
『空気の平原』
連なる山脈のこちらは岩の荒地、不毛地帯である。にもかかわらず肥大化した一葉が雄々しく立っているという図。空の領域はどこまでも広がりを見せているが、空気の平原と称せられるかは疑わしい。空気は地球を被う大気圏のことであり、無色・透明・無味・無臭の気体である。従って、どこにでも入り込み満たすので、形は特定不能であり「平原」というにはどの角度から見ても当てはまらない。
検証するまでもなく「空気の平原」というのはあり得ない状況を示した端的な一言である。
地球の条件、物理的な条件を根底から覆している。まるで現実世界から隔絶した条件を提言しているのである。
《そんなことでだまされてはいけない/ちがった空間にはいろいろちがったものがゐる/それにだいいちさつきからの考へやうが/まるで銅板のやうなのに気がつかないか》宮沢賢治『小岩井農場』より
《物質全部を電子に帰し/電子を真空異相といへば/いまとすこしもかはらない》宮沢賢治『五輪峠』より
遠くに見える山脈と、手前の岩の荒地では世界が隔絶されているのかもしれない。あり得ないような肥大化した一葉に鑑賞者は焦点を奪われ、見逃しているもの・・・それが『空気の平原』であるとすると、空気の平原は現世と異世界との境界を指していると思われる。
縦も横もない異世界との仲介に、見えない『空気の平原』(質的変換)があると言っている。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)
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