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OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

本音に気づく会話術 (西任 暁子)

2021-01-07 10:52:57 | 本と雑誌

 最近はこういった“How To”系の本は滅多に読まなくなったのですが、著者の西任さんの評判を聞いて手に取ってみました。

 タイトルには「会話術」とありますが、前半のかなりの部分は「聞き方」についてのアドバイスが続きます。このあたりは、いろいろな本でも言われていることの重複ではありますが、それでもなかなか実践できていないところですね。

 たとえば、

(p95より引用) 私たちはよかれと思って、様々な受け答えをします。たとえばアドバイス。女性は話を聞いてほしいだけなのに男性はアドバイスをしがち、 と言われますね。
 アドバイスそのものは悪いものではありません。ただ、アドバイスという手段は 「解決」のニーズは満たしても、「共感」のニーズは満たせないもの。だから相手が共感を求めている時は、アドバイスをしても、残念ながら喜んでもらえることはないでしょう。

 この指摘は私にもかなり心当たりがありますね。
 そして、“聞く要諦”として西任さんはこうまとめています。

(p106より引用) 本音を聞く時は無理をしないこと。相手の意見を否定せず、評価せず、同意もしない。相手がそう考えているという事実をただ受け取りながら、感情とニーズを想像し、たずねていく。

 で、次のステップとして「本音を伝える」方法の章へと移っていくのですが、このあたりからちょっと納得感が薄れていきました。

 事実と感情とを分け、そのプロセスから「本音(真のニーズ)」を捉えていくというプロセスは理解できるのですが、具体的な伝え方として、①観察→②感情→③ニーズ→④リクエスト の順に口に出していくというのは、少々乱暴のような気がします。
 「聞く」行為は自分(私)の行為なので、自分主体に進められますが「話す・伝える」行為は相手に対するものです。したがって、相手がそのプロセスに乗る準備ができていないと、むしろ「話し手の独りよがりな伝え方」と捉えられる恐れがあるように思います。

 特に、章末の「謝罪」への適用例として示されているやりとりは、正直、私の経験に照らからいえばあまり上手な進め方ではないですね。
 例示は「約束を忘れていた」というこちら側に100%非があるシチュエーションなので、そこで、相手のニーズや感情をひとつひとつ確かめながらそれを共有化していく会話というのはいかがなものでしょう。もちろん、そういったプロセスで「謝罪」と「継続的な関係性の維持」を目指せるケースもありますから全否定はしません。が、できれば、もう少し状況の異なるいくつかの現実的なケースを示した方がいいですね。

 あと、もう一点、説明のあちらこちらに「心の深海に潜って・・・」というフレーズが登場します。
 著者としては、イメージを理解するのに良かれと思っての表現なのだと思いますが、私にはかえって “意味不明寮なマジックワード” のように聞こえてしまいました。
 こう感じるのは私だけかもしれないので、著者には失礼な物言いになるかもしれませんが、ちょっと手に取る読者を選ぶ著作のように感じましたね。

 

 

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〔映画〕女王陛下のお気に入り

2021-01-06 07:52:57 | 映画

 
 こういった中世~近世にかけての “宮廷もの” は、どう頑張っても日本映画では太刀打ちできないですね。
 
 重厚な装飾と豪華な衣装、この独特の雰囲気はまさに「映画」という表現形式が相応しいでしょう。
 
 本作品も濃密なつくりで良くできていたと思います。特に、オリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズの3人の女優の方々の演技は、それぞれに役柄にマッチしていてとても素晴らしかったですね。

 

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〔映画〕愚行録

2021-01-05 09:18:08 | 映画

 
 ずっと追い続けていた筋書きから、後半で大きく転換し、最後でもまたサプライズがあるという凝ったつくりは、サスペンスものとしてはよくできていると思います。
 
 私大生の習俗に関するプロットについてはちょっと「?」的なところもありますが、これも確信犯として誇張して織り込んでいるのでしょう。
 
 なので、作品の出来としての評価はまずまずだろうと思います。ただ、私の好みはどうかといえば、この手の救いのない物語はキツイですね。 正直 なところ苦手です。

 

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裸でも生きる―25歳女性起業家の号泣戦記 (山口 絵理子)

2021-01-04 17:22:46 | 本と雑誌

 大分以前に、よく聞いているpodcastの番組に山口絵理子さんがゲストとして登場されて、その話に大変興味を持ちました。
 本書は、その山口さんの自伝的エッセイ、まだ20歳代ではありますが、彼女の成し遂げつつあることは素晴らしいですね。どんなことがあっても夢に向かって体当たりし続ける山口さんの悪戦苦闘ぶりが怒涛の如く押し寄せてくる一冊です。

 ということで、本書で紹介されている数々のエピソードの中から、特に印象に残ったくだりを書き留めておきます。

 まずは、ダッカでの大学院時代洪水被害にあったバングラディシュの人々の様子を見たときに受けた強烈なショック。

(p110より引用) 国際機関や政府がここぞとばかりに「援助、援助」と叫んでいるが、実際、生の現場は、一人ひとりが自分たちの力で生き残らなければいけないという厳しい現実を見せつける。それでもみんな必死に生きていた。・・・
 私は何かの力になりたいと思ってこの国に来たが、私に持っていない「強さ」をこの国の人たちはみんな持っていた。自分だったら環境を責め、自暴自棄になっていると思えるような過酷な現実だった。しかし私には「帰る場所」があった。日本という恵まれた国に生まれ、最低限以上のものを与えられ、生きてきた。そんな私が、「貧しい人のために」なんて思っていたことが、なんて浅はかで、傲慢で、無知な想いだったんだろう、と強烈に感じた。

 そのショックで挫けることなく、山口さんはジュートを使ったバッグ製造を手掛ける事業を立ち上げる決心をしました。自分ひとりで。ここで彼女の素晴らしさはその思いを貫きとおした頑張りです。
 しかしながら、サンプルを作ってくれる工場探し、初めの一歩から前に進めません。

(p127より引用)  何度も何度も断られ、辛い日々が続いた。
「結局無理なのかな···」
 そんなふうに思いながら、ときには泣きながらアパートに帰る日もあった。
 それでもやっぱり夢を形にしたい、やっと見つけた自分のやるべきことを何とか実現したい、そんな一心で工場のリストを片手に、それから約半年間、工場探しを続けた。

 そして、ようやくバッグを作り販売開始してからも山口さんの苦闘は続きます。

(p186より引用) メディアの取り上げ方は商品ではなく、すべて私個人に対するものだった。
 そして、バッグを買ってくださった方からの注文メールを読み返すと、「貧しい人たちのために何かしたいから」とか「国際協力をしたい」といった内容も多く、バッグが欲しくて買ってくれるお客様は、本当にわずかだと気がついた。
 そう。私はバッグ屋として肝心な「商品」でまったく勝負できていない事実から、無意識に目を背けていたのだった。

 そこで山口さんがとった行動は「一からバッグ作りの修行をする」ことでした。バッグの専門知識を自ら身に着けてバングラディシュの工場のみんなに伝授しようと考えたのでした。

 その後も想像できないようなトラブルに見舞われながらも、信頼できる現地スタッフや職人さんと出会い、なんとかリニューアル商品を作り上げて日本での販売開始。そして、大手百貨店での取り扱い、Webサイトでの販売も好調。

 本書が描いているのは、ここまでですが、その後も決して順風満帆というわけではなかったようです。

 とにもかくにも、山口さん、20歳台半ばにして、物凄い振幅の激しい人生を歩んできていますね。
 小学校でのイジメ、中学のときの非行、高校での柔道、そして大学を経て、いきなりバングラディシュを訪れての大学院生活と起業。いつもリミット一杯まで進み切っては、また別の振り子に乗り換えて・・・。

 そして今、事業をしっかりと根付かせて“一流の実業家”として活躍を続けている山口さんがいます。

 

 

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〔映画〕推理作家ポー 最期の5日間

2021-01-03 10:55:35 | 映画

 
 エドガー・アラン・ポーを主人公にしているとおり、ストーリーはなかなか面白いものがありました。
 
 事件の展開と小説の執筆を連携させたプロットも工夫されていたと思います。ジョン・キューザックをはじめとしたキャスティングも役柄とマッチしていてよかったですね。
 
 ただ、犯人の動機が今一つ。ポーに新しい作品を書かせるためだったのでしょうか?仮にそうだとしたら、その程度のことでこういった犯行に至ること自体が不可解なミステリーということかもしれません。

 

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〔映画〕グランド・ブダペスト・ホテル

2021-01-02 17:53:49 | 映画

 
 とても不思議なテイストの作品でしたね。
 
 ストーリーや構成もよく練られたものでしたし、登場人物のプロットもしっかりしていたと思います。

 そして何より「映像」が綺麗でした。色彩感覚が素晴らしいです。これ見よがしなカメラワークは全くなく、素直なフレームの中で物語を綴っていたのが印象的でした。

 

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虫とゴリラ (養老 孟司・山極 寿一)

2021-01-01 14:18:54 | 本と雑誌

 気になるお二人の対談を起こした本とのことで手に取ってみました。

 期待どおり興味深い発想や指摘が満載でした。それらを順不同で書き留めておきます。

 まずは、山極さんが語る「人間の歴史が始まる契機」について。

(p67より引用) 山極 人間の祖先は、ゴリラやチンパンジーの棲む森を後にして、草原へ出て行ったんです。ゴリラにしても、チンパンジーにしても、彼らはそれぞれの五感でもって確かめられる食物を採取して、自分の手で採った食物を、その場所で食べていました。その中で、人間だけが、採取した食料を別の場所に「運んで」、他者に分配するという行動を始めます。他人が運んできた食物を食べるようになった。他人が採取して運んできたものを「食べる」というのは、他人を信用する、その食物を信用するということです。これが、情報化社会の始まりであると、僕は考えています。つまり、食物が「情報化」したわけですね。

 そして、山極さんの説明はこう続きます。

(p69より引用) 山極 人間の進化の歴史は、「弱みを強みに変える」ということを繰り返してきました。じつは、人間は弱い動物なんです。それを人間の社会力の源泉にしたからこそ、これほど大勢の人が寄り合いながら、類人猿にはない高い結束力を持ち得ることができたんだと思います。「情報社会」はそこから始まってるというふうに思います。

 なるほど、「食物→信用→社会性」という連関ですね。他者を“信用”することが人間ならではの“社会性”を創造する源だった、これはなかなか気づかない視点です。

 続いては、養老さんが指摘する “今の世界の「本人」” について。
 養老さんが銀行に行ったとき「本人確認書類」の提示を求められました。対応している銀行員は、目の前にいる人が“養老さん本人”であることは知っているにもかかわらずです。

(p165より引用) 養老 だから、今や、システム化された情報世界の中に入っているのが本人であって、現物の本人は何かっていうと、ノイズですよ。システムからは扱えないんだから。

 さて、本書を読み通しての感想です。

 こういった対話本は、ライブ感があって読んでいてとても面白いのですが、反面、取っ付きにくさを感じることがありますね。対話している当人同士にとっての“既知の了解事項”を前提として話が進んでいくと、第三者たる私(読者)は理解が追い付かなくなるのです。
 本書でも少なからずそういった場面がありました。ただ、これは致し方ないですね。いちいち部外者用に説明を加えていては「対話」の良さが消えてしまいます。

 対策は「読者」側にあります。対話している方々の知識や考え方を、前もって(ある程度)理解しておくことです。その方々の思考水準に少しでも近づいておくことです。
 これは、もちろん大変ですが、そうしようとするプロセス自体、とても楽しみなことでもありますね。

 

 

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