マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

ホルテンさんのはじめての冒険

2009年02月08日 | 映画
 

 北欧のノルウェーには行ったことがない。

 行ったことのない国だからこそ期待と想像力が膨らみ、せめても映画の中で疑似体験をしたくなる。未知の世界を経験できることこそ、これもまた映画の醍醐味なのである。

 ノルウェーの首都オスロ。年金問題でガタガタになっている日本とは全く対極的なのがノルウェーの年金制度である。石油、ガス事業の収入をノルウェー政府は年金基金として確保し、国民の年金のために積み立てているという。よって、ノルウェーの国民は誰もが安心した老後を迎えることができるという。

 この理想的な年金制度を持つノルウェーを踏まえて、「ホルテンさんのはじめての冒険」を見ると、また一味違ったものになるだろう。


 鉄道の運転士として真面目に生きてきた男ホルテンさんが、週末に無事定年を迎える。が、退職前夜、送別会の2次会に誘われたことで、最後の仕事に初めて遅刻してしまう。

 これによって「ぽっぽや」一筋で生きてきたホルテンさんの人生が一変してしまう。鉄道関係者しか知らなかったホルテンさんの前に、九十九折状に様々な人物が交錯し、登場する。定年退職を迎えた初老の男の小さな冒険であるのだが、その登場人物との交流は、時にコミカルでもあり、時には哀感を誘う。

 年金が保障され、老後にはなんの心配もないノルウェーの定年退職者。日本のサラリーマンにとっては憧憬の的ではある。だがしかし、老後が保障されたところで、人間はそんな単純なものではない。

 見終えた後、ヘルシンキを舞台にした日本映画の「かもめ食堂」がダブった。森と泉に囲まれたフィンランドのヘルシンキは、日本人の私にとっては、のんびりとした平和なイメージがあった。しかし、「隣の芝生は青く見える」が、その芝生に入ってみれば、実は虫もいればカエルもいる。決して「隣の芝生は青い」ばかりでなかったことを気づかせてくれた作品だ。


 ノルウェーであろうと日本であろうと、仕事をリタイアする人々の孤独感には普遍的な共通点があるのだろう。

 ホルテンさんは、それをしんみりと教えてくれた。


ホルテンさんのはじめての冒険公式サイト

監督・脚本 ベント・ハーメル
出演 ボード・オーヴェ、ギタ・ナービュ、ビョルン・フローバルグ

2009年2月21日よりBunkamuraル・シネマほか全国にて順次公開