「R+」というブックレビューのサイトから献本をいただきました。
「電子書籍版」なので、さっそく iPadで読んでみました。(android携帯の方には、うまくダウンロードできませんでした。なぜでしょう?)
内容は、大部分が大前氏が設立した「ビジネス・ブレークスルー(BBT)大学」「BBT大学大学院」「BOND-BBT MBA(ボンド大学大学院)」といったサイバー教育機関の紹介です。
これらの教育機関は文部科学省からの認可を受けているので、100%オンラインであっても所定の学位を取得することができるというのがユニークな特徴ですね。
ただ、オンラインすなわちサイバー空間でキャンパスライフが営まれるという点は、時間的・地理的に自由である反面、講師と学生・学生間のリアルなコミュニケーションに欠けるのではという危惧がどうしても付いて回ります。この点については、その弱点をカバーしさらに新たな効果を生むべく、エアキャンパス等のITを活用した様々な工夫がなされています。
とはいえ、こうした独自の教育環境はこれらの教育機関の本質的な特徴ではありません。
実際のBBT等のサイバークラスルームでの議論はこんな感じで進んでいくのだそうです。
(p109より引用) まず自分で考え、根拠となる事実を調べ、その根拠を元に論理を展開し、議論を進めていく。考えが違っていても批判することなく、お互いを尊敬しながら考えの違いについて論拠に基づきながら議論を深めていく。この繰り返しによって、・・・一人で考えるより遥かにいい結果が生まれる。
このプロセスを通じて「集団IQ」ともいうべき知見が個人とグループに蓄積されます。「三人寄れば文殊の知恵」のサイバー版です。
ここでの教師の役割は"Teach"ではありません。受講者の"Learn"を支援することがミッションです。経営には教えるべき「正解はない」ということを前提に、自分の答えを作る「論理的思考能力」を身につけさせるのが、これらの教育機関の目的だからです。
戦後、高度経済成長期以降、日本では、「工業国家モデル」を前提にステレオタイプ的に推進された国内外の成功例(正解)に追いつくための「知識習得・記憶力偏重」、すなわち「覚えたもの勝ちの教育」が実践されていました。本書で紹介されているオンラインスクールは、そういった教育方法の限界を指摘した大前氏の危機意識をベースに生み出されたものです。
その点では、ビジネスに特化した極めて「合目的的」な人材育成機関といえます。とても意欲的なチャレンジですが、この「目的思考」の受容感性の程度によって、これらの機関の評価は様々に分かれることでしょう。
さて、本書を読み通してですが、全体の8割から9割は「BBT大学」「BBT大学大学院」「BOND-BBT MBA」といった大前氏が設立したサイバー教育機関のPR用ブックレットといってよい本です。
それらの仕掛けを創設する背景となった現代日本の教育環境に関する大前氏の問題意識等が述べられてる部分もありますが、それは全体からみるとごくわずかです。また、そのあたりの主張は、すでに世に出ている大前氏の著作でも再三にわたって触れられているものなので目新しさは全くありません。
強いて私の関心を惹いた部分は、IBMのパルサミー会長の言葉の引用でした。
(p200より引用) 市場は参入するものではなく、創造するもの
このシンプルなフレーズは、私にとってとても強烈で大切な刺激になりました。
進化する教育(DVD付) (大前研一通信特別保存版 PARTVI) 価格:¥ 1,575(税込) 発売日:2012-11-16 |