だいたい技術者は文章を書くのを嫌がる。たいして難しいことを書くわけではないのだから、ほんの一日二日の講習だけで十分にライティングに効果があると思われるが、そんなカリキュラムは一切ない。こんなことから、客先向けのマニュアル等の原稿は新人任せにすることが多かった。上役はほんの少しチェックするだけ。それらを営業や事業計画室がまとめ、翻訳と製本はすべて翻訳会社と印刷会社に丸投げし、出来たものをそのまま呼格に納入する。
こうやって出来た技術文書の出来は推して知るべしだろう。
「英語がめちゃくちゃ。何を言っているかわからない」
「図表と本文がぜんぜんマッチしていない」
「スペルミスが多すぎ」
「タイトルと内容と全く違う」
さんざんな苦情を海外の客先から浴びせられ、親会社は客先納入文書を作成する専門部署を作ることにした。この部署には、予算やプロジェクトを管理するグループ、実際にライティングやチェックを行うグループ、外国語を担当するグループ、文書作成の機械化(当時はOA化と呼んでいた)をやるグループが混在している。
私は、このドキュメント部の雰囲気が好きだった。皆とガヤガヤ言いながら仕事を進めるのも楽しい。残業は多いがイヤになるほどではない。
しかし、我々よりずっと多くの残業をこなしているのが、開発部隊に投げ込まれた新卒の連中だった。彼らの場合、「働く」というより「働かせられる」と表現する方がぴったりだ。とにかく、どんどん仕事を割り振られて、それがこなせなければ、深夜まで働いて工場内の仮眠室で寝るという生活が何日も続く。新人研修の時は柔和だった彼らの顔が次第に険しくなっていく。
新工場へ配属になってから半年ほど経ったとき、私は彼らにある提案をした。
それはラグビー部を作るというものであった。せっかくスポーツができる環境が整っているのに利用しない手はない。しかし、どうせやるなら、日頃の鬱憤を全部晴らせるような激しいスポーツがいい。近頃ラグビーは人気があるし。
この提案には、思いがけない反応があった。