《試練》――現在史研究のために

日本の新左翼運動をどう総括するのか、今後の方向をどう定めるのか

友への手紙――自民党安倍政権と橋下維新の会、そしてその後に来るもの

2013-05-03 01:56:04 | 資本主義論・帝国主義論・共産主義論
友への手紙――自民党安倍政権と橋下維新の会、そしてその後に来るもの

1 はじめに

自民党安倍政権が誕生して、はや3ヶ月が経とうとしています。依然として7割前後の高い支持率を維持しています。就任直後は、幾らかの批判がありました。しかし、それも高い支持率の前に、口を閉ざし、静まり返っています。良心的知識人と呼ばれる人たちの多くも、沈黙を守っています。高い支持率の前に、頭を垂れ、屈しているかのように見えます。
この高い支持率の背景にあるのは、円安と株価の値上がりです。安倍政権への期待感が円安と株高となっており、実体経済は何ら変わっていません。いわば、願望と期待感がこの高い支持率を生み出しており、そういう意味では、虚構であり、蜃気楼だと考えております。
この虚構と蜃気楼が崩れ、期待とは裏腹のインフレと大失業が労働者民衆を襲い、イタリア、ギリシャを上回る国家財政の破綻に見舞われた時、自民党安倍政権は崩壊します。そして、その後に登場するのは誰か、いかなる歴史的位置と役割を占めるのか、そのあたりを展開してみたいと思います。十分論じきれずに問題意識の提示に止まるかもかもしれませんが、現時点での分析と予測を書いてみたいと思います。
感想を聞かせてください。

2 安倍批判の核心は経済政策批判でなければならない

安倍政権が登場して以来、幾多の批判がなされてきました。自衛隊の国防軍格上げ構想、防衛予算のGNP1%枠突破、集団的自衛権の承認、沖縄・辺野古新基地建設、日米安保同盟の強化、釣魚台(「尖閣列島」)と独島(「竹島」)という領土問題での排外主義的強硬姿勢、更には憲法改悪などなどです。これらは安倍政権の階級的本質を鋭く突いたものであり、重要な指摘です。軍事大国と右傾化路線であり、看過できない超ど級の攻撃であることはまちがいありません。
しかし、これだけでは不十分です。先ほども述べましたが、7割前後の高い支持率を突き崩すには政治批判、思想批判だけではだめです。経済政策批判を壊滅的に行い、幻想と蜃気楼を白日の下に暴きださないとだめです。なぜなら、安倍政権不支持の約3割の人たちは、われわれが口をそえなくても、安倍政権の本質を熟知している人たちです。今なすべきことは、それ以外の、安倍政権に期待し、何がしかの幻想を持っている人たちなのです。これを引っ剥がさない限り、安倍政権に打撃を与えることはできません

3 アベノミクスでは「雇用の創出」も「給与のアップ」も実現できない

まず「雇用の創出」から見ていきましょう。
2月1日の朝日新聞(夕)からの引用です。「日本の物づくり人口が1千万人を切った」との見出しです。昨年12月に、製造業で働く労働者が998万人になりました。最盛時の1992年には、1603万人ですから、ピーク時の約6割ということになります。長年にわたり雇用を支え、「中間層」を生み出してきた製造業が衰退の危機にあるというのは、深刻な事態を意味します。資本の空洞化は、ここまできているのです。確かに、円安で自動車を中心とした輸出業は伸びています。しかし、その多くが中国などアジア、中南米、アフリカ、アメリカ、ヨーロッパなど海外での製造であるため、いわゆる新興国の労働者への差別的な搾取を強めている一方で、国内の雇用の創出になっていません。自動車産業だけではありません。大手企業の大半は、工場を海外に持っており、いくら売り上げが伸びても、国内雇用に結びつかないのです。資本は国籍を問いません。労働力の安価な搾取を求めて、海外での生産=資本の海外流出=資本の空洞化はさらに今以上に進みます。新たな雇用どころか、失業率は今後さらに上昇していくと見なければなりません。
それと、見のがせないのは「金銭解雇」の策動です。金銭解雇が国会可決され、労働現場に持ち込まれれば、さらに失業者は増大します。安倍政権では、雇用の創出どころか、失業者はさらに増大します。
「給与のアップ」もそうです。「企業法人税減税→景気回復→給与アップ」のシナリオを安倍政権は宣伝していますが、とんでもない欺瞞です。確かに企業の利潤は増えるでしょう。しかし、その利潤は決して労働者の給与に回りません。なぜか。企業は内部留保するからです。とくに今の大資本は、他企業の買収で資本増加をなしとげており、そのための資金=多額の内部留保を追求するからです。経済のグローバル化が進んでいる現在、他企業買収のチャンスに備え、巨額の内部留保を抱え込んでいると言われています。かつて1960年代後半、「いざなぎ景気」で沸き立っていた時がありました。好景気が続き、右肩上がりで経済が伸びていきました。しかし企業はその利潤を賃金に回さず、内部留保で溜め込みました。その結果貧富の差が拡大しました。
上述の資本の海外進出にしても、資本の内部留保にしても、資本の宿命です。資本が資本である以上、決して止むことのない自己運動です。
こう書いてくると、「それは違う。そうならないように、安倍さんは企業に労働者の給与を上げるよう勧告している」という人がいるかもしれません。確かにそうです。マスコミはそう報じていました。そしてそれを受けて、春闘のさなか、自動車産業と金属労協の経営陣から「高回答」があったことも事実です。
しかし、この「高回答」の中身はどうでしょうか。給与体系の基本である基本給は据え置きで、ボーナスが増えただけでした。つまり、お情けで、膨大な利潤をちょっぴりおすそ分けしたに過ぎません。資本が痛手にならない程度に! さらに、自動車産業とそれに関連する金属労協傘下の労働者は、全労働者人口の何割でしょうか? 正確なデーターは有していませんが、1%以下なことは明白です。残された99%の労働者にとって、賃上げも給与改善も関係ありません。わずか1%の施しで、あたかも全労働者の賃上げが実現できたかのようにふるまう。そして「金銭解雇」で首を切っていく。これがアベノミクスの正体です。

4 アベノミクスのもたらすもの――生活苦と国家財政の破綻、そしてそう遠くない大インフレと大失業時代の到来

アベノミクスでは、「雇用の創出」も「給与アップ」も実現できないのは上に書いたとおりです。それどころか、生活保護費の削減、地方公務員給与カット、加えて円高によるガソリン値上げ、小麦粉を中心とした輸入食品等の高沸が生活を直撃しています。さらに5~6月の景気動向で秋口に消費税をアップするといわれています。多分、そうなるでしょう。つまり、給与もあがらず、新たな雇用もないまま、物価の値上がりと消費税アップが庶民を襲うという構図です。朝日新聞3月31日付けの朝刊によると、8%の消費税と日銀目標の「年間2%の物価上昇」が4年間続けば、4年後の物価は10%アップになるという予測分析をしています。給与は上がらず、物価だけが10%上がる。それこそ大インフレ時代の幕開けです。

経済成長戦略に関しても、曖昧さなく完膚なきまでに批判しつくさなければなりません。この20年間で、自民党および民主党は、公共事業中心の景気対策を22回行い、100兆円を使いました。だが、デフレからの脱却も景気の上向きも実現できませんでした。今回10兆円の予算が組まれましたが、赤字国債=借金が膨らむだけです。アメリカのジャーナリストがこう言っています。「日本は財政再建をする気があるのか。安倍政権を見ていると、そうは思えない」、「今回の赤字国債発行で、日本の財政は危険水域に突入した」、「日本の国債は低落し、世界の金融業者の餌食になるだろう」と結論づけています。

多くの人々の期待を担って出発した安倍政権も、大企業を潤すだけで、新たな雇用も給与(生活水準)のアップもできず、失速するでしょう。後任の自民党政権も同じです。誰が総理総裁になろうとこのジレンマから脱却できません。

5 「日本維新の会」の階級的役割と占める位置

ここで登場するのが「日本維新の会」です。経済界・財界とのしがらみで、自民党ができなかった荒療治をします。かつて橋下はこう言いました。「お金持ちに年金をあげる必要はありません」、「一定の額以上の資産をお持ちの方には年金を遠慮してもらう」と。これは私有財産制度のある意味での否定です。同じ発想で資本に制約を課します。内部留保は総資本の何%以下にする。資本の海外進出は総資本の何%以下にする。資本の自己運動=利潤追求に制限を加えるわけです。私有財産に手をかける橋下ですから、資本=大企業をも従わせるゲバルト発動をちゅうちょしないと思います。何より、それを庶民が支持します。「金持ちの年金ストップ」など、やんやの喝采です。自民党でもなしえなかった大企業と金持ちへの制裁をやりとげたということで、一躍ヒーローです。これを契機に、日本維新の会が一挙に権力に上りつめると、私は予測しています。そして、言語に絶する恐怖政治が始まる……。確かに今は「自民+維新+みんな」ですが、維新の会はその階級的基盤も階級的役割も自民党などとは違うと見ています。
 
6 日本維新の会はどこへ行くのか? 橋下とは何者なのか?

これまで橋下に関していろいろ言われてきました。いわく「ハシズム」。いわく「ポピユリズム」。しかしいずれも情緒的かつ一面的であり、科学的解明とは言いがたいと考えています。また、橋下批判も様々なされてきました。「組合つぶしの橋下」、「日の丸・君が代攻撃の橋下」、「改憲論者の橋下」などなど。いずれも正しいし、重要な指摘です。ただ、それらの攻撃を通して、橋下は何をめざしているのか、いわば橋下の全体像、トータルな橋下論はまだ提起されていないと考えています。
一つには、時期尚早ということがあります。まだ彼の本質、本領が開花していないと見るべきでしょう。トータルな判断を下すには、資料不足であるのです。従って、その全体像に関しては、今後の彼の行動とそれを規定する全体の政治・経済情勢を注意深く見ていくことにします。
橋下という政治的・党派的個性は、あらかじめ定まったものではありません。21世紀現代の世界と日本の帝国主義の深刻な危機とその下での労働者民衆の過酷な労働と生活の現実、そこからのやり場のない不満、不条理への怒り、非合理な情念といったものが、橋下と維新の会という独特の政治運動を生み出しているのです。
ただ、現時点で言えることは、橋下は従来の保守(自民党)の系統をくむ政治家ではないということ、既成の資本家的価値観の擁護者ではなく、むしろその「破壊者」であるかのようにして登場してきているということです。そこに「橋下人気」の根拠があり、橋下自身がそこを自覚的に武器として使っています。従って、自民党の先兵でも、補完物でもないのです。これは、橋下論を展開していく上で、決定的に重要な視点です。

かつてこういう形で歴史に登場してきた人物が一人います。アドルフ・ヒットラーです。ヒットラーは、第1次大戦後のワイマール共和国の崩壊のなかで、資本家階級の擁護者であったヒンデンブルグが退場したあと、大統領になりました。それも、軍事クーデターを行使してではなく、選挙によって、つまり国民の支持を得て権力を手に入れました。
ヒットラーについて語るとき、ユダヤ人への人種差別、アウシュビッツの虐殺、国会放火事件などが語られますが(そして、それらは決して忘れてはならず、大罪として歴史に留めておかねばならないのですが)、ある意味ではそれ以上に関心を持たねばならないのが、「なぜドイツ国民が彼を支持し、彼に権力を与えたのか」、「なぜ強力な勢力であったドイツ共産党がヒットラーを過小評価し、その権力への道を掃き清めることをしたのか」、つまり、権力奪取の要因とプロセスだと思います。
キーワードはインフレと失業率だと考えています。第1次大戦後のドイツのインフレと失業率は凄まじく、失業率は30%にも達していました。このナチスが政権をとる過程(ワイマール共和国の崩壊過程)と現在を重ね合わせ、現在と当時を比較検討することで、橋下の全体像を浮かび上がらせることができればと考えています。そこに挑戦したいとおもいます。

前回の衆議院選挙での橋下の手法は注目に値するものでした。彼が候補者を集め、政治塾を開いたのはよく知られているところですが、その内容は凄まじいものでした。公開討論会では、いかにして対立候補をこき下ろすのか、相手が発言の途中であろうがさえぎり、誹謗中傷を浴びせ、黙らせてしまう。事実か否かはどうでもよく、悪印象を与えるためには、デマを繰り返す。そういった手口を短期間で教えていったのです。「嘘も百回言えば真実となる」――まさしくナチスの手法であり、作風です。
ナチスが政権を掌握する過程とワイマール共和国の崩壊過程を、政治と経済の両面から分析する。これが橋下論構築の重要な手がかりになると考えています。橋下はヒットラーになるのか否かの方法論だと考えています。

2013年4月2日
竜 奇兵(りゅう・きへい)

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