臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

大室ゆらぎの短歌(其のⅢ)

2017年08月17日 | 結社誌から
○  猫の毛を梳けばどんどん小さくなり小さくなつて半分になりぬ(2017/8)

○  冬の前に死んでしまへばもう要らない服と思ひぬ、洗つて仕舞ふ

○  アスファルトしつとり黒く濡れてゐるそこにまばらに散る桃の花(2017/6)

○  真つ白いアイリングを持つめじろの眼、うつとりと閉ぢられてゐる(2017/5)

○  内臓が入ってゐるとは思へない小鳥の軽さ、てのひらに受く(2017/5)

○  文字通り狼藉とこそ言ふべけれ収穫直後のきやべつ畑は(2017/4)

○  悪しき実を持つとふ樒の花咲けば墓山の辺もやや明るみぬ(2017/3)

○  標本のやうな頭蓋が落ちてゐる。狸と思ふ、藪に蹴り込む(2017/2)

○  牛乳を買ひに牧場へわが犬ははだしで歩くわれは靴履く

○  定型に身を委ぬれば幾何かわれを失ふよろこびはあり(2016/12)

○  垂直に猫飛び上がる、前触れもなしに突然落雷すれば

○  鋤き込まれ牛糞堆肥が匂ふ宵、輪廻転生をやや信じ初む(2016/11)

○  遠雷は遠雷のまま終はりたり長いゆふぐれ夏葱を引く(2016/10)

○  暗がりを目覚めてくだる階段はいつもかならず一段多い

○  息苦しいばかりに咲いてひと鉢に二百四個の百合の花はも

○  暴風雨の一夜は明けてつながれた隣の犬が死んでゐた朝(2016/9)

○  交尾して卵を産めば死ぬといふ、口もなければ物も食べずに(2016/8)

○  自転車でゆく人その影白壁にしばらく映り行つてしまひぬ(2016/7)

○  大声といふそれだけで怯えたり人の話のなかばで帰る(2016/6)

○  声も上げずいつもそこにゐた眞帆ちやんは生き仏であつたと夫は言ひけり(2016/5)

○  あらたまの年を跨いで『イリアス』を三読したり注を繰りつつ(2016/3)

○  左目は本を読む目で右の目は遠くを見る目ひだり目使ふ

○  白巻の巻とは巻尾のことならむ細いながらに尾は巻き上がる(2016/2)

○  十日ほど病んで逝きたり大人しく声も上げずに耐へてをりしよ(2015/12)

○  わが犬のひらいてしまつた肛門に綿を詰めたり真つ白な綿

○  金沢へ片道四百五十キロ、シトロエンC3つばめ号駆る(2015/11)

○  日本海に沿つて北上、快走するわがつばめ号は夏の空の色

○  稲の花の匂ひ著けく夜もすがら水路を暗渠に落つるみづおと(2015/10)

○  大量に胡瓜の蔓は捨てられて腐らむとしていまだ腐らず

○  二十キロあつたからだが十二キロになつてしまひぬ固いあばらぼね(2015/9)

○  夕闇に紛れゆくときゐなくてもゐてもゐなくてもよいわれとはなりぬ(2015/8)

○  青鷺はぎやと鳴きたり竹やぶのなかから夜は始まつてをり(2015/4)

○  水仙を窓に活ければ猫が来て噛んで咥へて引いて行きたり(2015/3)

○  冷蔵庫以外のすべての電源を抜いてやうやうわが身はゆるぶ(2015/2)

     「結社誌『短歌人』同人2欄」より抜粋


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