臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

大室ゆらぎの短歌(其のⅡ)

2017年08月16日 | 諸歌集鑑賞
○  春の雨ゆふべに餓ゑてゆでたまごふたつを蛇のやうに吞み込む

○  沈黙をわれと分かちて朝を歩む雉のかうべに降れる水雪

○  けだものの骨かと見えて川砂のうへに砕けてゐる蛍光灯
   
○  花の木の蜜を吸ひ吸ひ枝を移り小さく生きてゐることりたち

○  青空の青に吸はれて見失ふ何を言つているのか分からないひばり
 
○  花のうへに花は積まれて腐りつつ土手へとつづく日ざかりの道
  
○  見ずにおれぬ焦点としてゆふやみに何かを燃やす炎群立つ

○  焚けば減る嵩や野づらに古だたみ四五枚ほどが焼かれてをりぬ

○  牛小屋の裏の茱萸の木、横坐りしてゐる牛の乳ゆがみをり

○  長かつた蛇は轢かれて長いなりに平たくなりぬ、朝から暑し
  
○  左眼は本を読む目で右の目は遠くを見る目、左目使ふ
      
○  ひとつひとつが米粒となる稲の花、古墳に沿うて小道は曲がる   

○  をりをりは世界に触れておほかたは世界を拒むために持つ指

○  薄暮光けふは世界に触れ過ぎた指が減るまで石鹸で洗ふ

○  洗濯機に呼ばれて立ちぬ壇ノ浦新中納言いまはのときに

○  墓山の向かうにものを焚くけむり、朱欒かかへて風狂のひと

○  定型に身を委ねれば幾許かわれを失ふよろこびはあり

     「第二歌集『夏野』」(青磁社刊)より抜粋


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