Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.461「池上彰の宗教がわかれば世界が見える」

2012年08月26日 | eラーニングに関係ないかもしれない1冊
池上彰の宗教がわかれば世界が見える (文春新書)
池上彰
文藝春秋


政治と宗教の話はしない。それが、私たちのこれまでの常識だったように思
います。特にビジネスのシーンでは「あたりまえのタブー」と言ってもよい
ぐらいだったのではないでしょうか。

しかし、今はグローバル時代。ビジネスパーソンの多くが、さまざまな人び
ととコミュニケーションをとらざるを得ないようになってきています。

また、これまでの常識が通用しないような不安な時代をむかえ、生き抜くた
めのよりどころを欲している時代でもあります。だからこそ、宗教や政治哲
学の話題が一部で人気を得てしまうのでしょう。

さて、本書では、分かりやすく説明することにかけては右に出る者のない著
者・池上彰氏が、冒頭において世界の主要な宗教の概略をまとめています。
それから各方面の第一人者、7名へのインタビューを掲載しています。

著者はいつもどおり、分かりにくい言葉や概念があれば、それを分かりやす
く言い換えてくれます。また、疑問点があれば、多少聞きづらいことでも、
おなじみの切れ味鋭い、容赦のない質問によって明らかにしていきます。聞
かれる相手には気の毒ですが、そのため、無知な私1.0にもとても分かりや
すいものとなっています。

本書を読むことで、私は、比較的なじみのある仏教やキリスト教はもちろん、
知っているようで知らない神道や、まるで知らないイスラム教についてまで、
ざっと概観することができました。

もちろん、本当に基本的な部分だけであり、それぞれの宗教の中身を理解す
るということとは別です。しかし、得てして「基本的なところだけをかいつ
まんで」というものが最も難しいものではないでしょうか。そういった意味
からも本書は素晴らしい入門書だと思われます。

それぞれの宗教の考え方や戒律を知ることはグローバル・ビジネスにとって
欠かせません。典型的には2001年におきたインドネシアの「味の素」騒動
(逮捕者まで出したが、後に疑いが晴れて釈放された)などがありますが、
ある宗教にとって特定のタブーを犯してしまったがゆえに大きなトラブルが
発生することもあります。

それゆえに、本書はグローバルなビジネスパーソンにとって「地球の歩き
方」的、指南書とも言えます。つまり、危ない目にあわないための実践的な
マニュアルなのです。宗教が異なる外国人との会話の糸口を見つけるために
も使えそうです。

さらに、本質的にはこちらのほうがもっと重要な役割なのかもしれませんが、
宗教とは何か、生きるとは、死ぬとは何かといったことを少しだけ立ち止ま
って考えるきっかけを与えてくれるものでもあるのです。

著者は本書の中で、宗教を「『よく死ぬ』ための予習」と結論づけています。
私たちは100%死をむかえます。だからこそ、どう死ぬかについてはいずれ
誰もが考えなくてはなりません。宗教はある意味、その手伝いをしてくれる
ものなのでしょう。

自分にとって宗教とは何なのか、よりよく生きるためにはどうすべきか、本
書はそういうことを考える契機にもなります。そういった意味でも、あらゆ
る年齢、職業の方に是非おすすめしたい一冊です。〈文責:マツモト1.0〉

最新の画像もっと見る

コメントを投稿