本棚7個じゃ足りません!

引っ越しのたびに蔵書の山に悩む主婦…
最近は二匹の猫の話題ばかりです

年末の読書記録

2007年12月26日 | 

ジャンルの違うミステリを色々読んでみました。
『インシテミル』ハードな本格。
『人形の部屋』衒学的なご家庭もの。
『翡翠の家』ノスタルジックなコージィもの。
『リチャード三世「殺人」事件』コスチュームプレイで「見立て」風。
『珊瑚礁のキス』ロマンティック・サスペンス。
読んだあと時間が経過した上、少しずつ感想を書いては中断しているので、
頭がちょっと混乱…。でも、記憶に留めるために無理やり書いてみる。

 <以下の感想には、軽く内容に触れる箇所があります。
                 念のため、未読の方はご注意ください!>


『インシテミル』米澤穂信 文藝春秋
夫のために図書館から借りてきた本。随分楽しそうに読んでいるので、わたしも手に取ってみたのです。またしても苦手なサバイバルものか…と思ったら、新本格テイストの強い作品でした。異様な設定だけど、肝心の推理はしっかりしています。ミステリマニア大喜びの内容です。
勿論、わたしがこれまでサバイバル風推理小説に抱いていた、状況そのものに対する疑問は残りますが(大抵、正体不明の主催者ネタなのも、どうかと思う)。不自然だとしてもこれはこれで、ミステリを極めるためのお約束と捉えるべきなのでしょうね。
わたしたち読者が、“もっと究極に閉ざされた環境で究極に論理的な推理を!”と求めすぎるから、こういう設定が近頃増えてきたのかも。『ダークホルムの闇の君』(こちらはsayukiの本棚の方で感想を書いています)を読んだ時みたいに、なんだかホスト側に加担した気分になるのでした。
(夫にこの手の小説が好きな理由を聞いたら、動機を考慮に入れる必要がなく、純粋に論理だけで解決するから、だそうです。やっぱりクイーン派はそういう発想なんだなあ)

『人形の部屋』門井慶喜 東京創元社
探偵にも色々な人がいるけれど。本文に書かれた内容だけで推理している探偵(読者と情報量が同じ。推理材料の結び付け方が見事なタイプ)と、専門的な知識を有している(または読者に見えないところで調べている)がために謎を解決することが出来る探偵、という分類もできるような気がします。
この作品の専業主夫(本人は“家主”だと自己主張している)のお父さんは、後者。それも教養がにじみ出ているというより、積極的に知識を披露する薀蓄王タイプ。
殺伐としたところのない「日常の謎」風の短編集の中に、娘のつばめちゃんの健やかな成長も織り込まれているのですが。わたしが思春期の娘だったら、黙って聞いていても内心で「お父さん、話長ーい。しかもくどーい」などと考えているだろうな、と思いました。素直なワトソン役のつばめちゃんは偉い。大人だ。
あと、家事従事者が年に二日、里帰りでなくひとり旅ができるなんて、非常に妬ましいと思いました(笑)。まことに個人的すぎる感想でございます。

『翡翠の家』ジャニータ・シェリダン 東京創元社
ニューヨークで住居を探しているジャニスが、昔の知人リリーと再会。とある邸宅の貸し部屋に二人で引っ越すことになる。他の住人たちは風変わりな芸術家ばかり。やがて殺人事件が起こるのだが、被害者の正体は…という展開。
語り手のジャニスより、ルームメイトのリリーの方が印象に残ります。聡明で謎めいている中国系の若い美女。
ひとつ疑問に思ったのは、物語の中で、“これが中国人の価値観なのだ”と語られたことは事実なのか、ということ。“あれ”を部屋に飾るのも普通なのか?ハリウッド映画に登場する不思議な東洋人とは、違うと思うけど…。

『リチャード三世「殺人」事件』エリザベス・ピーターズ 扶桑社
リチャード三世といえばわたしには『時の娘』の知識しかない…(義経といえば『成吉思汗の秘密』しか知らないというのと、同じレベル)。薔薇戦争の人間関係は入り組んでいて、読んでいて思わず涙が…。くじけそうになりました。
リチャード三世擁護派の集まりで起こる奇妙な事件…なのですが。学問的論議をしながらも、コスプレ宴会を催したりするこのグループ、かなりマニアックです(リチャード三世とその周辺人物に扮したあのコスプレがね、太秦の映画村で時代劇の格好をする観光客みたいに楽しそうなんです)。
探偵役は、旅行中の図書館司書ジャクリーン。小気味がいいほど皮肉っぽくて、傲慢で魅力的な大人の女性。歴代王妃などのいい役を占めたグループのおばさまたちから、“あなたの役は小間使いくらいしかない”と苛められても、平然と“リチャード三世の愛人(がいたことにして、その役)になる”と切り返す、いい性格をしております。つよいな。

『珊瑚礁のキス』ジェイン・アン・クレンツ 竹書房
不眠症に悩んでいたSF作家のエイミーは、恋人未満の微妙な関係にあるジェドと、両親の別荘がある南の島に滞在する。そこはエイミーに悪夢を見せることになった、恐ろしい事件の起こった場所だった。ジェドはエイミーの抱える問題を引き出そうとするが、実は家族の秘密が隠されており…という話。
ええと。やたらと激しいラブシーンが多かったので、その度にストーリーが停滞するのは困るな、と思いました。(本当にわたしって、ラブストーリーには向かない性格だ…)
ジェイン・アン・クレンツは変化球派だと思っていたので、ハーレクインの王道を行く展開が、意外な感じです。



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また再放送&DVD化されている、『名探偵ポワロ』ニューシーズン。
先のシーズンのファンの方は、皆さんどうお思いなのでしょうか…。
わたしは戸惑っているのです。なんか違うよなぁ…と。

原作のトリックを微妙に変化させたり、
設定に手を入れたり、といったことは前にもありましたけれど。
ユーモアが減りましたよね。ロマンスも減って、
性描写や犯行時の映像がどぎつくなった感じ…。
コージィ・ミステリ的な抑えた表現が好きだったわたしは、
やけに現代風になってしまったニューシーズンについていけないのです。

原作に手を加える誘惑に駆られるのは、ドラマ製作者の常かもしれないが、
本来結ばれるはずの恋人同士まで別れさせるのはやめてほしい。
物語の中での犯罪とその解決は、
突然の秩序の破壊と、再構築という形式になっている訳で。
ラストにはまだ、人間関係の混乱や真実の暴露などの苦い余韻が残っている。
クリスティーには、新しいカップルを誕生させることで
希望に満ちた未来を描き、後味を良くするという、特徴があったのに。
(まあ、一方では凄まじく怖いカップルを描いたりもしているが)

今度のドラマ版はその“ご都合主義”を排したのだろうか。
それが今回の“売り”と言われたら仕方ないけれど、
クリスティーの持つロマンティシズムを愛するわたしとしては、
近頃とても淋しいのである。
(ストーリーと登場人物にしても、『青列車の秘密』は他の作品と
ネタがカブるから改変する、というのは分かるのですが、
『満潮に乗って』をそこまで変える必要が果たしてあったのかどうか)

原作通りに映像化した作品なんて、あり得ないのかしら…。がっくり。