マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

「パフューム ある人殺しの物語」 

2007年02月11日 | 映画
 匂いに過度に敏感な人はたくさんいる。実は私もその一人なのだ。

 いい匂いに敏感ならばいいのだが、どうも私は悪臭に敏感なので、困っている。例えば、雨の日に電車に乗ると、湿った傘から、乗車客たちの湿った衣類から、放たれるキナ臭い臭いがたまらなく嫌になる。もっと悲惨なのは、臭いのきつい香水をつけた女性と隣あわせにでもなったら、もう最悪。キナ臭さとその香水がミックスされ、新たな悪臭となって車内に蔓延する。それが、最高級のシャネルであろうが、ディオールであろうが、ブランドには関係ない。

 匂い、臭い。人間の五感の中で、もっとも崇高で優れているのが匂いの感覚であると思う。そんな人間の鋭い匂いの感覚を描いているのが、「パフューム」である。この映画はパトリック・ジュースキンの「香水 ある人殺しの物語」が原作になっている。世界的なベストセラー作品であるので、書棚を見るとこの本があったが、私は「つん読」だけで、まだ読んでいない。

 しかし、映画を先に見て、かえってよかったと思っている。原作を読んでいたら、ラストシーンの意外性の素晴らしさも半減したであろう。

 舞台は18世紀のパリ。悪臭立ち込める魚市場で魚売りの女が産気づき、男の子を産み落とす。女は貧しさゆえに子供を育てることができないので、路地の一角に乳飲み子を置いて、捨て去る。捨てられた男の子の名はジャン・バティスト・グルヌイユ(ベン・ウィショー)。類まれな匂いの感覚の持ち主で、成長した時には、パリの町中の匂いを嗅ぎ分けるまでに成長していく。そして、天才的な嗅覚を生かして、香水調合師として有名になっていく。これだけなら、どこにでもありそうな話なのだが、この調合師は既存の香水の調合では飽き足らず、ある日、誰も作ったことのない究極の香水を作ろうと決意する。ここから、この映画は禁断の文学から禁断のサイコホラー映画に変わっていく。

 主役を演じたベン・ウィショーは27歳。彼の作品で思い出深いのがローリング・ストーンズのギタリスト、キース・リチャーズを演じた「ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男」。ミック・ジャガーも偉大だが、ローリング・ストーンズは夭折したブライアン・ジョーンズなくしては存在しなかった。

 今回の「パフューム」のベン・ウィショーはさらに熟練した演技を披露してくれた。究極の匂いを求めて高度な香水の技術をもつ街・グラースへと旅立ち、そこで、知った己の不幸。それは、何万種類の匂いを嗅ぎ分けることができるが、自分自身の体には匂いがなかったと気がつく。その絶望、その悲しい表情は今でも心に焼き付いている。

 ラストシーンは意外である。完全に予想がはずれた。今まで、物語の後半になると、大体は結末が読める私だが、このエンディングには驚きなんてもんじゃない。あまりにも意表をつき、あまりにも美しく、そしてあまりにも神々しい。

 パリは香水の発信地。そんな花の都の美しいパリで、なぜ香水が生まれたのか?いや、生まれなくてはならなかったのか。そんな疑問に目いっぱい答えてくれ、フランス文学嗜好の私は18世紀のパリの街の匂いの悲劇に、媚薬を飲まされたように酔っていた。

http://perfume.gyao.jp/


 【監督・脚本】トム・ティクヴァ
 【主演】ベン・ウィショー アラン・リックマン ダスティン・ホフマン
 【配給】ギャガ・コミュニケーションズ
 【公開】3月3日全国ロードショー