私的感想:本/映画

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小野不由美『残穢』

2015-09-11 09:15:34 | 小説(国内ミステリ等)
 
この家は、どこか可怪(おか)しい。転居したばかりの部屋で、何かが畳を擦る音が聞こえ、背後には気配が……。だから、人が居着かないのか。何の変哲もないマンションで起きる怪異現象を調べるうち、ある因縁が浮かび上がる。かつて、ここでむかえた最期とは。怨みを伴う死は「穢(けが)れ」となり、感染は拡大するというのだが――山本周五郎賞受賞、戦慄の傑作ドキュメンタリー・ホラー長編!
出版社:新潮社(新潮文庫)




ともかくこわい作品だった。
この作品については、その一語に尽きるだろう。
ホラー小説として生理的なこわさに訴えかけてくる点が目を見張る作品である。


小野不由美をモデルにしたと思われる作家を語り手としたドキュメンタリースタイルの作品である。
家の中で畳をするような音が聞こえるマンションの一室。その部屋の住民は、そのうち、そこで異様な黒い何かを目撃するようになる。
作家は、その音について調べて行くうちに似たような現象が同じマンションや、近くのアパートで見られることを発見していく。そういう話である。

異様な状況が、次々とつながっていく様は、得体の知れないだけに不気味である。そういった描写はすばらしい。


特に音に訴えてくるっていうのがこわい。
ちょっとした変な音ってのは家の中に住んでいれば聞こえるだけに、そこにこわい意味を与えられるとよけいにこわく感じる。

おかげで家の中で、ちょっとでも音が聞こえたら、真っ先に『残穢』を思い出すようになってしまった。
そう読み手の想像力をゆさぶるだけでも、本作は及第点の作品だろう。


そのほかにも赤ん坊が壁から出てくる描写や、黒い人影が見えるところなどはこわくてたまらない。
作家のところにかかってくる謎の電話も、理解できないだけに、不気味さを煽りたててくる。
そんな不可思議な現象が続く中、作家たちは、マンションが建つ周辺の過去を暴きたてて行く。
その過程に見えてくる風景の忌まわしさは何とも言えず、怖ろしい。

とは言え、それも最後の方では、中途半端な形で終わってしまった感はある。
だがそれは、不気味な現象とは、どう受けとめるかの問題だということを示しているのかもしれない。

ともあれ、生理的感覚に訴える描写は見事だった。
ストーリーテリングも抜群で、食い入るように読み進められる。見事なホラー小説である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



そのほかの小野不由美作品感想
 『くらのかみ』
 『丕緒の鳥』


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