塩が世界を襲う塩害の時代、崩壊寸前の東京に秋庭と真奈は暮らしていた。絶望的な状況下、次々人が死んでいく中で、ふたりの仲も少しずつ変化していく。しかしひとりの男の登場で、二人の運命は変転する。
『図書館戦争』で注目を集める、有川浩のデビュー作。第10回電撃ゲーム小説大賞受賞作。
出版社:メディアワークス(電撃文庫)
有川浩はすでに一般文芸でも活躍している作家である。
その理由は本作を読んで理解できる。本作が有川浩のデビュー作だが、かなり良質のSFで、しかも完成度の高い。物語を一気に読ませる筆力、明確な描写、どれも一級品である。デビュー作とは思えない貫禄をもっている。
一応くくりはSFになるのだろうが、メインはSFチックな部分よりも主人公プラス周りの人間の恋愛模様を描くところにあると言っていい。
とにかくその心理描写が的確だ。だれかに死んでほしくないという、まっすぐなくらいの思いが確かな手応えと共に読み手に伝わってくる。ああ、この感性は男では絶対に書きえないな、と思う面が多々見られて新鮮だ。
基本的に僕は女性の書く恋愛小説は苦手である。感性が前面に出すぎている感じがして、あまりなじめないからだ。だが、ここでは直情的な言葉で、女性的な心理が描かれている。これくらいの方が僕としてもすんなり受け入れやすい。
メインの二人の関係は共依存といっていい。
守るとか、守らないとか、重荷だとか、重荷じゃないとか、そんな言葉じゃなくって、ただ互いが互いを思いやる――そういう意味での共依存。そしてその気持ちの美しさが、ただただ感動的であった。
ライトノベルを読まない人にも読んでほしい作品だ。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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