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賢慮型リーダー (戦略の本質(野中 郁次郎 他))

2008-09-13 16:16:50 | 本と雑誌

Sadat  本書の姉妹編である「失敗の本質」においては、その分析スキームに組織論的な観点が見られました。
 他方、今回の「戦略の本質」においては、著者のひとり野中郁次郎氏を中心に主張されている「知識創造理論」における最近の成果が活用されているようです。
 その考えでは、「場」や「リーダーシップ」といった要素が重要視されます。

 本書の終章「戦略の本質とは何か」でまとめられている10番目は「戦略は『賢慮』である」という命題です。
 「賢慮」とは、アリストテレスの「ニコマコス倫理学」で示されている3つの知識、「エピステーメ(普遍的・客観的な知識(形式知))」「テクネ(実用的な技能(暗黙知))」「フロネシス」のうち、最後の「フロネシス(実践的知恵(高質の暗黙知))」の今日的用語だそうです。

 著者は、この「賢慮」をもつリーダーが、重層構造を持つ戦略を総合的にマネジメントできると主張しています。

 
(p453より引用) 賢慮型リーダーは、個々のダイナミック・コンテクストの直視から、どの側面が検討に値するのか、どの側面は無視してよいのかを察知する、状況認識能力をもつ。これは問題は何かを把握する問題設定能力であり、いわゆる達人の能力と通底する。問題解決の大半は、実は問題設定によるものなのである。

 
 そして、戦略の本質についてこう結論づけています。

 
(p459より引用) 戦略の本質は、存在を賭けた「義」の実現に向けて、コンテクストに応じた知的パフォーマンスを演ずる、自律分散的な賢慮型リーダーシップの体系を創造することである。

 
 「リーダー」についての解説においては、第二次大戦期のイギリスのチャーチル、ドイツのヒトラーが比較対照的に登場しますが、私にとっての新たな知識となったのは、第四次中東戦争におけるエジプト大統領サダトの戦略思想についてでした。
 
 サダトに関しては、元米国務長官キッシンジャーの回顧録の中でのことばが紹介されています。

 
(p321より引用) サダトは、占領地の奪還のためではなく、エジプトの自尊心を回復し、外交の柔軟性を増やすために戦争をしたのであった。開戦時において、戦争の政治目的を、かくも明確に認識していた政治家はまれであった。ましてや、戦いの後で、穏健路線を造り出すための戦争となれば、なおさらまれなことであった」

 
 サダトの目的は、固定化しつつあった中東情勢を流動化させ、アメリカのイスラエルへの外交介入を招来することでした。
 そして、その目的は見事に成功したのでした。

 
(p324より引用) 最高指導者の国家目標、戦略構想から第一線将兵の戦術・戦法・戦技に至るまで、有機体のような一貫性を保持して展開されたのが、サダトの限定戦争戦略であった。

 
 ただ、(本書の執筆趣旨とは異なるのですが、)やはり紛争の解決手段として、それが限定的なものであったとしても「戦争」に訴えることには大きな抵抗感がありますね。
 
 

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