PSW研究室

専門職大学院の教員をしてる精神保健福祉士のブログ

自立支援法「つなぎ法案」の行方

2010年05月27日 13時04分18秒 | 精神保健福祉情報

のんきに日々の身辺雑記を記していられなくなってきました。
色んな事が、急速に動いていて、何からどう書いたら良いのか…。
(ーー;)

昨年来、政権交代して、障害者施策全般にわたっての見直しが進んでいます。
内閣府の「障がい者制度改革推進会議」のもと、「総合福祉部会」が開かれています。
「障害者総合福祉法」制定に向けて、障害当事者を含めて議論が展開されている最中です。
今の障害者自立支援法は、2013年8月までに廃止することが、宣言されています。

でも、一方、現行の障害者自立支援法は、それまで3年半残っています。
「その間はどうするのか?」という懸念の声が、福祉現場や障害者団体から、ずっと上がっていました。
現行法の下での緊急対策と、新法を含めた将来像を、分けて議論をしていく。
きちんと当事者の意見を反映させて…、という話しでした。
少なくとも、1週間前までは…。
ところが、だいぶ雲行きが怪しくなってきました。
(ーー;)

ちょっと、この間の流れを、一度おさらいをしておきますと…。

5月18日、「総合福祉部会」の第2回会合が開催されました。
障害者自立支援法に代わる新法「障がい者総合福祉法」のあり方が、議論の中心です。
会合では、新法の制定までに必要な緊急対策案を、次回6月1日の会合で示す方針が確認されました。

「緊急対策案」は、新法制定までの当面の措置として行うものです。
総合福祉部会で指摘のあった「応益負担の廃止」などの意見が盛り込まれる予定です。
55人の委員が、当面の措置として必要とする意見は、すべて列記するという約束です。
6月7日に、障がい者制度改革推進会議がまとめる予定の中間報告書の別添資料として提出される予定でした。

総合福祉部会は、この緊急対策案の提出を終えてから、
6月22日開催の第4回会合以降、新法制定に向けた本格的な議論を開始する予定でした。
そして、来年夏までをめどに、内容を詰め、2012年の通常国会への法案提出を目指すというスケジュールでした。

5月24日「障がい者制度改革推進会議」は、制度改革の基本方針素案をまとめました。
2011年の通常国会で、障害者基本法の抜本改正を目指すそうです。
障害者差別禁止法(仮称)の制定も検討し、2012年度末までに結論を出すといいます。
関係省庁と調整した後、6月中にも基本方針を閣議決定する予定だと報じられていました。

内容として、盛り込まれているのは、以下のようなことです。
1.障害の有無にかかわらず、すべての子どもが地域の小中学校の通常学級に通うことを原則とし、親子が希望すれば特別支援学校にも就学できるようにする。
2.障害者雇用の義務対象に精神障害を加える。
3.バリアフリーの整備の遅れなどを改善するため、2011年に国土交通省が提出を検討している交通基本法案(仮称)に、移動の権利を明文化する。
4.政府が検討中の新年金制度で障害者の所得保障を検討する。
5.医師や看護師の配置が一般より少ない、精神医療政策を見直す。
6.障害の原因となる疾患や症状など、現在は主に「医学モデル」で決められているが、これを日常生活で行動が制限されている状況などを踏まえて、社会的側面からも判断するよう、障害者の定義の範囲を広げる。

この基本的な方向は、正しいと思います。
それは、それで、良いのですが…。
一方で、呆気にとられるような動きも急に進んでいます。

なんと、上の経緯を無視して(?)、国会内の与野党の駆け引きもあって、
急に、「障害者自立支援法改正案」と「つなぎ法案」が、議員立法で国会に提出されました。
(ーー;)

A.「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律案」
(第174回国会衆議院第6号法案)
B.「国等による障害者就労施設からの物品等の調達の推進等に関する法律案」
(第174回国会衆議院第12号法案)
C.「障害者自立支援法等の一部を改正する法律案」
(第174回国会衆議院第17号法案)
D.「障害者自立支援法の廃止を含め障害保健福祉施策を見直すまでの間において障害者等の地域生活を支援するための関係法律の整備に関する法律案」
(第174回国会衆議院第23号法案)
※ 衆議院の議案一覧に載ってます→ http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm

A.とB.については、この際良いのですが、問題はC.とD.ですよね?
主な内容としては、
1.福祉サービス利用の原則1割を自己負担する「応益負担」から、支払い能力に応じた「応能負担」に転換する。
2.発達障害を同法の対象として明記する。
3.障害程度区分によるサービス内容の決定前に、本人の希望を反映させる「セルフケアマネジメント」(仮称)の仕組みを導入する。
4.仕事などをしながら少人数で暮らすグループホームの障害者に対する、一定額の家賃補助するを助成を創設する。
5.重度の視覚障害者が外出する際に利用できる、新たな移動支援サービスを追加する。

法案提出の理由としては、
「障害者及び障害児が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるようにするための支援の一層の充実を図るため、利用者負担の見直し、相談支援の充実、障害児支援の強化等制度全般について所要の見直しを行う必要がある。
これが、この法律案を提出する理由である。」

昨年の通常国会で、麻生内閣(自公政権)が提出した内容と、ほとんど変わりません。
現在の鳩山内閣(民社国政権)側も、大筋で合意していて、与野党超党派での提出です。
厚生労働委員長が提案し、早ければ5月28日には衆議院を通過し、今国会で成立する見通しだそうです。

はて…(ーー;)?
そうすると、福祉部会で喧々囂々議論しているのは、何なんでしょうか?
夏の来年度予算概算要求編成に向けての、緊急対策の論議だけなのでしょうか?
障害者自立支援法改正案に、部会や推進会議の意見は反映されないのでしょうか?
当事者の意見を聞くのは、ポーズだけだったということになりかねません。

昨年、日比谷の野音に1万人を集めた「10・30全国大フォーラム」実行委員会が「緊急アピール」を出し、抗議しています。

法案作成・提出までの、当事者参画など手続きが、まったくなされていないこと。
この件に関して、与党と障害当事者・関係者の話し合いが全くされていないこと。
これまでにも与党からの提案は示さておらず、新聞報道等を通して採択の動きがあることを知ったこと。
内容も、昨年3月、旧政権下で政府提案として提出した法案とほぼ同じ内容であること。
谷間の障害者の問題の解決が先送りされていること、
移動支援や手話通訳・コミュニケーション支援事業など、市町村地域生活支援事業の問題も何も解決されていないこと。
また、障害者の自己決定を尊重しないサービス利用計画拡大の問題があること。
自立支援医療の応益負担の廃止が盛り込まれていないこと。

したがって、
「こうした当事者抜きの拙速な決定は決して許されない。
障がい者推進会議および総合福祉部会の議論を優先させるべきである。
私たち10.30フォーラムは、粘り強く同法案廃止を求め、運動を展開する。
『私たち抜きに私たちのことを決めてはならない』」と宣言しています。

障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会と
障害者自立支援法違憲訴訟弁護団も、緊急抗議声明を出しています。

障害当事者たちの主張の方が、正論であると感じるのは、僕だけでしょうか?
普天間基地移転問題と同様に、鳩山政権の甘さと脆さを露呈したような感じです。
このままでは、ダブルスタンダードどころか、二枚舌になってしまっています。
いったい、どうなっているんでしょう?

なんだか、訳のわからないまま、自分の頭を整理したくて、記事にしました。
永田町や霞ヶ関の政治状況等、詳しい方がいたら、補足解説お願いします。
だらだら、まとまらない冗長な文章を、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

※直接、上記の会議に出席している訳ではないので、事実誤認があったら、すみません。
 朝日新聞と毎日新聞ほか、5月21日付けと25日付け報道を参考にしてます。