本書は、物理学誌の読者投票で選び出された科学史に残る著名な10の実験を紹介したものです。
著者は、科学実験における美の要素として、「深いこと(基本的であること)」「効率的であること」「決定的であること」の3つを挙げています。
その基準に照らして選ばれたのが、以下の10の実験です。
- 世界を測る―エラトステネスによる地球の外周の長さの測定
- 球を落とす―斜塔の伝説
- アルファ実験―ガリレオと斜面
- 決定実験―ニュートンによるプリズムを使った太陽光の分解
- 地球の重さを量る―キャヴェンディッシュの切り詰めた実験
- 光という波―ヤングの明快なアナロジー
- 地球の自転を見る―フーコーの崇高な振り子
- 電子を見る―ミリカンの油滴実験
- わかりはじめることの美しさ―ラザフォードによる原子核の発見
- 唯一の謎―一個の電子の量子干渉
紹介されている実験の中には、世界史や理科の教科書でお馴染みのものもあります。
たとえば、ガリレオの斜面を使った加速度に関する実験がそうです。
(p79より引用) ガリレオもアリストテレスと同じく、落下する物体の運動そのものを測定するのが難しいことは認めていた。なぜなら、人間の目ではそれほど速い運動は追えないし、当時の計時装置では、短い時間間隔を高い精度で測定することは不可能だったからだ。しかしガリレオは、・・・斜面に玉を転がすことで重力の影響を弱めるという方法を試してみることにした。・・・斜面を転がる物体の速度を測定し、傾きを変えたときに速度がどう変化するかを調べれば、物体の自由落下という問題を解決できるのではないか、とガリレオは考えたのである。
この実験は、現代では、高速で点滅するストロボ撮影によって視覚的に検証できます。
ところで、この本で取り上げている「美しい実験」というテーマですが、著者は、このテーマに自ら「二つの疑問」を投げかけています。
その第一は、「もし実験が美しいと言えるなら、それは実験にとって何を意味するのだろうか?」という問いです。
これに対しての答えです。
(p301より引用) 実験の美しさとは何であるかが理解できれば、実験には人の心を揺さぶる力があることがわかるだろう。
そして第二は、「もしも実験に美があるなら、それは美にとって何を意味するのだろうか?」という問いです。
こちらの答えは哲学的です。
(p303より引用) 科学実験の美しさに気づけば、より古い伝統をもつ美の意味を蘇らせるのに役立つと。・・・古代ギリシャの人々は、・・・美しいものとは、何であれ価値のあるもの、見るに値するもの、それ自体として存在する意味のあるもののことだった。
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世界でもっとも美しい10の科学実験 価格:¥ 2,100(税込) 発売日:2006-09-14 |