限を有するJCIAへと変貌するのではないかと危惧しています。

●戦争はあらゆることを秘密にする

 最後に。特定秘密保護法は、日米共同作戦を遂行するために作戦上の軍事機密を秘匿し、沖縄米軍基地を強化し、日米安保同盟を一段と強化するものとしてあります。だから、“何が秘密事項に該当するのか”を明白にさせないのです。これが重要な問題であることは多くの方々が述べてこられたことです。逆に言えば“何を秘密にしてはいけないのか”が定められていないのです。これがこの悪法の最大の問題であり、「法的に不備がある欠陥法」であるといえます。
 戦争は、現代の総力戦がすべてそうであるように、あらゆることを秘密にして準備され、発動されるのです。
 「国会で作られた法律は、国会で廃止にできる」。これを合言葉にして廃止に追い込みましょう。

4 名護市長選挙に勝利しよう

 いよいよ名護市長選挙が間近に迫ってきました。1月11日の夕方のテレビで「政府は辺野古移転を断念せよ」「仲井真弘多知事は、公約違反の責任を取り辞職せよ」との決議を、沖縄県議会が賛成多数で可決との報道がなされました。自民党沖縄県連の「移転容認」、さらには仲井真県知事の承諾と矢継ぎ早の攻撃に、「うーん、名護市長選どうなるのかな」と不安な気持ちにさせられたのも事実です。しかしこの朗報は、不安を一掃してくれました。
 相撲で言えば、土俵のとく俵に足が掛かった状態から土俵中央へと押し戻した、いわば五分と五分、いえ、勢いから言えば優勢と言えましょう。沖縄県民の不屈の精神に心からの敬意と連帯の意志を表したいと思い、些少ですがカンパを送らせていただきました。

「琉球・沖縄史を通じ、沖縄に犠牲を強要する側におもねり、喜々として沖縄を差し出すかのような人物が、沖縄を代表する立場だったことは一度もない。だから、あの知事の姿は信じがたかった。だが沖縄は過去17年も埋め立てを許していない。そもそも沖縄の戦後史ほど、意思的に民主主義を獲得し、自力で尊厳を回復してきた歴史は、世界的に見てもそうない。沖縄の民意の力を信じよう。」
「今こそ国際社会に訴えるときだ。われわれだけでなく次世代の、子や孫の命と尊厳がかかっているからだ。日米両政府が沖縄に差別と犠牲を強いる姿勢を変えようとしないから、政府任せで打開はあり得ない。解決策は沖縄の自己決定権回復しかない。」
(1月3日 沖縄タイムス社説)

 「沖縄の民意の力を信じよう」「解決策は沖縄の自己決定権回復しかない」
 この言葉の何と力強いことでしょう。そして同時に何と重い言葉でしょう。「また沖縄の人たちへ重い荷を背負わせてしまった」との自責の念もあります。
 沖縄の人たちの問いかけに何としても応えよう。その一念で己を奮い立たせています。

 環境アセスメントに関しても一言。
 仲井真知事は米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設にともなう埋め立て承認に関して、「保全処置が講じられている」という一言ですませました。環境アセスメントで「保全は不可能」と自ら言っておきながら今度は態度を一変。この変節に環境保護団体、ならびに関係者から「支離滅裂であり、無茶苦茶である」「埋め立ての可否が知事の独断で決まるなら、埋め立て法はいらない」との怒りの声があがりました。仲井真知事のご都合主義。本当に腹立たしい限りです。

 最後に。今日(12日)のフジテレビの番組で礒崎陽輔首相補佐官tweets が、集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈の変更について「国会が終わってからでは敵前逃亡な感じがあるから、国会中にしっかりと決めたい」と述べ、6月22日が会期末の次期通常国会中に政府は踏み切るとの見通しを明らかにしました。
 矢継ぎ早の攻撃です。われわれも退路を断ち、性根を据えて闘うべき時期がきたようです。

2014年1月12日          
竜 奇兵(りゅう・きへい)

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