ポン助の迷走日記

30歳目前・無職から、まあ何とかなるでしょうという日々を綴ったブログ。実際、何とかなりかけている。

<簿記バカ一代 第三話 赤薔薇、白薔薇、錬金術>

2004年12月29日 | 簿記バカ一代
<簿記バカ一代>
<第三話 赤薔薇、白薔薇、錬金術>

バカ夫の前にいる3級の帝。
この男も簿記四天王の1人であるらしい。

「お前も簿記が何か知ってるのか?」

バカ夫は尋ねた。

「簿記が何か?それは哲学的な質問ですか?」

バカ夫は動物的な本能で、こいつとは話が合わないと悟った。
3級の帝に背を向け、バカ夫は学校に向かおうとする。

「礼の言葉ひとつないとはなってないですね。
 そこにのびている新入生クンの世話ぐらいはみてやりなさい」

それだけ言うと、3級の帝は待たせてあるリムジンに戻っていった。

転がっている高校生男子は一向に目覚める気配がない。
少しは責任を感じたのか、バカ夫は脇腹を蹴飛ばした。

「あふん」

メガネ男子は素っ頓狂な声を上げ、目を覚ました。

「あ、あれ・・・・・・
 あのでっかい奴は・・・・・・」

バカ夫はメガネ男子に興味がないので学校に向かって歩き出した。

「まま、待ってくださいよ~」

メガネ男子がひょこひょことバカ夫を追ってくる。

「あ、あなたが助けてくれたんですか?」
「ああ」
「あ、ありがとうございます。僕は小鳥遊七五三太といいます。
 よろしくお願いします。」
「ああ」
「新入生の方ですよね?僕も今日から入学するんですよ。
 入学にあたって、いろいろと不安だったんですが
 初日から頼もしい方とお近づきになれて、よかったな~なんて。
 これを機会によろしくお願いしま・・・・・・あふん・・・・・・」

メガネはバカ夫の膝をみぞおちに受けてうずくまった。
バカ夫はメガネをその場に残し、学校へ歩いていった。

学校に着き、バカ夫が教室に入るとクラスメート達がざわめいた。

(・・・・・・おい、あれバカ夫だぜ)
(マジかよ、やくざになるんじゃなかったのか?)

男子のざわめきはバカ夫への恐れが大半だった。

(ちょっと、あれバカ夫さんじゃない?)
(マジ?結構、イケてんじゃん。チョーヤバイって)

それに対して、女子からは好意的な視線を向けられている。
このあたりで有名なワルであるバカ夫は
その筋からは意外ともてるのである。

「あれ~、バカ夫じゃん。
 あんたホントに高校入ったんだ」

そんな中、1人の女子がバカ夫に話しかけてきた。
バカ夫の知り合いであるリサだった。

かなりの美人でスタイルもいい。
言い寄ってくる男は数知れないが、
その中の何人かが消息不明になっているという噂もある。

「入っちゃ悪いかよ」
「だってアンタ、バカだし。
 弁護士になるとかって冗談かと思ってた」
「公認会計士だよ」
「何それ?」
「知るか」

リサは無邪気に笑った。
その笑顔は何人かの男子のハートに火をつけていた。

「おい、あれベントレーだぜ」

窓際にいた男子が声を上げた。
このワルの集まる高校には不釣合いな高級車が
校門の脇に止まっている。

運転手が後部座席のドアを開けると、
どこから見てもお嬢様にしか見えない女子が車から降りてきた。
窓際の男子から歓声が上がる。

女子の後ろからはSPらしき黒服の男性が2人ついてきた。
なにやら特別な生徒らしい。

「さっきはリムジンが来るし、何なんだよこの高校・・・・・・」

別の男子が呟いた。
簿記四天王の存在を知った時、同じセリフを呟くことだろう。

廊下からざわめきが近づいてきたかと思うと、
教室のドアが開き、さっきのお嬢様が入ってきた。
護衛のSPも当たり前のように教室に入る。

「まあ・・・・・・
 思った以上にみすぼらしい方達ばかりですこと」

いきなりの問題発言である。
品のよさそうな顔とのギャップが激しい。

「ああ?てめえ、いきなり何言ってんだよ!」

噛み付いたのはリサだった。
SPが軽く身構える。

「あら、聞こえまして? 申し訳ございません。
 わたくし、根が正直なものですから」

「なめんじゃねえぞ!時代遅れな髪型しやがって!」

お嬢様の髪型は見事なまでの縦ロールだった。

「ま、何て下品で失礼な方かしら。
 あなたたち、ちょっとお灸をすえてやりなさい」

お嬢様が軽くあごを上げると、
SP達がリサに近づき、その腕をつかんだ。

「何だよてめえ!離せよ!この野郎!」

リサは腕を振りほどこうとするが、
訓練されている男から逃れることは出来なかった。

「ほほほ、無駄ですわよ。
 彼らは元CIAと元KGBですもの。

 この平等院彩子に楯突いた報いを受けるがよいですわ」

リサの腕をつかんでいるSPはさらに力を込めた。
それによってリサの顔が苦痛に歪む。

その瞬間、大きな音がしてSPが後ろに吹っ飛んだ。
バカ夫が机で殴ったのである。
そのSPはそのまま気を失ってしまった。

「バカ夫!」

自由になったリサがバカ夫に駆け寄る。

「うるせえんだよ、お前ら」
「何なんですの!あなた!」
「黙れ、10円女」
「じゅ、じゅ、10円女ですって・・・・・・。
 や、やっておしまいなさい!KGB!」

彩子がもう1人のSPに命令するが、
そちらは既にクラスの有志によって倒されていた。
さすがはこういった事に慣れた連中である。

想像以上にリサの笑顔は男子のハートをつかんでいたようだった。

「え、ちょ、ちょっと、そんな・・・・・・」

うろたえる彩子にバカ夫がにじり寄ってくる。

「お、お待ちになって、お待ちになって。

 あ、あなた平等院家のボディーガードになりませんこと?
 こんな高校に通うより、ずっと高待遇でございますわよ」

バカ夫は何も言わず、さらににじり寄る。
彩子は机にぶつかりながら後ずさっていった。

「いや、いや、いや、いや
 来ないで、来ないで、来ないで」

彩子は黒板のところまで追い詰められた。
バカ夫はゆっくりと彩子の方に手を伸ばす。
彩子は小さくいやいやをしながら震えている。
バカ夫の手が彩子の目の前まで伸びた。

びし。

バカ夫は彩子にデコピンをくらわせた。
ぽかんとする彩子。
そのおでこが次第に赤くなってきた。

「ごめんなさいは?」
「・・・・・・ごめんなさい」

それを聞くと、バカ夫は何もなかったように席に戻り、
自分の机を直した。

息を呑んで成り行きを見ていたクラスメート達も
我に返って片づけを始める。

「あ、そいつらは帰らせろよ。目障りだ」

ようやく気がついたSP達を見てバカ夫が言った。

「・・・・・・あ、はい。お前達、帰りなさい」

SP達はこそこそと帰ろうとする。

「あ、やっぱりお前達、クビです。この役立たず」

今度はSP達がぽかんとしたが、すぐにその意味を理解した。 
CIAの方が怒りに任せて、教室のドアにパンチを放った。

「いや~、なんとか間に合った~。
 みぞおちキックはきつ、あふーん!」

CIAの放ったパンチは運悪く小鳥遊七五三太に命中した。
星のめぐりが悪い男である。

(ああ、どうしましょう。
 何かしら、この胸の高鳴りは・・・・・・。

 これは・・・・・・恋?
 ああ、彩子、フォーリンラブかもしれなくてよ・・・・・・)

彩子はバカ夫に熱い視線を送った。
リサがそれに気づき、彩子を睨んでいた。

バカ夫はそんな視線に気づくはずもなく、
転がった自分のかばんを拾っていた。
中から電卓が落ちそうになっている。

電卓を取り出してみると、
液晶部分にひびが入っているのに気づいた。
朝からの騒ぎで入ったものに違いない。

母の愛情がこもった980円の電卓は
1度も使われる事なく壊れてしまったのである。
それはこれから続く公認会計士への長い道のりを
暗示しているかのようであった。

「あ、同じクラスだったんですね~」

小鳥遊七五三太がバカ夫に話しかけてきた。

「もう~、さっきはひどいじゃないですか。
 いきなりキックはないですよ~。

 あ、電卓ですか。初日から気合入ってますね~。
 でも、僕も負けないですよ。
 祖父が買ってくれたドイツ製の電卓があるんですよ。

頑丈でちょっとやそっとじゃ壊れない。
39,800もする高級品ですよ~」

「見せてみろ」

「あ、興味湧きました?
 もしかして、電卓マニアだったりします?

 ちょっと待って下さいね。
 じゃじゃ~ん、これがそのドイツ製の電卓でございま~す」

 小鳥遊七五三太の出した電卓は
 頑丈な作りのしっかりとしたものだった。
 確かにちょっとやそっとの衝撃では壊れそうにない。

「交換だ」

 バカ夫は母の電卓を差し出した。

「え?でもこれって、
 ヤマダ電機とかで売ってる980円の・・・・・・」

「交換だ」

「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。
 だって、これはドイツ製の・・・・・・」

「交換だ」

「いや、でも・・・・・・」

「交換だ」

「・・・・・・・・・・・・冗談でしょ?」

「交換だ」

「・・・・・・・・・・・・」

「交換だ」

「・・・・・・・・・・・・はい」

バカ夫はドイツ製の電卓を手に入れた。
この男なら、もしかすると奇跡を起こしてくれるかもしれない。

「お前、名前は?」
「え、小鳥遊七五三太です。さっきも言いましたけど・・・・・・」
「俺はバカ夫だ。よろしくな、メガネ」
「・・・・・・はあ、よろしくお願いします」

何はともあれ、メガネも頼もしい男を味方につけたようである。

(ま、なにかしら、あのメガネボーズ。
 私の殿方に馴れ馴れしく・・・・・・。

 でも、バカ夫様とおっしゃるのね。
 何て凛々しいお名前かしら・・・・・・)

彩子は1人で百面相をしていた。
切り替えの早いものである。


バカ夫を中心に繰り広げられる人間模様。
いったいいつになったら簿記の話になるのか?

バカ夫を待ち受ける運命やいかに?

<次回予告>
簿記が何かピンと来ないバカ夫。
そこに現れる2年ダブリの高1、タカハシ。

ただの馬鹿かと思いきや、端々に見える簿記の知識。

予告を長々と書くと酷い目に遭うので、

次回、簿記バカ一代、第4話「簿記はこづかい帳?」

<つづく>

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