いつも利用している図書館の新着本リストで目についた本です。
私自身、大学は “法学部”出身 ではありますが、民法も総則と物権法ぐらいしか履修していませんし訴訟法系はノータッチ、社会人になってからも「法務」を専門的に所掌したことはありません。さらには、いわゆる “生活の中の法律” という切り口いえば、その実務的な法的知識は全くの素人レベルという恥ずかしい有様です。
ということで、少しはこの手の法律知識も整理しておきたいと思い、本書を手に取った次第です。
まず、著者が本書を記すにあたって掲げた基本コンセプトですが、それは「予防法学」です。
「予防法学」とは、「法的紛争を防ぐための知識、知恵、法的リテラシー」のことだと定義づけていますが、本書でその重要性を説くに至った問題意識について、著者はこう語っています。
(p32より引用) 法的知識といっても、専門書に書かれるような難しい内容ではなく、普通の市民にも十分に理解できる事柄です。
しかし、先に述べた「所有権」や「契約」の例からもわかるとおり、日本人にはこうした法的常識ないし感覚が欠けていることが多いのです。
わが国の場合、このあたりの基本的な知識の付与は、中学校での「公民」でなされる建付けになっているのでしょうが、現実の受験科目を意識した教育実態から思うに、当該科目で十分な成果を求めるのは難しそうですね。
そうだとすると、多くの人たちは、結局、実際に法的トラブルに直面して初めて、あれこれ調べ回らざるを得なくなるのですが、そういった事態を少しでも回避させたいと著者は考えたようです。
その手助けとなり得る “最低限の法的リテラシー” の付与を目的として、本書では、「交通事故」「不動産トラブル」「家庭トラブル」等、身近にも起こり得るような法的紛争の実例を数多く取り上げています。
そして、それらに対する予防対応の解説を加えていくのですが、その語り口は、純粋な法解釈や裁判事例に基づきつつも、とても具体的かつ平易で、著者の姿勢として “法学初心者”への分かりやすさ を意識していることは強く感じられます。
併せて、印象に残ったところですが、読者への期待として、著者独自の価値観を映し出しているような記述もありました。たとえば「相続税対策(節税対策)」についてのこういったくだりです。
(p192より引用) 私自身は、合法的な節税はもちろん否定しませんが、基本的には、税金は払うべきだという考えです。そして、その上で、政治家と官僚による無駄遣い・・・については、徹底的に批判してやめさせ、また、税負担については、弱者への配慮を前提としつつも、公平公正を徹底させるべきだと思います。
人々が税金対策に血道を上げ、税の使い方や負担の公平の問題がその陰に隠れてしまう事態は、もしかしたら、為政者、また、権力、富、既得権をもつ人々にとって、大変好都合なことかもしれません。そのことも、考えてみていただければと思います。
そうですね。制度面での妥当性・公平性がある程度確保されていることが大前提にはなりますが、確かに著者の主張には一理あるように私も思います。
身近で個人的な法的課題に止まらず、ひろく政治的・社会的課題についても問題意識をもつことは、とても大切な “法的リテラシー”ですね。