林間教育通信(「東大式個別ゼミ」改め「シリウス英語個別塾」)

私立中高一貫校生徒を対象とする英語個別指導塾。小田急線の東林間駅(相模大野と中央林間の隣駅)から徒歩3分。

小倉の『東大英語5分』というトレーニング本

2010年06月01日 | 英語学習
大学入試東大英語長文が5分で読めるようになる―英語通訳トレーニングシステム・3ステップ方式
小倉 慶郎
語学春秋社

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小倉慶郎『大学入試東大英語長文が5分で読めるようになる』という本が昨年に出版された。

まずはAmazonのレビューをみてもらいたい。絶賛する人がいる反面、ぼろくそに貶す人もいることがわかる。私は、絶賛派に近い。だが、読者にたいしてちょっと不親切すぎる点もあり、ぼろくそ派の見解も理解できないではない。そこでどんな点が優れており、どんな注意が必要なのかということを説明しておきたい。

良い点
1)音声トレーニングの量が非常に豊富であるーーVol.1(緑)は780分、Vol2(橙)820分、Vol3(桃)820分と参考書としては驚くべき録音時間である。しかも、どれも一冊がたったの1500円(+税金)である!

2)音声を通じた集中学習という快楽を知ることが出来る--使ってみると分かるが、英語に没入しきるという快楽を体験させてくれる。絶賛の嵐になるのはむしろ当然のことである。

3)クイックリスポンス(日本語→英単語)、シャドウイング、サイトトランスレーション(英文区切り→前から和訳)というトレーニングを通じて、語彙力・速読力・英作文力を養成できる。

4)本書を用い、ある程度以上の力量のある高校生1-2年生が夏休みに集中して取り組めば、英語の基礎体力(※)が秋には飛躍的に向上しているのがわかるはずである。((※)あくまでも基礎体力であり、設問解答力ではない)

悪い点

1)タイトルがやや扇動的な要素を含み、誤解を生みやすい。――タイトルだけ読むと東大の入試問題があっという間に解けるようにかのように思えるが、そういう意味ではないようだ。Vol3(桃)の25-26ページを読むと種明かしされているが、「大学入試なら、訳さなくても英語長文が読める(=速読できる)ようになる。だから、「東大英語長文でも5分で読めるようになる」ということなのである。つまり、いままでゆっくりとしか英語を読めなかった人であっても、この本でトレーニングしたら東大の英語長文問題であろうとも、素早く全部読めるようになる(=速読できるようになる)という趣旨の本なのだ。しかし、このタイトルから、「正しく」その意味を理解できる人はあまりいないだろう。さらに、この小倉の本の本当の目的は、東大英語長文を読むと言うよりは、センター試験レベルの容易な英語を速く読めるようになることなのである。はっきりいって誇大広告の要素があると言える。

2)一つのレッスンが長すぎるーーこれはVOL1(緑)のみに言えることだが、一つのレッスンの英文量が多すぎるように見える。シャドウイング等の訓練をする場合、もう少し一つひとつの文章群が短いほうが良いのではないか。

3)本書を用いて誰もが特訓できるわけではない。――レビューアーたちは次のような不満を訴えている。「文法事項の整理がなければ読むことすらおぼつかない。 単語を少しぐらい覚えても、文法上の把握が不十分な高校生には不適である。」「難しいところの解説が無い」「東大の英語長文をなんとなくわかって気になることと、その設問に正解することとは次元の異なる問題である」「『東大』という意味深長な期待感と、『画期的なトレーニング』ということで、煽情的なまがい文句に騙されてはならない」。

これらの不満は、ある意味では非常に正しい! たしかに本書には、構文や文法あるいは文章構成についての解説はほとんどない。英文は適度に区切られ、その部分の日本語訳がでてくるだけなのだ。だが、どこでどう区切るのかとか、文章全体の構造だとか、itやthatが何を意味するのかとか、名詞節についてだとかといった解説がないのである。

たとえば、次の文章などは初心者には難しい。
but did you ever think about who gets the money you pay for your favorite chocolate?

ところが、小倉氏の解説はたったこれだけである。

but did you ever think/ しかし、考えたことがあるだろうか
about who gets the money you pay/ あなたが払うお金を誰が手にするかということを
for your favorite chocolate?// 大好きなチョコレートを買って。

ふつうの進学校の高校生の大半は、この区切りだけでは理解できないはずだ。


結論を下す前にひとつ確認したいことがある。それは、この本の英文の客観的な難易度である。実は東大英語長文を謳っているのにもかかわらず、16レッスン中14がセンター試験(レベルの)の英語なのである。つまり、基礎力不足の(ふつうの)高校生にとっては難しいかも知れないが、将来東大・旧帝大や早慶上智・外大等を本気で受験しようと考えている高校2年生ならば、それほど厳しいものではなく、ほとんど独力で読めるくらいだということだ。(高校3年生でこれが難しく感じられるので有れば、MARCHはちょっとキビシイでしょう)。

実際、センター試験で200点満点中140点、英検2級なんとか合格レベルの高2生徒(中堅進学校の進学クラス在籍中)に試したところ、3週間以内ですいすいと一冊をやり遂げることが出来た。この本のセンター試験の英文14題では、ほとんど躓くところがなかった。私がその生徒の英文理解をチェックしたところ、such… thatの見落としなどが若干あったにせよ、ほとんど構文解釈や意味解釈に間違いはなかった。(ただし最後の東大英語は難しすぎたようだ)

要するに、『東大英語長文』の英文ならば、ある程度以上出来る高校2年生以上ならば読み易い英文ばかりなのである。つまり、センター150-160点以上くらいの生徒ならば、この本は十分に独学で使いこなせると思われる。またそのレベルに若干達していない生徒であっても、指導者とともに学ぶならば、これもかなり有益だろう。そして、本書によってトレーニングすれば、易しい英語長文をスラスラ読むための基礎体力作りに役立つことは請け合いだ。

たとえば、1-2年後に将来東大や早慶をも狙えるような高1-2または高3春までならば、本書は大いに役立つはずだ。(高3の秋以降となると、もう少し問題解答力を鍛えるほうが良さそうな気がするので、本書が良いのかどうかは微妙だ)。

しかし、センターレベルの英語でかなり苦労するレベルの学習者であれば、この『東大英語長文は5分で読めるようになる』はあまりに不親切な本だということになる。最悪のシナリオは、構文や文章構造が全く理解できないのに、頭から区切ってサイトトランスレーションを試みている哀れな高校生の姿だ。

結論的に言って、本書の最大の欠陥は、どのレベルの学習者向けに欠かれたトレーニング本なのか明記していない点である。そういう意味では、Amazonにおける小倉批判は的を射ていることが多い。東大を本気でめざす高校生ならば、1-2年生のうちに本書に挑戦して基礎英語力を固めよう、みたいな売り文句にすべきだったのだ。

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