《試練》――現在史研究のために

日本の新左翼運動をどう総括するのか、今後の方向をどう定めるのか

日経新聞を読み解く~アベノミクスが破綻するとき

2013-08-13 12:46:18 | 日本の経済―日本の動きⅡ
日経新聞を読み解く~アベノミクスが破綻するとき

(1)
 アベノミクスは破綻寸前だ。
 日銀総裁・黒田が「異次元緩和」を打ち出した時、すでに破綻の第1回目の芽は出ていた。長期金利の乱高下である。
 黒田は、長期国債の大量購入で長期金利の低下、銀行貸出の増加を狙ったが、完全に裏目に出た。アベノミクスの「2年で2%の物価上昇によるデフレの脱却」というシナリオを信じていない投資家は、長期国債の保有か、売却かで完全に分裂した。結果、乱高下する長期金利への恐怖と長期国債の品薄を警戒して長期国債は売られ、長期金利は「異次元緩和」前の水準に逆戻りしている。日銀の資金供給は、企業の貸付・設備投資に回らず、依然として日銀の当座預金口座を増やし続けているだけだ。
 破綻寸前の第2の芽は、デフレ脱却の3本の矢ともてはやされ、最大の注目を集めていた「成長戦略」が発表されたその日に、東証日経平均が500円もの下げを記録したことだ。「成長戦略」が何の説得力も持たない政策だったことを裏付けている。それは財政支出と金融緩和で新たなバブルを産み出すだけだ、と誰もが感じたのだ。
 そして、その破綻がいよいよ現実化するのが消費増税である。

(2) アベノミクスに浮かれ株高に酔っている投資家は、実は冷めている。日本の経済には、デフレを自力で脱却できるような強みは何もない。
 例えばもてはやされている「燃料電池車」も、そのための膨大な市場を作り出すインフラ投資の財源がない。戦後高度成長を支えた高速道建設と自動車産業の成長を保障した財源が今はない。ましてや米国のような「シェール革命」もない。
 アベノミクスに踊っている投資家は、「いつかアベノミクスは破綻する。それは、“財政出動、金融緩和で国家財政が破綻する”と誰かが言い出し、日本国債を売り出す時だ。その寸前に自分は売り逃げれば大丈夫」と腹の中で計算しているのが実情だ。
 つまりアベノミクスは結局、国家債務を増やし、南欧のように国家債務危機のデッドロックに乗り上げる。日本国債は90%超が国内投資家が保有しているから投げ売りにならない、などという保証は、誰も信じていない。
 現在、債務危機にあえぐ南欧諸国の一人当たりのGDP成長率は2002~07年にはギリシアが20%超、アイルランドが15%、スペインが10%で、米国・日本の10%弱を超えていたのだ。要するにバブルに浮かれ、そのバブルの崩壊と国家債務の破産の結果が、現在の南欧の国家債務危機なのだ。これはアベノミクスが進み行き着く道である。

(3)
 下記資料のように、日経の看板記者・滝田洋一が消費増税をめぐる安倍晋三政権内の動揺に恫喝を加えている。安倍晋三政権の指南役で、日銀総裁になる度量もなかった内閣官房参与のエール大名誉教授・浜田宏一は、消費増税は景気に打撃を与え、デフレ脱却が危うくなる、と消費増税に慎重な立場を表明している。滝田洋一は、97年の橋本龍太郎政権の消費増税が98年以降のデフレの15年の出発点になったこと振り返り、トラウマにならずに、米国を見て消費増税に踏み出せ、と安倍晋三政権を恫喝している。滝田洋一も指摘しているように、どうみても、97年の当時を越える経済数字はない。法人税収が国家税制を救うことはない。あの“世界のトヨタ”がようやく5年ぶりに13年度に法人税を納入するのだ。決算上の赤字を理由に5年間法人税を支払ってなかったのだ。
 滝田洋一の上げる数字をよく見てほしい。今回の消費増税によるデフレ脱却の展望など、どこにもない。しかし、米国オバマ政権やIMFは、消費増税を「15年度PB収支の10年GDP比半減、20年黒字化」の国際公約を盾に強要している(註 PBプライマリー・バランスとは基礎的財政収支のこと)。安倍晋三も、政府税調とは別の検討委員会を作り、今秋のG20までには消費増税と経済成長・財政再建の妙案を探そうとあがいている。しかし、その妙案などない。一か八かの決断は、労働者をはじめ人民大衆への負担を強要するものでしかない。

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《資料》
◇消費増税 97年のトラウマ(2013・8・5付日経新聞「核心」 滝田洋一)
1.1997年の消費増税は財政改革の一環として橋本龍太郎政権が実施し、翌年にかけてマイナス成長に。名目GDPは97年がピークで、98年以降のデフレへ。
2.何を誤ったのか。①国民負担の集中。2%増税で5・2兆円+社会保障と医療費の負担増で合計8・6兆円の負担増。②公共投資の大幅抑制。前年度比13%減で1・5兆円削減⇒「景気を冷やさないか」(ルービン財務長官[当時])、③97年11月の金融破綻連鎖、「取り付けが心配」(ボルガーFRB議長[当時])の心配的中。④バブルの爪痕である不良債権の先送り。
3.当時との違い⇒借金の主体の違い。①負債の名目GDP比率は97年が民間186%、政府95%、13年3月は民間149%。政府229%。②高齢化による年金・医療・介護の増大。
4.97年の轍を踏まないために。①GDPは50兆円減少して470兆円に対し消費増税は8兆円。(97年は520兆円で5・2兆円)、②民間予測で14年4~6月期は年率5%減、15年度のPB目標(GDP比で10年度比半減、3・3%減・17兆円の改善)⇒無理ではない。米国を見よ。13年度の財政赤字はGDP比4%に縮小、要因は法人税収増と13年から所得税増税を前にした企業の増配ラッシュ。日本は株高基調と不動産市況の底入れ。

◇「97~98年の経験をあげるのは間違い」( 吉川洋東大教授)。「日本のデフレ要因は消費税増税ではなく山一破綻などの金融システム不安にある。」

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2013年8月6日
博多のアイアン・バタフライ

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