PSW研究室

専門職大学院の教員をしてる精神保健福祉士のブログ

PSW業務指針と用語の定義

2010年05月20日 09時04分50秒 | PSWのお仕事
PSW協会の構成員の方には、今週「議案書」が届いたと思います。
今回、約80ページの分厚い「議案書別冊」がついていますよね?
それが、先日の記事でご紹介した「精神保健福祉士業務指針(案)」です。
どうか、ぜひ、ざ~っとでも目を通して見て下さい。

「業務指針」作成委員会がスタートし、第1回会議を開催したのが2009年6月7日です。
報告書を提出し、理事会の討議に付されたのが翌2010年3月6日でした。
結局、委員会としての活動期間は、実質8ヶ月しかありませんでした。
既に前身の「提案委員会」がまとめた報告書がベースにあるとは言え、
この短期間に具体的な「業務指針」を成文化していく作業は、かなり無茶な日程でした。

土日を返上しての会議や、都心で終日缶詰状態で行われたワーキンググループなどもありました。
委員10人の熱意と使命感がなければ、本当に成し遂げられなかったと思います。
PSWとして各領域での経験を長くもつ委員たちの、精力的な取り組みに改めて脱帽です。

精神保健福祉士業務指針作成委員会のメンバーは、次の10人でした。
委員長  古屋龍太 (東京都、日本社会事業大学大学院) 
委 員  伊東秀幸 (神奈川県、田園調布学園大学)※担当部長
委 員  岩本 操 (東京都、武蔵野大学)
委 員  大石信弘 (静岡県、前・静岡市保健所)
委 員  大山 勉 (岐阜県、東海学園大学)
委 員  岡 順子 (東京都、新宿区勤労者・仕事支援センター)
委 員  木太直人 (東京都、日本精神保健福祉士協会)
委 員  田村綾子 (神奈川県、日立製作所神奈川工場健康管理センター)
委 員  廣江 仁 (鳥取県、社会福祉法人養和会F&Y境港)
委 員  山田恭子 (東京都、都立松沢病院)

せめて、もう少し時間的な余裕があれば、討議を深めたかった事柄は多々あります。
「提案委員会」が提起した、精神保健福祉士としての視点、理念、特性等についても、
新しいメンバーでの検証をもっと加え、更に深めたかったですし…。
各分野別の業務指針についても、地域・病院・行政についてはかなり議論を重ねましたが、
学校・産業・認知症については手つかずで、結局第1版に盛ることはできませんでした。
自らのポテンシャル不足もあり、本当に悔いが残ります。
でも、とりあえず、このまま提出して総会の議論にゆだねるしかありません。

「作成委員会」の成果として「用語の定義」に取り組んだことは、ひとつ成果と言えるでしょう。
まだまだ、あくまでも叩き台を示した、という段階ですけど…(36~44ページ)。
でも、なかなか専門用語として定義するまでには至らなかった言葉も、たくさんあります。
例えば、自己実現、回復、主体性、ピア、心理・社会的…(72ページ)。
PSWの価値そのものに直結する言葉ですし、哲学的な議論にも踏み込むことになり、本当に難しいです。

本来、専門職として使用する言葉は、きちんと定義され共有されていることが当たり前です。
定義が共有されていないと、言葉を発する人の背景や情感により意味はすれ違いますし。
議論をしても、堂々巡りとなってしまいます。
かつて誰もが学校で学んできたはずの言葉も、時代とともに変化します。
世代により、言葉は、新しい知見と実践を主張するようにもなります。

用語の定義としては、協会監修の『精神保健福祉用語辞典』(中央法規)もありますが…。
2004年の初版以来、内容の改訂もされてないので、内容は古くなっていますしね。
今後、精神保健福祉士養成校協会と合同で、検討していくことが必要でしょう。
協会に「用語の定義」に関する常設の委員会を設置することなども検討すべきと思います。

また、指針に止まらず、日常業務のマニュアルとなる「実務基準」の検討を始める必要があります。
医師や看護師等には、それぞれの臨床現場に即して「実務基準」がありますよね?
他の専門職種に互して、自らの専門性を堅持するためにも、やはり必要です。
また、後進の学生や若手に、精神保健福祉士業務の神髄を伝えて行くためにも、必要です。

ガイドラインをより具体化したマニュアルの作成は、これまた気の遠くなるような作業です。
でも、どこかの時点で始めないと、いつまでたってもできないですよね。
今回の指針作成が、PSWのスキル向上とコンピテンシー獲得への第一歩となればと思います。

そのためにも、素朴な疑問や、率直な意見を、協会に寄せて下さい。
この「業務指針」をテーマに、全国研修会を開催することなども、検討されているようです。
各都道府県の支部で、小規模な研修会を重ねることがあっても良いと思います。
「業務指針」のもつ理想と現実のギャップも、率直に議論すべきでしょう。

まだ若い精神保健福祉士という資格を、皆で育てていければと思います。
そのためにも、ぜひこの「PSW業務指針」を読み込んで欲しいと願っています。