歴史上の人物の実像は、今となっては、何らかの文献によってイメージするしかありません。
しかしながら、その文献は、書き手というフィルタを経たものですから、それは意図するせざるに関わらず何らかの衣を纏ったものになっています。その結果、根拠とする文献によって、その人物像は大きく異なってきます。
本書で取り上げられた人物は、織田信長、武田信玄、徳川家康、天草四郎、赤穂浪士、絵島・生島、新撰組、坂本龍馬、西郷隆盛。
著者は、それぞれの人物にまつわる「風説」をとり上げながら、著者なりの解釈でその虚像と実像を明らかにしてゆきます。
たとえば、武田信玄。
信玄といえば、豪胆・豪気な武将だったというイメージが定着していますが、著者の理解によると、ちょっとイメージは異なります。
若き日の信玄は、甲斐の家臣を治めるに法律をもってしました。「甲州法度之次第」です。
(p57より引用) 最後の五十五条は、こうした文面で締められている。
「この法度は国主たる晴信にも適用される。もし、私が法に背いたと思われることがあれば、目安をもって訴え出よ」・・・
戦国大名がおのれの権力で、家臣や領民を脅し、強権を敷くのが当然であった時代に、信玄は自分の作った法度によって、自分自身をも裁くことを宣言したのである。
そこに見られる信玄像は、決して専制君主的なカリスマリーダの姿ではありません。
普通、私たちは、歴史上の人物を知るのに、その人物を扱った「史料」そのものにあたることはめったにありません。
多くの場合、「歴史小説」で描かれた姿でイメージします。その意味では、歴史作家の描き方如何で、その人物像は大きく変わります。
歴史作家は、史実を求めつつも、自らの「創作」を加えて小説に仕上げていきます。そして通常、史実と創作は渾然一体となって読者に示されます。
そこに、実体とは異なる歴史上の人物の「虚像」が現れるのです。
著者は、「新撰組三部作」を著した子母沢寛や、「竜馬がゆく」の司馬遼太郎を例に、歴史家からみた歴史作家の功罪について辛口の評価をくだしています。
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