手嶋龍一氏と佐藤優氏、面白い取り合わせの著者なので興味を持ちました。
“インテリジェンス”という視点から、近年の日本を取り巻く多種多様な外交問題をテーマにしたお二人の会話が進みます。
数多くの興味深いやりとりがあったのですが、まずは身近な「通訳」について。
私たち素人は、外交官どおしの交渉は英語で進められていると思い込んでいたのですが、実際はそうではないようです。
(p58より引用) 佐藤 外交の世界では、およそ中立な立場の通訳などいないんです。・・・それは、お金を払っている側につく。お金を払っている側に、有利な通訳をするものです。・・・
手嶋 民間のかなり大事な交渉で、自社の社員に英語で折衝をやらせている経営者がいますが、危険極まりないですよね。外交の世界では決してそんなことはしません。・・・正式な折衝では通訳を使うのが鉄則です。
佐藤 いまどき英語で自ら交渉をやっている会社は、オキュパイド・ジャパン、つまり占領下日本の発想から抜け出していない。重要な会談は、民間でも日本語を使うべきです。
このあたり、昨今の流行とは相反するものですが、お二人からのコメントならではのリアリティと説得力がありますね。
もうひとつ、世界に大衝撃を与えた情報漏洩事件であるスノーデン事件に関連したお二人のやり取りです。
(p92より引用) 手嶋 二十一世紀のいま、安全保障の主戦場は二つの「スペース」に移りつつあります。サイバー・スペースとアウター・スペース、すなわちネット空間と宇宙空間です。この二つは、必然的に国家の枠組みを超えてしまう。若きハッカーとして、サイバー・スペースに魅入られていったエドワード・スノーデンは、その存在自体が優れて二十一世紀的なアナーキストなのでしょう。
佐藤 本人がそれと自覚しないまま、予想もしなかったような修羅場を作り出してしまうという人物というのが時折いるものです。
スノーデンは、自らの動機において対象としていた世界とは全く別次元の空間にも途方もなく大きな衝撃を与えてしまったようです。スノーデン事件については、最近、それに関する本を読んだので、その内容を踏まえてお二人の話を読むと、また新たな気づきがありました。
さて本書を読んでの感想ですが、流石に“インテリジェンス”の専門家の視点はとても刺激的で興味深いものでした。
その人のもつ知識や経験値の多寡で、ある事象が示すメッセージを読み解く深さが天と地ほど異なってくるようです。他方、「安倍首相は『美しき誤解』で得をした」との指摘にもあるように、相手方の勝手な思い込みにより当事者が意図しない解釈がなされるということも現実には存在しています。
コミュニケーションは相手の存在が前提であり、相手がどう解釈したかが「現実としての真の姿」である以上、最後は「他責」となります。
そういう危うさの中で、いかにして誤解なきよう真意を明らかにし合う関係性を築けるか、“インテリジェンス”はその有益な一手段でもあるのでしょう。
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知の武装: 救国のインテリジェンス (新潮新書 551) 価格:¥ 821(税込) 発売日:2013-12-14 |