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ビーグル号世界周航記―ダーウィンは何をみたか (チャールズ・ロバート・ダーウィン)

2012-05-16 23:32:51 | 本と雑誌

Marine_iguana  ダーウィンの著作はまだ一冊も読んでいませんでした。有名な「種の起源」も、何度か読もうと思ったのですが、あの分厚さに少々気後れしていたのです。

 ということで、今回手に取ったのはコンパクトな著作、「ビーグル号航海記」のエッセンス版です。内容は、1831年、英海軍の測量船ビーグル号に同乗したダーウィンによる南米大陸や南太平洋諸島の調査記録です。平易な文で図版も多く掲載されており、とても読みやすいものでした。

 ダーウィンの進化論といえば、まずはガラパゴス諸島のイグアナやゾウガメを思い起こします。本書でのイグアナに関する記述です。

(p52より引用) トカゲの中でめだった種属であるアンブリリンカスは、ガラパゴス諸島にだけ棲息している。それにはだいたいの形が、たがいに似ている二種類のものがあり、一つは陸棲、他は海棲である。・・・
 私は数回、おなじトカゲをある一点においこんで捕らえたが、こんなに完全な潜水力と水泳力とをもっているのに、どうしても水中に入らせることができなかった。・・・
 たぶん、この見かけの上での愚かさは、この爬虫類が海岸ではまったく敵がいないのに、海ではときどき多数のフカの餌食にされてしまわねばならないという事実から説明されるであろう。したがって、トカゲにはおそらく岸は安全な場所であるという固定した遺伝的本能があって、そのためどんな危ない目にあっても、そこを避難所とするのである。

 こういった「動物」をテーマにした章に続いて、「人類」「地理」「自然」と章立てされていますが、どの記述も大変興味深いものがありますね。「対象」自体もそうですが、対象を見る「観察者」の視点からも当時の社会状況を垣間見ることができるので、二重に面白く感じられるのです。

 そのあたり「人類」の章、「奴隷」についてのダーウィンの考え方が表れているくだりです。ダーウィンがブラジルを訪れた際、ある家の前を通りかかると、うめき声が聞こえてきました。

(p121より引用) それはあるあわれな奴隷がさいなまれている声だと想像しないわけにはいかなかったが、それでも私は子供とおなじように無力で、抗議してさえやれなかったときの気持ちを、苦しくもまざまざと思い起こすのである。

 当時の植民地では、奴隷制度は許されてもよい弊害だという感覚が一般的でした。

(p124より引用) 奴隷所有者には同情して、奴隷には冷たい心で見る人は、けっして奴隷の位置に自分をおいて考えることがないらしい。・・・
 われわれイギリス人が、またわれわれのアメリカにいる子孫がおこがましくも自由を叫びながら、こういう罪を犯してきたし、また現に犯しているのを考えると、私の血は沸きたち、心はふるえる。

 ダーウィンは、忸怩たる思いで自分の無力を感じつつも、奴隷制度には反対でした。

 そして、最終、「自然」の章では、1835年2月、チリ滞在中に遭遇したM8クラスの大地震とそれによる津波の被害についても書き残しています。このあたりの記述は、昨年の東日本大震災の記憶と重なるところがあり印象的でした。

 また、この章では、様々な自然の力について記していますが、最後に、ダーウィンが驚愕した驚異的な「生き物(生命)の力」に関するくだりをご紹介しておきます。場所はインド洋の環礁、主人公は珊瑚虫です。

(p227より引用) 生きている珊瑚虫は石灰の炭酸塩の原子を一つ一つ泡立つ砕波から分離して、それらを一つの均斉のとれた構造に合成する。台風が千個もの大きな断片を裂きとってしまったとしても、夜も昼も、月に月をかさねて無数の建築師のつもりつもった働きに対してどれだけの力があるだろうか?かくしてわれわれの珊瑚虫の軟らかい膠質体が、生命の法則の力によって、人間の技術でも自然の無生命の工作物でも、とても抵抗できない海の波の大きな機械力を征服しているのを目のあたりにするのである。

 遠大で持続的な生命に対する賛美ですね。


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発売日:2010-02-10



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