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自己を大事に (「夢を力に」(本田宗一郎)より)

2005-06-19 23:20:07 | 本と雑誌
(p228より引用) 能率とは、プライベートの生活をエンジョイするために時間を酷使することである-と私は考えている。二宮金次郎の像のように、山坂路を歩くというような、二重、三重の苦労を忍んだり、朝は早く、夜はおそく、昼食の時間まで惜しんで、働くために働くことを能率なりとする考え方や、生活を楽しむことを罪悪視する戦時中の超克己主義は、能率の何たるかを解しない人の謬見である。・・・一定の時間の中により多く自己の生活を楽しむためには、働く時間を酷使する他に方法がない。私は自己の体験から、創意発明は天来の奇想によるものではなく、せっぱつまった、苦しまぎれの知恵であると信じているが、能率も生活を楽しむための知恵の結晶である。(1953年)


 「生活を楽しむための能率」「働く時間を酷使する」という言い回しは非常に新鮮に感じます。自分に厳しい表現です。

 仕事のためにプライベートの時間を犠牲にするというのではなく、限られた時間内で仕事をこなすことを求めています。
 本田氏の生活ぶりは「仕事が楽しみ」のように伝えられていますし、また、おそらくそうだったのだろうと思います。が、自分の生活を楽しむことも同じく非常に大切なことだと考えていたようです。
 そして、限られた時間を前提にして、何とかして仕事と生活を両立させるために、とことん時間を使い切る、そういう極限的な能率向上の努力を求めたのです。安易に他方の時間を当てにするのではない分、むしろ厳しい姿勢だと思います。
 戦後、誰も彼もが死に物狂いで復興に邁進していたころの言葉だけに驚きです。高度成長期以前に、高度成長期以降ようやく世の中で広く言われるようになったことを主張していたのです。
 先見の明というよりも、当時すでに素直にそう考えていたのでしょう。

 この本田氏の思いの根底には「自己を大切にするhumanism」が見えます。

(p250より引用)私はいつも、会社のためにばかり働くな、ということを言っている。君達も、おそらく会社のために働いてやろう、などといった、殊勝な心がけで入社したのではないだろう。自分はこうなりたいという希望に燃えて入ってきたんだろうと思う。自分のために働くことが絶対条件だ。一生懸命に働いていることが、同時に会社にプラスとなり、会社をよくする。会社だけよくなって、自分が犠牲になるなんて、そんな昔の軍隊のようなことを私は要求していない。自分のために働くということ、これは自分に忠実である。利己主義だと思うかもしれないけど、そうではない。・・・我われはただ単に、自分だけよければいいと言うのではない。自分をよくするためには人までよくしてやらなければ、自分というものがよくならないのだ、という原則があることを考えて自分をよくしなさいということを申し上げる。(1969年)


 「自分のために働く」ことは「自分に忠実である」ことだと言います。それは利己主義とは否なるものです。
 聖書に言う「汝を愛するように汝の隣人を愛せ」、真の自愛は他愛であり他愛はその実自愛であるという考え方と会い通じるものがあるように思います。

 漱石は「私の個人主義」の中で「自分が個性を尊重できるならば、他人に対してもその個性を認め、尊重することが当然の理である」という趣旨のことを語っています。

 個人主義は利己主義とは全く別のものなのです。

本田宗一郎夢を力に―私の履歴書 (日経ビジネス人文庫)
本田 宗一郎
日本経済新聞社

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