労働者のこだま(国内政治)

政治・経済問題を扱っています。筆者は主に横井邦彦です。

アメリカの社会は不安定化に向かっている

2009-03-22 01:05:27 | Weblog
 AIGのボーナスをめぐる騒動は、経済危機が政治的な色彩を帯び始め、アメリカが内政の時代に向かい始めていることを教えている。

 その辺が、労働者が羊のように毛をむしられるだけの国とは違っている。

 アメリカの労働者が政治の表舞台におどり出ようとしており、オバマ政権はそれを必死になってくい止めようとしている。

 もともとが国家資本主義(国家の統制下にある資本主義)はアメリカの政治風土に似合わないのだろう。ヨーロッパや日本のように政(政治)・財(大資本)・官(官僚機構)の癒着のなかで権力者の倫理観がマヒしてしまっている状態をアメリカの労働者は受け入れることができないのだ。

 そういうことを理解しているからこそオバマ政権は、高額なボーナスを手に入れたAIGの幹部たちを口を極めて非難するのだが、同じことは自動車産業でも、メガバンクでも起こりうる。つまり、経営が行き詰まっているということ自体がすでに資本として何か健全でないものを抱えているということであり、そういうものを洗い流さないかぎり資本としての蘇生は困難であると見たほうがよい。

 そうかといってそう簡単に、アメリカ政府が引導を渡すこと(倒産させて破産処理をすること)ができないところに問題がある。

 もちろん、公的資本を注入して破産を回避するというやり方もあるのだろうが、本当に苦境に陥っている大資本は自己蘇生能力をもっているのだろうか?そのあたりの見極めがつかなければ、90年代に巨額の公的資本を投入しながら大資本を救済できなかった日本の二の舞になってしまう可能性さえある。

 こういう後ろ向きの問題に足を取られて、オバマ政権は大きな努力と資金をこの問題に傾注しなければならなくなり、本来の経済危機を回避するための方策や失業対策や国民に約束した医療の充実といった課題に取り組む余力をなくしはじめている。

 そこにアメリカの労働者たちの大いなる失望があるのだが、オバマ政権に対する失望は期待の裏返しでもあった。しかしその期待感すら今では急速に失われつつある。

 ところが一方でアメリカの経済はすでに抜き差しならないところまで追い込まれている。米議会予算局が発表したアメリカの09会計年度(08・10~09・09)の財政赤字の見通しは、177兆円(GDP比13・1%)という巨額のものになるといわれている。

 もちろん、これは単なる通過点での見通しであり、この予算の多くがすでに不良債権の買い取りや、危機に陥った大資本の救済という後ろ向きの用途に使われてしまっているために、経済の悪化をくい止めるためにはさらなる追加の支出が求められるであろう。

 この困難に対してFRB(連邦準備理事会)は国債の買い取りという“禁じ手”にまで手を出し始めている。

 それでも、アメリカ経済は悪化を続けており、8%を越える失業率と実体経済の収縮は依然として改善の兆しが見えない。

 その中で、実は恐ろしいことが起き始めている。それはわれわれが以前指摘したように、不況とインフレの共存という事態である。われわれが以前問題としたのは、あくまでも理論的な可能性という仮定の問題であり、理論的にはそういうこともありうるといっただけだったのだが、あれから数ヶ月もたたないうちにそれはすでに現実に転化し始めている。

 国際商品指数は生産の回復にともなう需要の増加を見ないのに、3月に入って底離れをし、原油価格は1ドル=50ドルを越えてしまった。明らかに紙幣の過剰発行が現実経済に波及しつつあるのだが、あまりにもテンポが速過ぎる。このままインフレ傾向が続けば、ほどなく各国政府の現在行っている景気刺激策という名のインフレ政策は大きな壁に直面する。

 そしてもう一つ気がかりなのは、アメリカではこの経済の困難な状況に対する不満の矛先がガイトナー財務長官に向けられていることだ。すでに“引責辞任”という言葉さえささやかれている。

 しかし、GDP第1位のアメリカと第2位の日本の財務担当責任者が、理由はいろいろあるであろうが、あいついで辞任することは世界経済にとって致命的である。船頭があいついで海に飛び込んでいなくなってしまっては、それこそ世界資本主義という船は漂流するしかなくなる。しかも現在、世界資本主義は“危険水域”を航行しているのだから、その危険度はかなり増大している。

 こういった、アメリカの経済の不振とそれに対する政治の対応能力がすでに問題になり始めていることが、アメリカ労働者の怒りを増幅させている。   

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