夏休みは、我が家の子ども達も苦手な読書感想文に苦しんでいました。
それを見ていたからというわけではありませんが、最近読んだ本の中で興味深い本の感想を。
知的財産制度の未来を考えさせられました。
知財関係者の著書ということで、業界の方にはちょっとした話題だった「久慈直登」さんの「喧嘩の作法」。お気づきの方もあるとは思いますが、東海道新幹線の車内誌「Wedge」で連載されていた著作の単行本です。「久慈」さんは、本田技研の知財部長を務められた方です。
ホンダといえばF1なんかが有名ですが、著書の中でも紹介されているように「知財」に関しては強気な会社ということで有名です。広く知られているのは途上国での「スーパーカブ」の意匠権侵害訴訟があります。著書の中では、「知財」はビジネスで利用しうる攻撃用の武器と述べられており、防御のための知財戦略が主である日本の多くの企業にとって感じるところは多いのではないかと思います。
さて、その著書の中でも最終盤に紹介されている知財の「南北問題」は、大変興味深いものでした。
「南北問題」についておおまかに紹介すると、「途上国(南)」と「先進国(北)」との間のジレンマといえるでしょう。知財に限らず、国際的な問題の多くはこの「南北問題」につながります。最近話題の「TPP(環太平洋パートナーシップ)」も、日本ではコメや自動車といった核心的な話題が中心ですが、それ以上に「南北問題」が摩擦を生じさせています。このTPPでも、知財が摩擦の一因になっています。
本題に行きましょう。
知財、特に特許は、特許権者を出願から20年という長期にわたって強固に保護します。この強固な保護には、差止請求権、損害賠償請求権が含まれています。この強固な保護を背景に、発明者(出願人)は、多大な研究資金を投入して、新たな発明を行なっています。つまり、将来的に強固な保護が約束されるからこそ、投資した資金を回収する機会が確保され、発明者(出願人)は安心して研究資金を投入することができるのです。
先進国(北)におけるこの知財の力を背景とした開発サイクルは、既存の発明を超える新たな発明を促すこととなり、累積進歩にともなう産業の発達に大きく貢献します。これは、日本における特許法が、1条で「産業の発達に寄与」することを目的としているように、知財制度が技術的な進歩を進める動力源になっていることを意味します。
ところが、途上国(南)は、技術的進歩を進める動力源となる研究開発の余力がありません。そうなると、途上国に存在する知財の多くは、先進国(北)が生み出したものであり、その途上国内で自由に実施することすらままなりません。途上国では、知財が産業の発達の阻害するおそれすらあります。
特に、医薬は、人の命に直結するにもかかわらず、あらゆる産業分野の中でも最も強力と思われる知財によって保護されています。インフラや環境といった知財も、多くが先進国で生み出されたものです。そのため、途上国内における国民の安全・健康のために、水や空気の浄化など生活環境の改善を図ろうとしても、先進国の知財によって実施が阻まれたり、高いライセンス料を要求されることになります。
そこで、知財の「南北問題」において、途上国(南)は、当該国に存在する知財について国家の裁定による強制的な実施権制度など、知財の効力を有名無実化する制度の構築を狙っています。
この権利による利益と、権利があるがための不利益とのアンバランスの解消は、南北国家の利害が正面から対立するだけに非常に大きな摩擦を生じさせています。
しかし、医薬、インフラ、環境といった産業分野は、まさに人の命に直結する問題です。著者の久慈さんは、ホンダのCVCC技術の活用を例に、この南北問題を解決するためにも知財関係者は知恵を出し合うことが必要と述べられています。
知財に携わる者として、とても共感する点でした。
どうも、日本では、知財(特に特許)は、一攫千金の金儲けの手段のように扱われることが多いのですが、多くの特許に基づく技術は地道な研究によってコツコツと積み上げられたものばかりです。そして、その知財によって、みんながハッピーになるはずですが、発明者のハッピーだけがクローズアップされがちです。
そろそろ、特許法の1条には、「産業の発達」だけでなく、「地球環境の維持」や「人類の生存」といったマクロな視点が必要になってきているのかもしれない、などと大きなことを考えさせられた読書となりました。
ところで、日本をはじめとする特許などの知財制度は、産業革命とともに発展したといえるでしょう。そのため、特許法の1条に「産業の発達に寄与」とありますが、実質的には「産業」=「製造業などの第2次産業」といえます。しかし、すでに産業構造はよりソフト化が進み、第3次産業の比重が高まっています。にもかかわらず、特許制度は、第2次産業の保護に重点がおかれています。商標制度では、サービスマークという第3次産業保護が図られていますが、多くは商品という第2次産業の産物を保護しています。
このように、知財制度として、第2次産業の保護を重視し続けていくと、従来の知財制度自体が「古い」といわれ、活用されない時代がやってくるかもしれません。
時代に応じた産業の保護を図るために、知財制度も新陳代謝が必要な時期になっているのかもしれません。
それを見ていたからというわけではありませんが、最近読んだ本の中で興味深い本の感想を。
知的財産制度の未来を考えさせられました。
知財関係者の著書ということで、業界の方にはちょっとした話題だった「久慈直登」さんの「喧嘩の作法」。お気づきの方もあるとは思いますが、東海道新幹線の車内誌「Wedge」で連載されていた著作の単行本です。「久慈」さんは、本田技研の知財部長を務められた方です。
ホンダといえばF1なんかが有名ですが、著書の中でも紹介されているように「知財」に関しては強気な会社ということで有名です。広く知られているのは途上国での「スーパーカブ」の意匠権侵害訴訟があります。著書の中では、「知財」はビジネスで利用しうる攻撃用の武器と述べられており、防御のための知財戦略が主である日本の多くの企業にとって感じるところは多いのではないかと思います。
さて、その著書の中でも最終盤に紹介されている知財の「南北問題」は、大変興味深いものでした。
「南北問題」についておおまかに紹介すると、「途上国(南)」と「先進国(北)」との間のジレンマといえるでしょう。知財に限らず、国際的な問題の多くはこの「南北問題」につながります。最近話題の「TPP(環太平洋パートナーシップ)」も、日本ではコメや自動車といった核心的な話題が中心ですが、それ以上に「南北問題」が摩擦を生じさせています。このTPPでも、知財が摩擦の一因になっています。
本題に行きましょう。
知財、特に特許は、特許権者を出願から20年という長期にわたって強固に保護します。この強固な保護には、差止請求権、損害賠償請求権が含まれています。この強固な保護を背景に、発明者(出願人)は、多大な研究資金を投入して、新たな発明を行なっています。つまり、将来的に強固な保護が約束されるからこそ、投資した資金を回収する機会が確保され、発明者(出願人)は安心して研究資金を投入することができるのです。
先進国(北)におけるこの知財の力を背景とした開発サイクルは、既存の発明を超える新たな発明を促すこととなり、累積進歩にともなう産業の発達に大きく貢献します。これは、日本における特許法が、1条で「産業の発達に寄与」することを目的としているように、知財制度が技術的な進歩を進める動力源になっていることを意味します。
ところが、途上国(南)は、技術的進歩を進める動力源となる研究開発の余力がありません。そうなると、途上国に存在する知財の多くは、先進国(北)が生み出したものであり、その途上国内で自由に実施することすらままなりません。途上国では、知財が産業の発達の阻害するおそれすらあります。
特に、医薬は、人の命に直結するにもかかわらず、あらゆる産業分野の中でも最も強力と思われる知財によって保護されています。インフラや環境といった知財も、多くが先進国で生み出されたものです。そのため、途上国内における国民の安全・健康のために、水や空気の浄化など生活環境の改善を図ろうとしても、先進国の知財によって実施が阻まれたり、高いライセンス料を要求されることになります。
そこで、知財の「南北問題」において、途上国(南)は、当該国に存在する知財について国家の裁定による強制的な実施権制度など、知財の効力を有名無実化する制度の構築を狙っています。
この権利による利益と、権利があるがための不利益とのアンバランスの解消は、南北国家の利害が正面から対立するだけに非常に大きな摩擦を生じさせています。
しかし、医薬、インフラ、環境といった産業分野は、まさに人の命に直結する問題です。著者の久慈さんは、ホンダのCVCC技術の活用を例に、この南北問題を解決するためにも知財関係者は知恵を出し合うことが必要と述べられています。
知財に携わる者として、とても共感する点でした。
どうも、日本では、知財(特に特許)は、一攫千金の金儲けの手段のように扱われることが多いのですが、多くの特許に基づく技術は地道な研究によってコツコツと積み上げられたものばかりです。そして、その知財によって、みんながハッピーになるはずですが、発明者のハッピーだけがクローズアップされがちです。
そろそろ、特許法の1条には、「産業の発達」だけでなく、「地球環境の維持」や「人類の生存」といったマクロな視点が必要になってきているのかもしれない、などと大きなことを考えさせられた読書となりました。
ところで、日本をはじめとする特許などの知財制度は、産業革命とともに発展したといえるでしょう。そのため、特許法の1条に「産業の発達に寄与」とありますが、実質的には「産業」=「製造業などの第2次産業」といえます。しかし、すでに産業構造はよりソフト化が進み、第3次産業の比重が高まっています。にもかかわらず、特許制度は、第2次産業の保護に重点がおかれています。商標制度では、サービスマークという第3次産業保護が図られていますが、多くは商品という第2次産業の産物を保護しています。
このように、知財制度として、第2次産業の保護を重視し続けていくと、従来の知財制度自体が「古い」といわれ、活用されない時代がやってくるかもしれません。
時代に応じた産業の保護を図るために、知財制度も新陳代謝が必要な時期になっているのかもしれません。