池袋犬儒派

自称「賢者の樽」から池袋・目白・練馬界隈をうろつくフーテン上がり昭和男の記録

出会い頃、別れ頃(16)

2024-06-12 15:28:57 | 日記

 実はこのことは、我々のような子会社の人間にもよく当てはまるのである。というのは、課長以上の役職はすべて親会社からの出向・移籍組に占められているからだ。だから、フリーランス上がりの私はもちろんのこと、新卒組の連中も、誰も出世のことなど考えていない。仕事以外の関心事といえば、我々既婚者は給料と家庭、独身者は恋愛。とにかく、モテたい、ガールフレンドが欲しい、そればっかり。若くて趣味らしいものを持っていないから、そちらの方へばかり考えが行くようだ。

 それ以外では、クルマに関心を持つ人間は多かった。アパートの大家が田んぼのそばの空き地に駐車させてくれるし、会社には広いパーキングエリアがあって使い放題だ。少額だが自動車通勤の手当ても出る。ということで、ローンを組んで自動車を購入する。しかも、安い軽自動車ではなくスポーツタイプの乗用車だ。なぜ? 理由は簡単。モテたいからだ。

 新工場の最寄り駅は急行が停まらない。当然、夜遅くなると本数が減るので不便になる。開発に携わっている女子社員は、徹夜はしないものの残業で退社が遅くなることが多いので帰りが不便だ。そこが連中の狙い目になる。偶然に帰りが同時刻になったフリをして、「クルマで送ろうか?」と声をかけるのである。あいつらの頭の中にあるのは、次のような妄想だろう。

「送っていくよ」

「え、本当? いいの?」

「ああ。方向が一緒だし」

「じゃあ、お礼に晩ご飯を作ってあげる。簡単なものでよければウチで食べていって」

「悪いよ、そんな」

「大丈夫よ。このところデバッグで忙しかったでしょ。栄養をつけなくちゃ」

「そうだね。睡眠不足が続いているし」

「ウチで少し仮眠していったら?」

「ますます悪いよお……そんなあ……」

「いいのよ。私のベッドしかないんだけど、それでいい?」

「うん」

 しかし、そんな場面は未来永劫ぜったいに来ない。だいたい男にまじってプログラミングをやっているくらいだから男に対する幻想は皆無。男以上に自分のキャリアを真面目に考えているので、時間管理もしっかりしておりスキがない。残念でした。

コメント
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