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《試練》――現在史研究のために

日本の新左翼運動をどう総括するのか、今後の方向をどう定めるのか

日経新聞を読み解く~エジプトの軍事クーデターとパレスチナ解放をめぐって

2013-08-15 22:11:00 | 中東・北アフリカの政治経済―世界の動きⅥ
日経新聞を読み解く~エジプトの軍事クーデターとパレスチナ解放をめぐって

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 エジプトの軍事クーデターの記事を読みながら、いつも「中東・アラブ諸国の解放はパレスチナの解放なくしてありえない」と考える。

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 先日、エジプトでの7月3日の軍事クーデター後に、朝のテレビ報道番組にエジプト出身でアレキサンドリアに住んでいるタレントのフィフィさんが出演し、エジプト軍を批判していた。彼女は、別にモルシ大統領の強烈な支持者ではないが、軍部の利権政治に反対している。ムバラクは倒された後も、裁判にかかってはいるが、優雅な生活で復権を狙っており、今回の軍部主導の暫定政権は利権政治の復活であり、そもそもムバラク残存抵抗勢力を1年たらずでは一掃できるはずもない、とモルシ政権を擁護していた。そして、観光産業だけではエジプトに未来はない、と一生懸命に訴えていた。私の友人は、彼女はマスコミから干されていると教えてくれた。
 エジプトは、ムバラクを倒したが軍部独裁政治は継続している。40~50万人の兵力を持つエジプト軍は、強大な経済利権も維持している。モルシは選挙で選ばれたが、国の官僚や行政はかつてのムバラク政権時代のままであり、とりわけ裁判所は、ムバラク時代に任命された裁判官で構成され、軍部と結託しており、選挙で選ばれた国民議会を違法として解散させた。
 エジプトの経済危機は凄まじい。外貨準備が減少し、通貨エジプトポンドの価値は下落し、小麦など主食を輸入に頼るエジプトは、輸入品の価格上昇に加えて、政治不安から稼ぎ頭の観光客の減少など、経済が窮地に追い込まれ、とりわけ若者の失業が目立っている。IMFは、40数億ドルの支援交渉で、モルシ政権に対して欧米の軍門にくだらなければ支援しないといたぶっている。

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 今回のエジプトをめぐる事件は、6月30日以降、エジプト各地で若者たちを始めとする反モルシの大規模なデモが起きるという状況に介入した、シシ国防相をはじめとする軍部によるモルシ政権打倒の軍事クーデターである。「アラブの春」ともてはやされた独裁政権打倒の民衆の行動とは完全に敵対する反革命軍事クーデターである。
 暫定政権は、エジプト軍部がでっち上げた軍事クーデターを隠すイチジクの葉でしかない。暫定大統領は、ムバラク時代に選ばれた反動裁判官であり、ムバラク打倒後に選挙で選ばれた国民議会を解散させた最高裁判所の反動判事だ。閣僚のエルバラダイは、ブッシュのイラク戦争を手引きした国際エネルギー機関IAEAの事務局長だった。
 暫定政権は、モルシ大統領の復権を求めるムスリム同胞団のデモに発砲し、多数の死傷者を出している。モルシ大統領が、2011年初頭のムバラクを追い詰める民衆の決起の中で、不当に拘留されていた刑務所から民衆の力で解放されたことを「脱獄」として罪に問うとしている。また、暫定政権の下で国民議会選挙が行われてもムスリム同砲団が勝利することが明らかなために、ムスリム同砲団幹部を不法拘束し、その資金を凍結している。シシ国防相をはじめとする軍部には何の正義も正当性もなく、あるのは軍事力だけだ。

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 米国はモルシ政権を嫌悪していた。オバマ大統領は、モルシ政権を同盟国とみなさないと公言し、オバマ再選後最初の外遊でイスラエル、トルコ、ヨルダンを訪問・説得した。とりわけオバマは、イスラエル・ネタニヤフ首相に3日間つきっきりで説得し、イラン攻撃の1年間の延期という米国のヘゲモニーのもとへの復帰と、トルコ首相に対してガザ支援船襲撃虐殺事件を電話で謝罪させ、そうすることで、米を軸にサウジに加えイスラエル、トルコ、ヨルダンで推し進める中東政策の体制を整えた。これはモルシ政権打倒の体制でもあった。
 昨年の11月、イスラエルはパレスチナ・ガザ地区へのミサイル攻撃を強行し、百数十人のパレスチナ人を虐殺した。この時、エジプトとガザの国境ラファからガザへの外国要人の訪問を容認し、ガザを孤立させず、イスラエルがハマスを相手にした停戦交渉を受け入れざるをえない情勢も、モルシ政権が準備した。それゆえオバマは、モルシ政権の存続に危機感を持っていた。

 米国国務省は、エジプトは軍事クーデターではないと正式に声明した。軍事クーデターの諸国への援助を禁止している国内法もさることながら、実際にヘーゲル米国防長官とシシ・エジプト国防相が密接な連携をとり、オバマ政権の容認のもとで軍事クーデターに踏み込んだのだ。年間13億ドル、経済支援も含めると15億ドルを、米国はエジプトの軍部に毎年渡している。軍部出身のムバラクが打倒された後も、エジプト軍部を財政で支えていた。米国はたてまえでは軍事クーデターは認められないとするが、しかし米国が中東支配体制を再確立するには、軍部によるモルシ政権打倒しかない。
 エジプトは国民の9割がイスラム教徒であることのみならず、ムスリム同胞団が第2次世界大戦後の軍事政権の樹立以降、長期にわたって非合法化されても「福祉とコーラン」で民衆の中に入り活動してきた基盤は、簡単には崩せない。軍部と暫定政権が「民主主義」を標榜して選挙をやれば、ムスリム同胞団の勝利は確実というジレンマにある。モルシ派の街頭デモを実弾で鎮圧する軍部のやり方に、米国も欧州も慌てた。オバマはバーンズ国務副長官と有力共和党議員などを慌ててエジプトに派遣し、EUもアシュトン外務・安保上級代表(EU外相)をエジプトに派遣し、「民主主義の外皮」作りに懸命である。暫定政権も、「ムスリム同胞団を暫定政権の閣僚に入れてもいい」などという「話し合い」路線をうちだした。だが、モルシ大統領の復職を求めるムスリム同胞団とデモ隊は応じるはずがない。軍部と暫定政権は「話し合い」路線を拒否したら、それを弾圧の口実に使おうとするのは明らかだ。

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 エジプトでの軍事クーデターを容認したオバマ政権は、中東和平交渉と称して、パレスチナ自治区の和平交渉担当者とイスラエルの外相をワシントンに呼び、中東和平交渉が再開されるかのような会議・演出を行っている。和平交渉の破綻の次には必ずイスラエルがガザ地区への大攻撃を繰り返してきた。08年から09年にかけてのイスラエルのガザ侵攻と大虐殺は、和平交渉の決裂の後に行われたことを絶対に忘れてはならない。今なおガザを封鎖し、170万人のパレスチナ人が福岡市くらいの面積の土地に閉じ込められている。

 ガザが封鎖されている状況を、日本にいる私たちが想像することは難しい。日本人の感覚でも分かるようなたとえはないだろう。あえてガザに住むパレスチナ人の状況を当てはめるとすれば、「炭鉱の落盤で坑道奥深くに閉じ込められ、地上とつなぐ一本のパイプで細々と送られてくるわずかばかりの食料が命綱であったチリの炭鉱事故の鉱夫たち」の状況と似ていると思う。しかし、それも甘い。ガザへの食料のパイプはイスラエルに握られ、閉じられている。危険極まりない、いつでもイスラエルが空爆で潰せるし、エジプトが水を流し込むラファの地下トンネルしかないのだから。
   
(6)
 今回の和平交渉のもうひとつの特徴は、日本政府が米国の和平交渉支援と称して全面的に乗り出していることである。岸田外相がイスラエルを訪問し、イスラエル・パレスチナ自治区(ガザを除くヨルダン川西岸地区)・ヨルダンの代表を集め、直接和平交渉への取り組みを斡旋した。パレスチナ自治政府への日本政府のわずかな支援金は、ヨルダン渓谷の農業支援の名目だが、占領下ではパレスチナ人に渡らずイスラエルが全部かすめとってしまうのだ。
 今年のはじめ、安倍晋三首相は、東アジアでのパレスチナ支援会議と称して、日本でパレスチナ自治政府や東アジア諸国を集めた会議を開催している。ここでも安倍政権は、パレスチナ自治政府への財政支援を表明しているが、大半は直接和平交渉が成功した暁に、という空手形でしかない。
 日本政府は、米国とイスラエルが掲げる無条件の直接和平交渉の手先となっている。そもそも「無条件での和平交渉」というが、イスラエルはパレスチナを今もなお占領し、国際法に違反し、ユルダン川西岸地区へのミサイルとブルトーザーでパレスチナ人を殺したたき出す入植活動を強行し、パレスチナの土地を略奪し続けている。イスラエルは、ミサイルでの無差別爆撃を繰り返し、また「反イスラエル活動家」と勝手にイスラエルが断定すればミサイルのピンポイント攻撃で暗殺する。バイクや車で走る活動家をピンポイントで爆撃する。当然周辺にいるガザの人々も巻き添えになり殺される。イスラエルは、この占領と封鎖と略奪と虐殺を今も繰り返しながら、パレスチナに対しては和平交渉に無条件で応じろという。
 それに対して、自分を縛り付けるその手を足をどけてくれ、そしたら話もできる、というパレスチナ人の話し合いの条件は不当なのだろうか。

(7)
 パレスチナ問題は、第二次世界大戦後の米国の世界支配体制のひとつの要だった。ソ連スターリン主義や中国スターリング主義との対決、ドイツの東西分断支配、ベトナムおよび朝鮮の南北分断支配、沖縄の軍事的分離支配などと共に米国の戦後支配の要をなしたのが、パレスチナ問題であった。中東戦争での圧倒的な軍事力を武器にパレスチナの地にイスラエルを「建国」し、パレスチナ人の土地を略奪し、追放したのである。
 パレスチナ問題は、朝鮮半島の分断問題と共に、戦後世界に生きる私たちが自分たち自身の手で解決しなければならない課題である。闘うムスリム人民との連帯は緊急の課題である。

2013年8月9日
博多のアイアン・バタフライ

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