飛行機に乗る前、羽田空港の書店でふと手にした「組織に埋もれず」(高杉 良 新潮文庫)の帯封が気に入ったので買って旅にでた。
いわく「失敗ばかりのダメ社員がヒット連発の”神様”に!旅行業界を一変させた痛快仕事人生」
サラリーマン生活から足を洗って数年経つので、いまさらダメ社員も優秀社員も関係ないが、「組織に埋もれず」というところに共感した次第だ。
しばらく読み進むと主人公・大東敏治が一橋大学の四年生の時、ゼミの教授に自分の進路について相談する場面がでてきた。
大東は教授に「大学に残るのは難しいでしょうか」と聞く。それに対し教授は、きみの成績なら充分可能だが、教授の世界は陰湿で世間知らずの独善的な人が多く、住みよい社会じゃないから実社会に行くことを勧めるよ、と答えた。
この辺り大東(あるいは作者)の大学教授に対する見方は私の見方と一致するのでカタルシスを覚えた。
大学教授なる人種に特段恨みはないが、かって学会の事務局長をやっていた経験からいうと、総てではないにしろプライドが高くて、細かいことに拘る人が多い人種であることは間違いない。
大東はJTB入社後海外旅行の添乗員としてハワイ旅行のアテンドをするが、ここで我儘な大学教授に苦労する。
案内書にツイン・ルーム二人で宿泊、と書いてあったのに、大学教授が「そんなもの読む時間がなかった。二人部屋と分かっていたら、つあーに参加しとらんよ」と豪語する。大東は、あなたのような手前勝手な人には参加してもらいたくなかった、と言えるものなら言いたいが、忍の一字で耐える。
旅行業界のみならず、個人客を相手にする業界に身をおいてきた人の多くは一度や二度は顧客の手前勝手な要求に苦々しい思いを経験したはずである。そして「お客様は神様、なんていうのはおかしい。客もサービスの提供者ももっと対等で良いのではないか」と考えたはずだ。
時々コンビニの窓口などで居丈高に怒っているおじさんを見かけることがあるが、私はそのような人は自分が接客で苦労した経験がない人ではないか?と思っている。
話が本題から脇道にそれた。元に戻ろう。
大東は接客に苦労したり、小さな失敗を繰り返しながらも、着想力とそれを実現する粘り強さで旅行業界でヒット商品を生み出していく。
大東はやがて部長待遇の専門職から社内ベンチャー起業家として活躍し、JTBを退職後、実業家として活躍する。
大活躍した大東だが、JTBでは役員になっていない。大東にとって大会社の役員になることより、起業家として面白い仕事をすることが望みだったのか?あるいはJTBという大きな組織の石垣には大東という突出した石を役員にする素地はなかったのか?
その点について「組織に埋もれず」は何も書いていない。
しかし一つの会社の中で頂上を目指すより、新しい道に進む方がより豊かで充実した生活を送ることができる可能性が高いことを「組織に埋もれず」は示唆しているのかもしれない。
地震で被災した小学校の復旧計画のための小旅行中、安ホテルでこの本を読み終え、私はある種爽快な気持ちを覚え帰国の途についた。
大東ほどの着想力はなくても、自分なりにやるべきことはあると考えながら・・・