英国のEU離脱による世界の金融界に与えた激震ははひとまず沈静化したように見える。
離脱派の急先鋒英外相(前ロンドン市長)が仏を皮切りに欧州各国外相との会談に乗り出したが、テロや気候変動、格差拡大、経済の低成長、租税回避対策等々、国際協調により地球規模で解決しなければならない問題が山積するさ中で、EUから見れば降って 涌いた様な英国の我儘のようにしか見えない離脱問題、永くて厳しい交渉が始まる。
EUの主張は「人・物・金・サービス」の4つの自由は切り離せない、良いとこどりは許せないというもの。これに対して英国は移民を制限した上で,EU単一市場へは従来通り参加したい、EUから見れば当に良いとこ取りである。
そもそもEU(欧州連合)の母体となったEC(欧州共同体)は一つには第二次世界大戦の苦い経験から2度と欧州で戦争を起こさない、もう一つは経済力を高めてきたアメリカや日本に対抗する、この二つの為に設立されたものである。
その後EUに発展したがその基本にあるのは戦勝国・敗戦国の和解と欧州の復興、不戦、更にはベルリンの壁崩壊等冷戦終了後に加わった東欧諸国にとってはファッシズムや共産主義の独裁からの解放と民主主義を勝ち取ることが大きな目的だった。
だが英国のような実利追求型の国にとってはEUは単なる魅力ある巨大市場でしかない。
賃金の低下や失業率の上昇等グローバリゼーションの過程で短期・不可避的に発生する経済摩擦の痛みを全て移民問題に押し付けた結果が国民投票による離脱派の勝利に繋がった。
今後EUとの厳しい離脱交渉が始まる。
欧州への輸出基地と位置づけていた日本を含む外国企業の英国への新規進出の見送り、更には拠点を欧州に移す検討を始めている企業もあり、不動産価格の低下を見越した不動産ファンドの解約の動きを助長している。
銀行融資も不動産担保が多く不動産の価格下落は銀行経営に与える影響も大きくミニ・リーマンショックさえ懸念されだしている。
移民は米国の例に見るまでもなく経済成長を後押しするもので、移民拒否は成長の阻害要因になるだけでなく英国人が嫌がる介護・看護・清掃といったサービス業の労働力不足をどう補うのか、新たな問題も浮上してくる。
いずれにせよポンド安による物価上昇、海外からの投資減、設備投資手控え、国内消費の落ち込み等景気後退は避けられない。
景気後退による労働需給の悪化で一番影響を受けるのは高度なスキルを持たない低所得者層、EU離脱に賛成票を投じた人々である。
離脱交渉が長引けばその痛みがさらに拡大する恐れがあり、新政府の難しい舵取りが求められることになる。
RE;EU誕生後の大きな施策
① 貨幣がEU圏共通のユーロに統一 (英・スエーデンは採用していない)
② 加盟国間の関税撤廃
③ 加盟国間の往来にパスポート不要