
室内と窓外はつながっていないが、繋がっている。室内は現世の記憶を残した形であるが、機能、活性がない。ビルボケなどは倒れることが必至の傾きであり、それとない不安を潜ませている。
光源はどこにあるのか分からないが、影は微妙に方向を違えている。
窓外は嵐であるが、室内は開放されており風を感じるのは舞い上がったカーテンだけである。カーテンが揺れ動けば板戸も倒れ、ビルボケも脆弱な卓も倒れるという結果が予想されるが、室内は無風の静寂と不思議な明るさで満ちている。
ゆえに、室内と窓外は異空間であり、直結はない。荒れ狂う海、横倒しの船の惨状、生命の危機は逼迫している。
ビルボケのいる室内は明らかに現世ではない。卓も微妙に歪んでおり、卓の上の手や鳩はゆっくり落下していくことを孕んでいる。しかし、多分、ここには然るべき時空の法則が欠如しており、次の瞬間などと言うものが無いのかもしれない。
室内のそれぞれが、かつての記憶を残したまま長い時間をかけて無に帰していく旅の途中なのだという景に思えてならない。
写真は『マグリット』展・図録より
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