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コンセプト(ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (楠木建))

2010-10-31 11:00:47 | 本と雑誌

 ストーリーの始まりは、本質的な顧客価値を定義する「コンセプト」です。

 
(p248より引用) 優れたコンセプトを構想するためには、常に「誰に」と「何を」の組合せを考えることが大切です。「誰に」と「何を」を表裏一体で考えることによって「なぜ」が初めて姿を現すからです。
 「なぜ」は、戦略ストーリーにとって一番大切な問いかけです。ストーリーを動かす原動力は因果論理にあります。

 
 秀逸なコンセプトとして、著者はいくつかの実例を挙げています。
 その代表例が「アマゾン・ドット・コム」です。インターネットの普及に合わせて多くのEコマース企業が生れましたが、それらは従来からの小売業をネット化しただけのものでした。

 
(p257より引用) こうした安直なコンセプトをごく初期の段階から否定し、ユニークなコンセプトで独自の戦略ストーリーを構想した数少ない企業のひとつがアマゾン・ドット・コムです。創業経営者のジェフ・ベゾスさんは創業当初から「他社と決定的に異なるのは、アマゾンのビジネスの中核がモノを売るのではないということだ。われわれのビジネスの本質は人々の購買決断を助けることにある」と断言していました。

 
 この経営者が示す明確なコンセプトのもと、アマゾンは、ユーザによるレビュー購買履歴等に基づくレコメンデーションといった顧客の購買決断を支援する機能開発に多額の投資を行いました。これにより、売り手と買い手が双方向で情報を交換し販売・購入に活用するというダイナミックな関係性の構築に成功したのです。

 さらに、この「人々の購買決断を助ける」というコンセプトにもとづき、新品と中古品とを並べて顧客に表示するという「アマゾン・マーケットプレイス」も開始されました。結果は、一部で危惧されたチャネル間のカニバリズムによる相殺状況が生じたのではなく、購買チャンスの拡大・アマゾンへの顧客ロイヤリティの向上といったプラスの相乗効果が発揮されたのでした。

 もうひとつの例は、戦略ストーリーの古典的名作といわれる「サウスウェスト航空」
 CEOのハーブ・ケレハー氏によるとサウスウエストのコンセプトは「空飛ぶバス」とのこと。陸上交通機関の利用者を飛行機に乗せて飛ばそうとしたのです。したがって、戦略の基本の他社(競合航空会社)との「違い」は、「サウスウエストは航空会社ではない」ことでした。究極の違いですね。

 そして、そこで重要なポイント。サウスウェスト航空の打ち手の構成要素、「短距離国内便特化」「機内食は出さない」「座席指定はしない」等々は、この「空飛ぶバス」という基本コンセプトの自然な帰結(因果論理の一貫性)であるということです。

 以上のような「コンセプトの重要性」は従来からも指摘されていました。
 本書において楠木氏は、もう一歩踏み込んで、「誰に嫌われるか」の明確化がコンセプトメイキングにおいて大切だと説いています。「否定的な視点」から考え直すことによりコンセプトやストーリーにエッジを効かせブラッシュアップを図るのです。すべての顧客に受け入れられるコンセプトでは「戦略の差別化」はできないということです。

 さて、「コンセプト」の章での著者の最後の示唆は、「コンセプトは人間の本性を捉えるものでなくてはならない」という点です。

 
(p291より引用) 人間の本性を捉えた骨太のコンセプトを作るためには、その製品やサービスを本当に必要とするのは誰か、どのように利用し、なぜ喜び、なぜ満足を感じるのか、こうした顧客価値の細部についてのリアリティを突き詰めることが何よりも大切です。・・・特に大切なのは「なぜ」についてのリアリティです。

 
 そして、著者は、このリアリティは「自分自身」で考え抜いて追求するものだと説いています。

 
(p291より引用) 自分自身ほどリアリティを持って理解できる「顧客」は他にはありません。

 
 本田宗一郎氏の開発における信念と一種通じるところがありますね。
 
 

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