《試練》――現在史研究のために

日本の新左翼運動をどう総括するのか、今後の方向をどう定めるのか

友への手紙――小泉純一郎「脱原発発言」の思惑を解明する~反原発闘争の軸はどこにあるのか(下)

2013-12-06 20:44:13 | 反原発
友への手紙――小泉純一郎「脱原発発言」の思惑を解明する~反原発闘争の軸はどこにあるのか(下)

(前からつづく)
(5)しかし安倍は引き返せない

 このような小泉の狙いと思惑をおそらく安倍は知っているでしょう。両者とも会談を否定し、会っていないと言っていますが、秘密裏に会合を持ったと見ています。「師匠」である小泉に説得されても安倍は、撤回することも、引き返すこともできないのです。その理由を以下列挙します。

A 原発セールスの張本人安倍
 安倍は総理就任以来多くの外交を精力的にこなしてきました。アセアン、中東、北欧、アメリカ、ロシアetcetc。そしてその大半が、日経連などの実業家のトップを伴ったものでした。いわゆる経済外交、トップセールスを展開してきました。そしてその最大の成果として安倍が吹聴しているのが「トルコとの商談成立=原発売り込み」だったのです。これは総額2兆円と言われる巨大ビジネスで、これ以外にも各国へ精力的に売り込み、商談成立とまでは行きませんでしたが、煮詰まっているのも幾つかあるとの報道です。
 アベノミクスの経済成長戦略の成果がまったく上がらず、批判と失望が高まっている今日、日本経済の起爆剤として位置づけているのが「原発」セールス(建設、維持、管理とそれに伴う技術)です。自ら先頭に立って営業を行い、その安全神話と技術面を売り込んできた張本人が「あれは誤りだった」、「日本は脱原発で行くのだ」とは死んでも言えません。これが第一の理由です。

B 日本の核武装に不可欠
 原発政策の真の狙いである核武装という問題は、ある意味でAより死活的であり、決して譲ることはありえません。帝国主義国日本の生命線をなす、軍事と外交の要諦であるからです。帝国主義間の争闘戦において、さらにはロシアや中国をも巻き込んだ世界的な争闘戦に勝ち抜くためには、核武装とその軍事外交は不可欠なのです。
 それを立証するかのように、昨年6月20日に、原子力規制委員会設置法および原子力基本法に次の条項が加わりました。「原子力は、我が国の安全保障に資することを目的とする」。ことは明確です。核戦争体制としての原発の位置づけが強化されたことを意味します。これが第二の理由です。

C 日米同盟強化の観点から
 3・11東日本大震災直後、当時政権与党だった民主党は、「原発依存体制の見直し」「原発推進行政からの撤退」を模索し、ほぼ内定したといわれています。しかしそれは実現しませんでした。その理由が、帝国主義国アメリカのエゲツナイ恫喝があったからというのは、いまや公然の秘密です。
 質量ともに圧倒的強者の立場から、核兵器による全世界支配を維持し続けんとする帝国主義国アメリカは、最大の同盟国日本が、原発推進政策から離反することが認められなかったのです。民主党政権下で揺らいだ日米同盟の「建て直しと強化」を最大の政策軸とする安倍政権にとって、「脱原発」は、絶対ありえない選択肢なのです。

(6)小泉への怒りをバネに、新たな反原発運動の高揚を 

 以上見てきたように、安倍の「原発推進」と小泉の「脱原発」は、政策的には相容れない内容です。今のところ、両者は正反対の位置にあります。しかしながら、次の点をしっかりと押さえておかねばなりません。すなわち、「危機に立つ帝国主義国日本を救済しなければならない」との想いは同じだということです。ただその手法が異なるだけで、両者は同根だということです。安倍VS小泉ではなく、安倍+小泉VS労働者階級・人民大衆を核とした大衆運動なのです。この構図を見誤ってはなりません。

 簡単にしますが、ここで改めて、3・11以後の反原発運動の基本的な軸がどこにあるのかを確認したいと思います。皆さんのご意見はいかがでしょうか?

 3・11以後の反原発運動は、何よりも第1の軸として、福島の被災者・被曝者・子どもたちの苦しみ、悲しみ、怒りを共有することを原点としています。そうでなければなりません。「故郷を失った悲しみと悔しさがわかりますか」という悲痛な告発は、政府や東電・電力資本やマスコミや学界、さらに電力資本に迎合してきた連合など労働貴族らに向けられているだけではありません。歴代の政府が権力と金にものを言わせて、福島を始めとする農村や過疎地、僻地に危険な原発を立地させるという犠牲を強いてきたことに無自覚であり、加担してきた私たちにも、向けられたものなのだという自覚が不可欠だろうと思います。
 それは、次のような政治的・運動的な課題をはっきりさせることではないでしょうか。
 第1に、福島原発事故の真相の徹底究明、
 第2に、福島原発事故ならびに歴史的な原発推進の責任者処罰、
 第3に、すべての被災者・被曝者・避難者への国家による継続的な損害賠償・補償、
 第4に、いまだ収束していない福島原発事故の完全処理と廃炉、いっさいの原発再稼働方針の破棄、
 第5に、前記した真相・責任者処罰・損害賠償・原発廃炉のすべてを後世に伝える意識的な教育体系の確立~ということになるのではないでしょうか。
 過ちをけっして繰り返してはならないのです。
 そのために、福島原発告訴団の運動を全国の力で支え抜くことだと思います。同告訴団は、ご存知のように、直接の被害を受けた福島の1324人と全国の1万3262人が原発事故を起こし被害を拡大した責任者たちの処罰を求め刑事裁判を要求しています。ここに新たな原発運動の原動力があると言えましょう。

 反原発運動の第2の軸は、経済産業省前テントひろばへの撤去攻撃に反対し、テントひろばを守る運動をしっかりと推し進めることだと思います。
経産省テントひろばは、福島原発事故を始めすべての原発建設の責任所轄省である経産省を追及する拠点であり、全国の反原発運動をたたかう個人・団体の交流の場となっています。九電本店前ひろばとも相呼応した運動となっています。今や世界的な注目を受け、日本の反原発運動を発信するセンターとなっています。このテントひろばを撤去することを許さずに、正念場を迎えている裁判闘争をともに担っていくことが非常に大事だと思います。

 反原発運動の第3の軸は、今焦点となっている泊原発(北海道)、柏崎原発(新潟県)、高浜原発(福井県)、伊方原発(愛媛県)、玄海原発(佐賀県)、川内原発(鹿児島県)の六つの原発の再稼働を阻止すること、さらに大飯原発(福井県)の運転差し止めを実現すること、浜岡原発(静岡県)などの再稼働を許さないことにあるでしょう。
 各地で、原発の危険性にさらされ、怒りをもって、長年にわたって持続的にたたかいぬいている人々としっかりと連帯していきたいと思います。

 反原発運動の第4の軸は、福島と広島、長崎、第五福竜丸を一つに結ぶ反原発=反戦・反核運動、あるいは反戦・反核=反原発運動をさらに発展させていくことだと思います。
 小泉政権による原子力立国路線の内実からも明らかになったように、原発問題とはエネルギー問題なのではないのです。原発問題とは核戦争問題・核武装問題なのです。このことは語り出せば語ることはいっぱいありますが、なぜ日本の帝国主義支配階級がここまで原発に固執するのか、なぜプルトニウム(核武装には不可欠!)を欲しがるのかの究極の理由が、核武装の野望というところにあるのです。
 原発問題がエネルギー問題ではないということは、3・11以降の3年間の盛夏におけるエネルギー供給の充足という現実からして、議論の余地がないのです。
 この意味で、翻訳語としても「原子力発電」というのは適切ではなく、「核発電」とすべきだという意見がありますが、核発電と呼んだ方がよいのかもしれません。

 反原発運動への小泉の介入と分断を許すな! 脱原発の流れを露骨に逆転させる安倍政権の原発推進路線と小泉の野望への怒りも新たに、今こそ反原発運動の大衆的高揚を!

2013年12月1日
竜 奇兵(りゅう・きへい)
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6 コメント

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小泉の「脱原発」について (一兵卒)
2013-12-09 01:18:49
小泉の「脱原発宣言」は、いかにも唐突と言う印象を与えていますが、3.11以前すでに全国の原発が主に使用済燃料貯蔵プールの容量が限界に達しようとしていたこと、さらにそれを処理する再処理工場の稼働も見通しが立たない事などから実際問題としてすでに破たんしていた現実を追認したに過ぎないだろうと思います。つまり、ブルジョアジーの主流側からその代理人たる政治家を通して一定の政治的布石と見ることができると思います。この場合東芝と日立が犠牲になる事はある程度やむを得ないと考えているのでしょう。そしてそれについてもこの2社は独立系であって企業集団群のコントロールの外にあるという位置も関係している可能性もあるでしょう。

それよりも、日本の支配階級を悩ましている問題は、これから数年間にわたって高汚染地帯である福島県の中通地方等から住民の大量脱出が起きるのではないかと言う事ではないかと思います。
彼らにとって福島が無人地帯になり東北が分断される事態は何としても阻止しようとするでしょう。そしてその為に数百万人が犠牲になることは敢えて見て見ぬふりをするでしょう。それどころか様々な手段に訴えて犠牲者を圧迫しようとするに違いありません。秘密保護法や様々な治安弾圧法規は、この面からも不可避となっていると言えます。

かつてソ連スターリン主義はチェルノブイリ事故に際して、住民の強制移住を含む政策を取ったが、3.11に際して日本帝国主義は反対の住民の帰還政策を取っている。この違いは、スターリン主義が人道的なせいではなく、資本主義の基礎をの一つである土地の所有形態がスターリン主義にあってはその国家に属しているという差に起因することによると思われます。従って、今後同様の事故に際しては、アメリカもヨーロッパも日本と同様な対応を取るでしょうし、この事はまた現実に私たちが生活している資本主義の社会を、商品経済を廃棄した社会主義への移行によって止揚しない限り、この社会が齎す無限の悪夢から逃れるべはないと言う事を示していると言えるでしょう。









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一兵卒さんへ (竜 奇兵)
2013-12-12 17:18:16
一兵卒さんへ

コメントを寄せて頂き、ありがとうございます。精読いたしました。

一兵卒さんの文中にあるように、「実際問題としてすでに破たんしていた現実を追認したに過ぎない」とのご指摘は、100%正しいと思います。
そして今回の小泉の「脱原発」発言の位置づけとして、「ブルジョアジーの主流側からその代理人たる政治家を通して一定の政治的布石と見ることができる」との分析も、主流側と言えるかどうかはともかく、おおむねその通りと思います。

さらには、「日本の支配階級を悩ましている問題は、これから数年間にわたって高汚染地帯である福島県の中通地方等から住民の大量脱出が起きるのではないかと言う事ではないかと思います」の箇所は、なるほどな、と思いました。新たな視点を提起していただき、ありがとうございました。

とりあえず、読後の感想です。

12月10日
竜 奇兵
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小泉の思惑 (一酔)
2013-12-14 21:12:38
7月、小泉は名古屋に於いて「脱原発講演会」をやりました。会費2.5万円、参加者2000人です。つまり5000万円の金が集まりました。此の多くは小泉の当面の活動資金です。名古屋の企業と言えばトヨタです。トヨタの支持が無ければ名古屋でこれほどの企画はできません。彼の「脱原発」はトヨタの露払いです。トヨタは必ずエネルギー産業にさんかしてきます。彼は新しいシンクタンク「国際公共政策研究センター」の顧問です。この会長は奥田、元トヨタ会長です。彼の頭に「国家」はありません。
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一酔さんへ (竜 奇兵)
2013-12-17 22:08:44
一酔さんへ

コメントありがとうございます。遅ればせながら、感じたところを述べさせていただきます。

あなたが書かれているように、エネルギー産業へのトヨタの参入は大いにありうると考えます。トヨタはすでに電気自動車の開発・製造に着手しておりますし、自系列の大学と大学院(豊田工業大学・院)を持っております。その技術とトヨタの資本をもってすれば、エネルギー産業への参入の可能性大です。ソフトバンク・孫正義の太陽光発電は、明確に「脱原発」と打ち出していますが、トヨタの場合、どのような「大義名分」を引っさげての登場となるのでしょうか?

それと、12月15日の朝日新聞(朝刊)が、「国、福島3町に汚染土中間貯蔵を要請」、「19万平方キロ買収案」と大々的に報じていました。来年度予算として1000億円(今年度の7倍)を計上する方針を固めたとも書かれていました。現地の反応として、「土地買い取りを受け入れられない人もかなりいることも事実」(渡辺・大熊町長)、「3町には、帰還に影響するとの声や、中間貯蔵施設がそのまま最終処分場になるのではとの不信感が根強い」(以上いずれも朝日朝刊)とのことです。
かつて同じようなことがありました。成田国際空港建設のため、「土地の買い取り」を閣議決定したことです。そしてその後の事態はご存知のとおりです。三里塚農民の農地死守の闘いの前に、未だに空港は完成していません。「ボタンの掛け違い」なるふざけた総括をした国家権力が、今また、同じ過ちを繰り返しつつあると感じています。 

民衆の「土」への深い思いいれ、住み慣れた故郷を追われる悲しみ――。資本主義は、歴史的にみても、本質的にみても、農民・農業問題を解決することができないできています。いくつかの歴史的事例を別にして、土地所有の問題を資本主義は解決できないわけです。そのことを土台にしているがゆえに、国家権力は、民衆のもつ、こうした生身の人間の感情を決して理解できなければ、受け止めることもできないのでしょう。

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竜騎兵様、一酔様 (一兵卒)
2013-12-19 01:31:07
私の考えでは、太陽光などの代替エネルギー産業は、国内に限れば投機対象以外では市場を確保しテ行くことは難しいでしょう。また、それさえ既存の送電網を利用する限りすぐに限界となります。それに電力会社はそのために送電線へ設備投資しようとは考えないでしょう。

理由は、まず第一に電力の需要が停滞してから久しいのですが、今後も拡大することは無いだろうと言う事。次に、ただでさえ原発はその運転の為に揚水発電などの無駄な投資を必要とし、それ故電力会社は過剰な設備に長くあえいできたことがあります。いくら総括原価方式で凌いできたとはいえ、産業用電力価格のことも考えればすでに限界に達していたことは確かでしょう。要は、原発が停止している現状でも電力設備は過剰であり、この上太陽光など受け入れたくないと言いうのが電力会社の本音でしょうか。

とは言え、脱原発に踏み切って、これまで資産とされてきたものが負債に転嫁すれば、沖縄電力を除くすべての電力会社は債務超過で倒産させざるを得なくなります。
その上で、現状は、動かない原発を抱えて、それをカバーするために火力の燃料を追加で購入すると言ういかんともしがたい状態に追い込まれていると言えるでしょう。そうした股裂き状態の危機を政治家として表現しているのが、一方の安倍であり他方の小泉と言う事になります。
何れにせよ、資本としては如何にリスクがあろうと安倍を選択せざるを得ないでしょうし、そのことがまた彼らの破たんと混乱を一層増幅することになるでしょう。

次に敢えて言わせていただければ、同じ土地の買い取りと言っても「三里塚」と「フクシマ」を比較することは適当ではないと思います。福島を中心として広大な関東東北の土地が、すでに人の住めない土地となっており人命を救う為にはそこから立ち去る以外に方法がないと言う事は、専門家ならずとも分かっていると思われるので、この事実を認めることから始めなければ反原発運動も敵の手のひらから脱する事はできないでしょう。
この点に関しては管直人が外国メディアに語っている次の言葉が敵の側からの事実の告白となっています。

<菅直人「最初のメルトダウンは110312ではなく、地震の5時間後だった。その後の起こったことは、もはや使用が不可能となった国土の1/3喪失・全人口の4割の被曝罹病だ。これが現実なのです。さらに酷い最悪の事態をからくも逃れたに過ぎない」>

敵の側は、一応現実を認識しているようですし、それ故に彼の政権の時に答申が急きょまとめられ、阿部政権で強引に成立させた「特定秘密保護法」のさしあたってこうした事実を抹殺するする為であることと考えればその唐突さの理由の一つを解明することができます。問題は頭の固い左翼がその事実を認められるかと言う点ですね。

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農業問題 (一兵卒)
2013-12-19 02:51:30
資本主義は、竜騎兵さんの言われる「本質」の部分では農業問題(この場合は農業の資本家的経営)を解決して成り立っていると思います。地主の土地を借りて労働者を雇い入れ農産物を資本家的に生産すると言う事ですが、現在の状況を見ても分かる通り、歴史的にはそうはならなかったと言えます。
原理としては解決されているのに、ある時期から現実にはそうはならなかった。ここでは、原理の中にむりやりこれをねじ込もうとするのではなく段階論的考察の必要性が生じてくると思いますがどうお考えでしょうか。

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