試合をやるに当たり、やっておかなければならないことが二つある。一つはスポーツ保険に入ること。もう一つは試合用のジャージを買うことである。ちょうど忙しい時期だったので、保険の手続きはしたが、ジャージの選定は皆に任せていた。ピンクとかド派手なものを選ぶのではないかという危惧もあったが、そこは彼らのセンスを信用することにした。
しばらくしてキャプテンがやってきた。ジャージが決まったらしい。カタログを開いて彼が指さした先の写真を見て、私は絶句した。
「ううむ、これは……」
ラグビー強豪校として知られる某大学のジャージにそっくりなのである。この競技に興味のある人間で知らない人はいないだろうと思われるくらい有名で、「○○ジャージ」と言えば、この大学チームの代名詞になっているほどだ。
「注文は、まだ……」
「いや、もう注文しました。あとでマネージャーがお金を集めます」
釈然としないが、部員の相違なら従うしかない。
対戦相手は、この近辺の事情に詳しい旧友に相談した。すると、格好のチームがあるという。高校OBの集まりで、練習より飲み会優先の弱小クラブなのだそうだ。
「いい勝負になると思うよ。もしかしたら勝てるかもね」旧友はそう言ってくれた。
試合は我々の働く新工場のグラウンドで行った。我々の真新しいジャージの色を見て、相手チームはぎょっとした様子だったが、試合が始まると、逆にジャージとプレイのギャップに驚いたようだ。私もフルバックとして参加したのだが、ともかく凄まじいゲームだった。自分のポジションを忘れてボールの方ばかり行きたがる奴。逆に全然関係ない方向へ必死で走る奴。味方にタックルする奴。滑ったり転んだり、踏んだり蹴ったり……試合の間中ワーワーと叫ぶばかりで、自分たちが何をしているのかもわからず、無我夢中で試合を終えた。ラグビーの試合というより、ボールに群がる百姓一揆。
結果は、もちろん我々はノートライのボロ負けであった。
試合後の挨拶で、相手チームのキャプテンが「かっこいいジャージですね」と褒めてくれた。もちろん皮肉なのだが。