夕焼け金魚 

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マッチ売りの

2013-12-09 | 創作
むかしむかしの、ずっと昔のことですが街角に女の人が立って、マッチを売っていたのだそうです。
一本なんと今のお金で千円ぐらい。一本千円のマッチ棒なんて、誰が買うのだろうと思うのですが意外と買う人が多かったそうです。
売っている場所は繁華街の裏街で、街灯がポツポツあるような処か陸橋の下。
暗がりにコートを着ていて、所謂真智子巻きのマフラーをしている人が多かったそうです。
そんな噂を聞いたのも、私が中学生になりたての頃。誰それが何とか神社に行ってマッチを買ったとかの噂が飛び交っていたのです。異性に対して興味津々の(今でも嫌いじゃないですよ)思春期ですので、そんな噂に飛びつきました。
友達三人とお小遣い出し合って、千円用意して噂の町に出かけてみたのです。あっちの神社、こちらの陸橋の下と噂のある処を中学生が三人程が夜の街をウロウロ。
繁華街の近くの神社を通りかかったとき「マッチ買いませんか」と女の人から声をかけられました。この人が噂のマッチ売りかと顔を見合わせて、おそるおそる近づいていきました。
「一本、千円ですけど買いませんか」
「買ったらどうなるのですか」と聞くと「あら、若いのね。若い子だと刺激が強すぎるかも」と言うのです。相手の顔も見えない程の暗がりで、オーバーを着ていることが分かるばかりです。握りしめた千円札を渡すとより暗いところに私達を誘うのです。
「じゃ、この辺りでマッチ擦ってね。コート広げるから、マッチの明かりで見るだけよ」と言うのです。友達の一人がマッチを擦ると女の人がコートの前を広げると、ボーッと白いものが浮き出て、みんなが見たがるところはなぜか黒くてよく見えなかったのです。
そのうちマッチの火がフッと消えると、マッチの火で目が暗闇に慣れてないので、一瞬真っ暗になったのです。
「ねぇ、もう一本売って」とお姉さんに声をかけたときには、もう誰もいませんでした。今の事は本当のことなのかも分からない程の一瞬のこと。
ボーっと光ったマッチ棒の灯りに照らし出された白い裸体が、幻のように見えた記憶です。
今頃の、木枯らしが吹く季節のことでした。
昔、昔の遠い記憶です。


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