○ 春の雨ゆふべに餓ゑてゆでたまごふたつを蛇のやうに吞み込む
○ 沈黙をわれと分かちて朝を歩む雉のかうべに降れる水雪
○ けだものの骨かと見えて川砂のうへに砕けてゐる蛍光灯
○ 花の木の蜜を吸ひ吸ひ枝を移り小さく生きてゐることりたち
○ 青空の青に吸はれて見失ふ何を言つているのか分からないひばり
○ 花のうへに花は積まれて腐りつつ土手へとつづく日ざかりの道
○ 見ずにおれぬ焦点としてゆふやみに何かを燃やす炎群立つ
○ 焚けば減る嵩や野づらに古だたみ四五枚ほどが焼かれてをりぬ
○ 牛小屋の裏の茱萸の木、横坐りしてゐる牛の乳ゆがみをり
○ 長かつた蛇は轢かれて長いなりに平たくなりぬ、朝から暑し
○ 左眼は本を読む目で右の目は遠くを見る目、左目使ふ
○ ひとつひとつが米粒となる稲の花、古墳に沿うて小道は曲がる
○ をりをりは世界に触れておほかたは世界を拒むために持つ指
○ 薄暮光けふは世界に触れ過ぎた指が減るまで石鹸で洗ふ
○ 洗濯機に呼ばれて立ちぬ壇ノ浦新中納言いまはのときに
○ 墓山の向かうにものを焚くけむり、朱欒かかへて風狂のひと
○ 定型に身を委ねれば幾許かわれを失ふよろこびはあり
「第二歌集『夏野』」(青磁社刊)より抜粋
○ 沈黙をわれと分かちて朝を歩む雉のかうべに降れる水雪
○ けだものの骨かと見えて川砂のうへに砕けてゐる蛍光灯
○ 花の木の蜜を吸ひ吸ひ枝を移り小さく生きてゐることりたち
○ 青空の青に吸はれて見失ふ何を言つているのか分からないひばり
○ 花のうへに花は積まれて腐りつつ土手へとつづく日ざかりの道
○ 見ずにおれぬ焦点としてゆふやみに何かを燃やす炎群立つ
○ 焚けば減る嵩や野づらに古だたみ四五枚ほどが焼かれてをりぬ
○ 牛小屋の裏の茱萸の木、横坐りしてゐる牛の乳ゆがみをり
○ 長かつた蛇は轢かれて長いなりに平たくなりぬ、朝から暑し
○ 左眼は本を読む目で右の目は遠くを見る目、左目使ふ
○ ひとつひとつが米粒となる稲の花、古墳に沿うて小道は曲がる
○ をりをりは世界に触れておほかたは世界を拒むために持つ指
○ 薄暮光けふは世界に触れ過ぎた指が減るまで石鹸で洗ふ
○ 洗濯機に呼ばれて立ちぬ壇ノ浦新中納言いまはのときに
○ 墓山の向かうにものを焚くけむり、朱欒かかへて風狂のひと
○ 定型に身を委ねれば幾許かわれを失ふよろこびはあり
「第二歌集『夏野』」(青磁社刊)より抜粋