私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『世界は分けてもわからない』 福岡伸一

2009-12-21 22:07:53 | 本(理数系)

顕微鏡をのぞいても生命の本質は見えてこない!?科学者たちはなぜ見誤るのか?世界最小の島・ランゲルハンス島から、ヴェネツィアの水路、そして、ニューヨーク州イサカへ―「治すすべのない病」をたどる。
出版社:講談社(講談社現代新書)



本書は、ベストセラーになった『生物と無生物のあいだ』の続編的な立ち位置にある作品だ。

だが、個人的には、前作よりも劣るという印象を受ける。
それは構成が前作よりもいくらか散漫に見えるということもあるし(意図はわかるけれど、前半の文章などは特にそう感じる)、前作ほど心に訴えかけるようなエピソードが少なめだということもある。
比較するのもどうかとも思うけれど、前作にあった上手さが本作では失われているように、僕には見えた。もちろん個人の好みもあるけれど。


だが知的好奇心をかき立てるという点においては、本作でもその魅力を失っていない。

特に興味を引いたのは、マーク・スペクターを巡る事件だ。
そのため第8章以降の展開はワクワクしながら読める。
章ごとの引きは上手いし、マーク・スペクターとはどんなやつなのか、どんなことをしでかしたのか、と期待をあおるところように描いているあたりが良い。
そして最後に待っていた結末に、ちょっと苦々しい気分になってしまう。

ラッカーによる、リン酸化カスケードの仮説は非常に美しくシンプルであるし、後年それがまったくまちがいでないことはわかったらしい。
だが天空の城の夢が、それを結果的に崩壊に導いたとしたら、なんとも悲しいことだ。
人間は見たいものしか見ないのかもしれないな、とその部分を読むと、思ってしまう。


そのほかにもおもしろいと感じるエピソードは多い。
ソルビン酸の作用に関する部分はバイオミメティックの勉強を(ほんのちょっとだけだが)した時期もあったので、それに近いなと感じるところもあり、個人的な関心を引く。またサプリメントに関する話題や、消化の意義などの部分はなるほどと思い、感心させられる。


新たに知ることも多くて、世界が一つ開けたような気分になる。
内容の質としては、前作には及ばないけれど、これはこれで、いろいろなことを知ることができて楽しい。
知的好奇心を刺激する一作である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



そのほかの福岡伸一作品感想
 『生物と無生物のあいだ』

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