国際的な経営学の興味がどこにあるのか、米ニューヨーク州立大学バッファロー校助教授の著者がライトなトークで紹介していきます。とても読みやすい内容ですが、改めて「なるほど」と思う点が数多くありました。
その中の一つが「ポーターの競争戦略論」を取りあげているくだりです。
競争戦略論における企業の究極の目的は「持続的な競争優位」を獲得することだと言われています。この「持続的な競争優位」を獲得するために企業はどうすべきか、その代表的な示唆が「ポーターの戦略」です。
(p63より引用) 経営学では、「Structure(構造)」「Conduct(遂行)」「Performance(業績)」の頭文字をとってSCPパラダイムと呼ばれます。
ポーターの考えにおけるSCPが有名な「ポジショニング戦略」というわけです。
(p63より引用) ここでいうポジショニングには二種類があります。
第一に、事業を行う上で適切な産業を選ぶ、という意味でのポジショニングです。SCPパラダイムでは、とくに「企業のあいだの競合度が低く、新規参入が難しく、価格競争が起きにくい産業が望ましい」とされます。
ポーターの「ファイブフォース」は、このSCPパラダイムの観点から競争度合いを規定する要素として掲げられたものです。
(p64より引用) 五つのフォース(圧力)とは「新規参入圧力」「企業間の競合圧力」「代替製品・サービスの圧力」「顧客からの圧力」「サプライヤーからの圧力」のことですが、これらのいずれの圧力が強くなってもその産業では競合の度合いが高まるため、SCPの観点からは望ましくないということになります。
現実的には、競合度合いの低い分野があったとしても、既存事業を抱えた企業がそこに新たに参入することは困難です。そこで、現在の土俵の中での「差別化」が重要になります。
(p64より引用) 仮に産業を移れないとしても、今自社がいる産業の中でできるだけユニークなポジションをとりなさい、というのがSCPの第二のポジショニングです。
このあたりの説明は、大胆に割り切っているだけに分かりやすいですね。
そして、この「ポーター流の考え」の潮流が今どうなっているか・・・。
現在の「競争戦略論」においては「持続的」な競争優位自体、それを実現・維持することは極めて困難であると考えられています。
(p71より引用) 現在の競争優位は持続的ではなく、一時的なのです。そして「一時的な競争優位」を連鎖するように獲得していくことが、現代の企業に求められることなのです。
「ポーターの競争戦略論」が機能する企業環境そのものが、以前に比して大きく様変わりしているのです。
もうひとつ、著者の指摘として有益なものをご紹介します。
多くのビジネス書が説く戦略・戦術に踊らされないためのアドバイスです。
(p120より引用) 戦略と業績のデータを見せられて、その戦略に経済効果があるという主張を聞かされたときには、内生性やモデレーティング効果を考慮しないことによる「見せかけの効果」を念頭においていたほうがよいということです。
「内生性」とは、「(一見)効果をもたらしていると考えられる戦略の選択そのものが、何か別の要素に影響を受けている可能性がある(さらには、そのべつの要素が実は現出している効果に直接の影響を与えていることもある)」ということ、「モデレーティング効果」とは、「ある変数から別の変数への効果の強さが、さらに別の変数によって左右される」ことをいいます。
(p120より引用) ベンチマークでは、対象企業の戦略と業績を安易に結びつける前に、なぜその企業がその戦略を選んだのか背景を徹底的に分析し、別の要因がむしろ業績に影響を与えているのではないか、と疑ってみることが重要なのです。あるいは、その経営効果はどのような条件でもつねに成立するものなのかを疑ってみることが重要なのです。
さて、本書、予想以上に面白い内容でしたが、「ドラッカーなんて誰も読まない!」というキャッチも、日本のこの手の著作の読者にとってはかなり刺激的です。
(p17より引用) 誤解をおそれずにいえば、ドラッカーの言葉は、名言ではあっても科学ではないのです。
たしかにドラッカーの言葉一つ一つには、はっとさせられることが多くあるかもしれません。しかし、それらの言葉はけっして社会科学的な意味で理論的に構築されたものではなく、また科学的な手法で検証されたものでもありません。
確かに、ドラッカーの著作は「学問としての経営学(学術的な論文)」かといえば、確かにそうではないですね。
ただ、それだからといってドラッカーの示唆・箴言の価値が減耗するものではありませんが、こうはっきりと指摘されると、どちらかといえばドラッカーファンの私ですら爽快感を感じます。
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