前回は、あやふやな知識と不正確な理解のもとで混乱した議論を展開していたと思い反省しております。
それで、今回はきちんと議論をしようと思います。
最初に、われわれは日本船籍の「ゴールデン・ノリ」号の事件についてのみ、ふれたもので、北朝鮮籍の「ダイ・ホン・ダン」号の事件についてふれたものではありません。
そういう点では、「救出」という言葉を使ったのは正確ではなかったと思います。
「ゴールデン・ノリ」号の事件では、先月(10月)28日に救難信号を受け、アメリカの誘導ミサイル駆逐艦「ポーター」が現場に急行して、「ゴールデン・ノリ」号のつないであった海賊の小型高速船二隻に二五ミリ砲を数回発砲して、炎上・沈船させました。
その後も、「ゴールデン・ノリ」号は犯人と人質を乗せたまま航行を続けましたので、アメリカの護衛艦「アーレイバーク」号が、追跡、追尾、監視を継続中です。
この事件の続報はまだないですが、船長であるフィリピン人の自宅へ、本人が電話をかけさせられ、その時に船長は乗員が全員無事であることを伝えています。また「海賊が身代金を要求しているのか」との質問に対し、この妹は「交渉は始まったばかり。海賊は今後、何かを要求してくると思う」と語ったそうです。
したがって事件はまだ未解決です。
そして、この事件はすべてが、つまり、「ゴールデン・ノリ」が海賊に襲撃された場所も、「ポーター」が小型高速船を沈船させた場所も、「アーレイバーク」が「ゴールデン・ノリ」を追跡した場所も、ソマリア領海内で起こっています。
海賊追跡のために領海内へ入ってもよいかと、ソマリア暫定政府に連絡してきたのは、「アーレイバーク」だけです。
だから、われわれは、そもそも「ゴールデン・ノリ」号はどうしてそんな危険な海域を航行する必要があったのか?ということを問題にしたのです。
「ゴールデン・ノリ」号は、引火性のベンゼンなど4種類の化学品を積み、シンガポールからソマリア沖、スエズ運河などを経由してヨーロッパへ向かう途中でしたから、ソマリアの領海に入る必要がまったくない船でした。だから、その船がソマリア沖8カイリ(約14・8km)を航行していたこと自体が大きなナゾなのです。
そこしか通行できないという人もいますが、アデン湾は横幅200㎞もあり、平均水深は450mぐらいありますので、特定の場所を通行しなければ通り抜けられない湾ではありません。
そして、この場合なぜ「海賊」がいるといわれているソマリア沿岸部を航行しなければならない理由は一つもありません。
特に、今年の6月には、アメリカ海軍の艦船がアデン湾沿岸の村が「イスラム法廷」(ソマリアのイスラム原理主義組織)の残党が残っているということで、艦砲射撃を行って村々を焼き払っています。アメリカ軍の攻撃によって生活(漁業)の道を断たれた人々のなかから「海賊」のグループがいくつも形成され、さかんに「海賊行為」を行うようになりました。
しかし、これまでこの種の事件の多くが未遂に終わっていたのは、多くの貨物船がソマリア沿岸から遠く離れたところを航行しているために、海賊船に追いかけられても、追跡をふりきることが可能だったからです。なかには一度に15隻の海賊船に追いかけられた貨物船もあったそうですが、その貨物船も無事に逃げ切りました。
この2日後には、北朝鮮の貨物船「ダイ・ホン・ダン」号が襲撃されています。
この事件はおおそよつぎのようなものであったそうです。
米海軍ニュース(Navy News)によると、30日午前、バーレーンにある連合海洋軍司令部はマレーシア・クアラルンプールの国際海事局(IMB)から「北朝鮮船デホンダン号がソマリアの首都モガディシオから北東に110キロほど離れた海域で海賊に襲撃されたから救出してほしい」という連絡を受けた。
米軍・英国・フランス・ドイツ軍で構成された司令部は直ちにデホンダン号から90キロほど離れたところで作戦中だった米駆逐艦「ジェームスウィリアムス」が救出命令を下した。 「ウィリアムス」はまずヘリコプターを急派し、正午ごろ現場に到着した。
米軍は無線で8人の海賊に武器を捨てるよう命じた。 海賊が軍艦を見て動揺している間、北朝鮮船員が海賊らを押さえつけた。 AFP通信は「船員が隠していた銃器を持って海賊を攻撃した」と報じた。 船員と海賊が衝突する過程で海賊2人が死亡し、船員3人が負傷した。
船員は海賊を制圧した後、米海軍と交信し、負傷者が発生したことを知らせた。 これを受け、衛生兵3人がデホンダン号に乗り込んで負傷者3人を応急処置し、軍艦に移した。 デホンダン号は逮捕した海賊を連れてモガディシオ港に移動した。
6390トン級のデホンダン号はモガディシオ貿易会社との契約で10日前、インドで船積みした砂糖をモガディシオ港に降ろしたと、AP通信は伝えた。 その後、港から遠く離れた海に停泊中だった海賊に襲われたという。 アフリカ連盟平和維持軍のアンクンダ大尉はAFP通信とのインタビューで、「船の停泊を案内する人が海賊に突変したようだ」とし「当初、海賊は船員解放の見返りに1万5000ドルを要求していた」と説明した。
駆逐艦からヘリコプター1台が拉致現場に出動し、北朝鮮の船舶が海賊に制圧されていることを確認した。ウィリアムズ号はソマリア政府に「海賊鎮圧のため領海に入る」と知らせてから、同日午後12時を前後して現場に到着、無電で「即刻投降」を求めた。
突然の米駆逐艦の出現に海賊はあわてたようだ。その隙を狙って北朝鮮の乗組員は隠していた銃で銃撃をはじめ、海賊を一掃した。10年以上の兵役を終えた除隊軍人が大半を占める北朝鮮の乗組員には、一人当たり、AK-47自動小銃が支給されるという。
これは何かの引用文ですが、出典をメモするのを忘れました。
これを読むと、「ダイ・ホン・ダン」号(記事ではデホンダン号となっている)が襲撃された経緯がよく分かります。
この事件について、ある人は、「正義の味方のアメリカ軍の援護に力づけられ,自力で海賊を撃退したのは北朝鮮の船です。ということは,アメリカ軍がとてもとても頼りになることを世界に宣伝すべく,北朝鮮が協力したというわけですか?」とわれわれに質問してきています。乗組員全員がAK-47自動小銃で武装している貨物船というのは、少し理解困難ですが、アメリカ海軍と北朝鮮の貨物船乗組員が協力して海賊を撃退した、というのは正しいと思います。
質問者はわれわれが海賊行為を容認しているかのような誤解をしているのですが、われわれがアメリカ海軍を「正義の味方」といったのは、現場に急行したアメリカの誘導ミサイル駆逐艦「ポーター」がいきなり機関砲を発砲して、「ゴールデン・ノリ」号につないであった2隻の海賊船を沈戦させてしまったことで、逃げ場を失った海賊たちが貨物船に籠城しなければならない情況を意図的につくりだしたことに対してです。
あと,みんな出来るだけイエメンよりに航海してるんだ。それでも海賊被害にあってるんだけど,そうしたみんなの苦労は無視?
>http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/7067192.stm
>The International Maritime Bureau (IMB) said it had received a distress call from the vessel near to the remote Yemeni island of Socotra on Sunday morning.
また、陸路と違い海上では航行に多大な余裕が要求されます。目標に乏しい外洋に置いて操船の難しい大型船舶がソコトラ島を目標にしてアデン湾をめざし、そこからバブ・エル・マンデブ海峡の通過を試みる事は謎ではありません。
米艦艇が1隻しかソマリア領海内に入ることを通告していないとのことであるが、一般に軍艦は統一の司令部のもとに行動しているので、両国間の政府から通告があれば問題ないのではないだろうか。
なお、軍艦には国連海洋法条約上、公海であればいかなる国の海賊船を取り締まることは可能であり、今回のソマリア領海では、沿岸国のソマリアが取り締まりに同意していれば問題ないだろう。