新宿機動部隊(将棋)

社団戦出場チーム「新宿機動部隊」のブログ。

「将棋エッセイコレクション」後藤元気・編

2014-03-10 21:40:47 | 将棋本

ちくま文庫オリジナル。

観戦記者、プロ棋士、作家、ブロガー、様々な立場の筆者によるエッセイ41本を集めた一冊。初出は「将棋世界」などの将棋専門誌、「血涙十番勝負」(山口瞳)などの単行本、ブログほかWEBと年代も媒体も多岐に及びます。将棋にまつわるエッセイのアンソロジーは、ありそうであまりなかったものであり、将棋テキストに関する貴重な文献として、非常に価値の高いものになっていると思います。

編者は、「取り上げる作品は自分の手で打ち直し、テキスト化した」(編者あとがきより)そうです。これはできるようでなかなか大変なこと。しかし、その作業によってオリジナルのテキストはいったん編者の内に取り込まれ、新たなインパクトを持ちえたでしょう。この一冊に漂う密度の濃さは、まずそこに所以するものと思います。

さて、誤読を承知で。ここには将棋界の行く末が表現されています。

「十年後の将棋世界」(将棋観戦)にリアルに表現された、「日本将棋連盟は死すとも将棋は死なず」というビジョン、また「人間が人間と戦う将棋の面白さ」(梅田望夫)で示された渡辺明プロの「将棋が強ければ飯が食えるという棋士という職業の前提が、自分の時代には“放っておいたら”崩れるかもしれないという危機感を抱き」という感覚。安定したスポンサーであった新聞社の業績が悪化し、片やコンピュータ将棋の進歩に突き上げられて、将来が不透明な局面を迎えたいま、プロ将棋界はどこへ向かうのでしょうか。この2編のテキストは、全体のほぼ中央に位置する配置となっており、読者はこのあたりでいろいろな想いにとらわれることでしょう。

一方、冒頭の「聖性」(中平邦彦)、末尾の「八月一日(日曜日)晴」(山田道美)には、そんな道行のあやうさなどとは関係ない、将棋の未来についての暖かなまなざしが向けられています。「将棋の棋士は、一種の聖者といってよい」というフレーズで始まり、「夢の国で将棋がさせるように祈る!」という文で終わる構成からは、さまざまな条件が悪い方向に流れていくにせよ、将棋そのものの純粋性には揺らぎはない、という祈りのようなものがこめられているように感じます。

「僕は将棋が好きである」とサラッと書かれた編者あとがき、ここにこの一冊のエッセンスがシンプルに凝縮されています。


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