ぴかりんの頭の中味

主に食べ歩きの記録。北海道室蘭市在住。

【本】光触媒とはなにか

2011年04月21日 19時00分17秒 | 読書記録
光触媒とはなにか 21世紀のキーテクノロジーを基本から理解する, 佐藤しんり, 講談社ブルーバックス B-1456, 2004年
・特別強い興味があったわけではないが、『光触媒』のキーワードにどこかひかれるところがあり、手に取った書。その道の専門化が一般向けに書き下ろした光触媒入門書。おそらくは高校程度の物理と化学の知識があれば読みこなせるレベルと思われるが、特に化学分野の知識が薄弱な私にとっては、よく分からないままに読み飛ばしてしまう部分がチラホラ。結果としては、光触媒について分かったような分からないような……という何とも心もとない読後感しか得られなかった。しかし、時間をかけてしっかり読み込めばきちんと理解できるだけの内容を含んだ本であり、また光触媒という最新技術を扱う学問分野について批判的な視点から問題点を明示するなど、内容のオリジナリティの高さを感じさせる点に好感が持てる。
・「近年、光触媒が日本発の新技術として世界中で注目されている。光触媒とは、光があたると化学反応を促進する物質だ。現在、実用化されている光触媒は酸化チタンで、水や空気の浄化、抗菌・殺菌、ガラス窓や鏡の曇り防止、建物外壁の汚れ防止などに広く応用されている。さらにガンの光化学療法も研究されている。」p.3
・「ふつうの触媒がおもに工業用に使われるのと違って、光触媒は一般消費者が使うことが多い。そのため、一般向けの光触媒の解説書がたくさん出版されている。どれもたいへんわかりやすく書かれているのだが、触媒研究者から見ると、いくつか気にかかることがある。」p.4
・「そういうわけで本書には、光触媒をあれにも使える、これにも使える、といった応用の話はほとんどない。その代わり化学反応と触媒、固体物性、光と物質など、基礎的な話からはじめて、光触媒反応のメカニズムに力を入れて書いた。そして実用化されている酸化チタン単独の光酸化の仕組みだけでなく、白金などをつけた時におきる光電気化学反応についても詳しく解説した。  光触媒の基本的なメカニズムについて、本書で正しく理解していただければ幸いである。」p.5
・「光触媒とは、光があたると触媒となる物質のことだ。触媒は化学反応を促進する物質だから、光触媒は「光を使って化学反応を促進する物質」ということになる。」p.14
・「「光のいらない光触媒」というものが市販されているらしい。光がいらないのなら通常の触媒で、なぜそれをわざわざ「光触媒」と断るのかよくわからない。」p.22
・「この総説は1950年代以降の光触媒に関する文献を網羅している。そこには酸化亜鉛や酸化チタンが光触媒となること、光触媒による光酸化反応は活性炭素の生成によるものであること、酸化酵素として原子状酸素もできること、などが書かれている。  この総説を読む限り、管(孝男)先生のグループの光触媒研究は、当時、諸外国のレベルをこえていたと感じられる。今日、われわれが持っている光触媒に関する知識とさして変りがないほど、当時の光触媒の研究は進んでいた。光触媒に関する研究は昔からわが国のお家芸だったのだ。」p.27
・「酸化チタンは昔から白色ペンキや化粧品の材料として使われている。食品添加物(おもに白色の着色料)としても認可されており、安全な物質である。  ただし光触媒用の酸化チタンを直に体に塗りつけてもよいというわけではない。」p.33
・「化学反応とは、一つまたは複数の物質が、原子を組み換えてより安定な他の物質に変化することである。そして触媒とは「それ自身は変化することなく化学反応を促進する物質」である。  身の回りにあるプラスチック、化学繊維、医薬品等の化学製品は、ほとんど触媒を使った化学反応でつくられている。」p.38
・「じつは化学反応は逆方向(生成物から反応物への方向)にもおこっている。たとえば酸素(O2)と水素(H2)を化合して水(H2O)をつくる反応でも、水ができる一方で、できた水が再び酸素と水素に分解しているのだ。ただし水ができる反応が圧倒的なので、酸素と水素への分解は見えないのである。」p.40
・「触媒反応には、(1)反応物の吸着、(2)触媒表面上の反応、(3)生成物の脱離、の少なくとも三つの過程がある。」p.43
・「触媒が化学反応を促進するのは「反応の活性化エネルギーを低くするから」と、たいていの化学の教科書には書いてある。では、触媒がどのようにして活性化エネルギーを低くするのか。」p.47
・「酸素分子は、酸化されたり還元されたりすると活性酵素になる。触媒でも光触媒でも、酸化反応はまず酸素分子や水から活性酸素ができ、それが他の物質と反応しておこる。」p.56
・「酸素分子は、他の分子と比べてちょっと変わった分子だ。酸素原子は不対電子を二つ持っているから、二つの酸素原子が共有結合して酸素分子になっても、あいかわらず不対電子を二つ持つ。そのため、酸素分子は他の分子に比べると反応性に富んでいる。」p.26
・「ちなみに、酸化チタン光触媒は触媒毒を強く吸着しないので、失活することなく室温で有機物を酸化できる点が優れている。」p.61
・「光触媒の研究の現段階は、触媒研究の初期に似ている。さまざまな手法を駆使して、反応や表面の情報を集めるより先に、推定で反応のメカニズムが書かれる。推定で書かれた論文が引用され、推定が事実であるような顔をして一人歩きをはじめる。酸化チタン光触媒上の光酸化反応や活性酸素がその例だ。」p.64
・「光触媒の研究には実証主義が欠如しているように見える。活性酸素の反応性にしても、簡単な実験でわかることなのに実験をしない傾向がある。」p.65
・「光触媒を基本から理解するためには、少し回り道でも、半導体と光の性質を知っておく必要があるのだ。  現在、実用化されている光触媒は、酸化チタンを絶縁体のまま単独で使っている。その酸化チタンに光があたると、電子が励起して正孔ができる。そのため吸着した酸素が活性酸素になって有機物を酸化・分解するのである。  ただしこれは「はじめに」でも述べた「古いタイプ」の光触媒の仕組みだ。これに対して「新しいタイプ」の光触媒では、酸化チタンに白金をつけてある。水中で光があたると、酸化チタンからは酸素が、白金からは水素が発生する。その仕組みも励起電子や正孔の働きによる。」p.68
・「このように、真性半導体と絶縁体の違いは、バンドギャップの大きさだけで決まるが、その境界値がはっきり決められているわけではない。」p.73
・「どんなにエネルギーの高い光で活性酸素をつくっても、それに対応した高いエネルギーの酸化反応がおこるわけではない。活性酸素の反応性は、活性酸素の種類とそれをつくった触媒の吸着力によって決まるのである。」p.80
・「「光触媒」などつい最近まで聞いたこともなかったという人が多いだろう。しかし、じつは大昔から身近なものである。  たとえば、緑色植物が水と炭酸ガスと光から炭水化物と酸素をつくる光合成がそうだ。光合成は、植物体がもつクロロフィル(葉緑素)の働きによる。クロロフィルはまさに光触媒なのである。」p.84
・「先に書いたように、広い意味では光触媒反応も光化学反応に含まれる。しかし光化学反応というと、ふつうは反応物が直接光を吸収しておこる反応を指す。一方、光触媒反応とは、触媒が光を吸収して反応を促進する反応をいう。」p.89
・「ホフマン教授らが提唱する光触媒反応の仕組みでもっとも問題となるのは、光化学増感と固体の光触媒反応をまったく混同していることである。」p.109
・「ホフマン教授らの論文を根拠とする光触媒=光化学増感剤説は、いまや世界中に蔓延している。レーザーを使って行う水溶液中の光触媒反応の研究はほとんど彼らと同じ手法を使っている。そして、彼らの書いた光触媒の仕組みは世界中の通説になった。筆者らの原子状酸素説は多勢に無勢だ。科学の真実は多数決で決めるものではないが、ある時点では多数決なのである。  学生たちにはよくいっていることだが、本や論文に書いてあることを鵜呑みにしてはいけない。どんなに著名な学者が書いた論文でも、引用数が非常に多い論文に書いてあることでも、すべて正しいわけではない。内容を批判的に読むことが大切だ。  もちろん、本書に書いてあることも批判的に読んでいただきたい。」p.111
・「触媒によって化学量論が成り立たない反応がおこったと学会に発表すれば、物笑いになるだろうし、その論文が学術誌に受理されるはずもない。ところが不思議なことに、光触媒ではこれがまかり通るのだ。光触媒がなにか魔力を持ち、ふつうにはおこらないことがおこると思わせるらしい。」p.124
・「植物の光合成は光触媒の究極の目標ではあるが、光触媒によって水から水素をつくり、後は触媒にまかせればよいのではないだろうか。」p.125
・「ホンダ・フジシマ効果は光による水の電気分解だ。このように電気が関わる化学反応を電気化学反応という。」p.138
・「ほとんどの光電気化学型光触媒反応において、ルチル型酸化チタンの活性は、アナタース型より低い。これは、ルチル型酸化チタンの伝導帯下端の電位がアナタースのそれよりもプラス側にあるため、電子の還元力が弱いからである」p.180
・「室内の光は野外より格段に弱い。室内の写真を撮るには、昼間の明るい時でも野外の写真よりシャッター速度で約四倍、さらにレンズの絞りで三~四段、露出を増やさなければならない。すなわち室内の光量は野外の三〇分の一以下ということである。  夜間の照明下では、昼間の室内光強度のさらに一〇分の一以下になる。」p.188
・「いろいろな物質を混ぜれば新しい光触媒ができるだろいうという安易な開発指針は、時間と経費の無駄になるだけだ。混合物と化合物は違う。新しい光触媒の開発は新しい光伝導物質の合成が必要だろう。酸化チタンを越える性能の光触媒が開発できるかどうかは、現在の科学ではまだ予測できないというのが本当のところなのである。」p.200

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