
『嵐の装い』
海は暗く、まさに嵐の光景である。
鋏を入れられた切り紙状のものは、擬人化されて立っている。あたかも嵐の難破船を危惧するように六体は海を見ている。(ように見える)
海と彼らの時空には明らかに差異がある。難破船を眺め下しているように見えるのに、立地点は地続きのようである。
嵐の海と彼らが、隔絶された時空にあるのは現世と来世(冥府)だからではないか。
彼らは嵐の光景を見ているように感じるが、難破船からこちら(冥府)にやってきた死者たちかもしれない。
『嵐の装い』は嵐のような現世から新天地へやってきたものの装いであり、すでに男女としての形態を失い、過去の名誉や罪科なども、あたかも刻まれた模様のように図案化されている。
誇るべき名誉・栄冠の記憶、あるいは血の出る傷痕ではなく、それらは刻まれたもの(単なる記号)として死者の魂を装っている。
嵐という死線を超えた人の魂、自分という本体(主張)を無くした人たちの新しい装いである。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)
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