「テキスト&スクリプト」のユーチューブチャンネルで紹介しているものですが、そのまえがきと第一章を本にしました。
「結婚していないの?」
「してません。婚約したことはありますがね。ふられてしまいました」
「お気の毒だな」
「女ってのは変わり身が速いですからね。婚約していたのは、同じ研究室で同じテーマをやっていた女性なんですが、ある有能な先輩がアメリカ留学から帰ってきたら、さっさとそっちへ乗り換えた」
「そっちの方があなたより将来性があると?」
「そうでしょうね。それまで、あれを勉強してこれを研究してと意欲満々だった人間があっさり専業主婦になっちゃった」
「女ってそんなもんだよ」
「結婚すると、女は変わりますか?」
「それは変わらざるをえないだろう。独身時代と同じというわけにはいかんからなあ。まあ図々しくなるのはどの女も一緒だろうが」
「図々しくなりますか?」
「お互いに慣れ切っちゃうからね。長年夫婦をやっていると、相手のことが手に取るようにわかる。次に何を言い出すか、とかね」
「だから外に刺激を求めるようになる?」
「浮気のこと?」
「ええ」
「人によるだろう。オレはもう枯れちゃったからな」
「奥さんも同じですかね?」
「何、うちのカミさん?」
「ええ」
「あはは、冗談は止めてくれよ。うちの女房はもうオバサンだよ。他に男ができて出ていってくれたらうれしいくらいだよ」
「してません。婚約したことはありますがね。ふられてしまいました」
「お気の毒だな」
「女ってのは変わり身が速いですからね。婚約していたのは、同じ研究室で同じテーマをやっていた女性なんですが、ある有能な先輩がアメリカ留学から帰ってきたら、さっさとそっちへ乗り換えた」
「そっちの方があなたより将来性があると?」
「そうでしょうね。それまで、あれを勉強してこれを研究してと意欲満々だった人間があっさり専業主婦になっちゃった」
「女ってそんなもんだよ」
「結婚すると、女は変わりますか?」
「それは変わらざるをえないだろう。独身時代と同じというわけにはいかんからなあ。まあ図々しくなるのはどの女も一緒だろうが」
「図々しくなりますか?」
「お互いに慣れ切っちゃうからね。長年夫婦をやっていると、相手のことが手に取るようにわかる。次に何を言い出すか、とかね」
「だから外に刺激を求めるようになる?」
「浮気のこと?」
「ええ」
「人によるだろう。オレはもう枯れちゃったからな」
「奥さんも同じですかね?」
「何、うちのカミさん?」
「ええ」
「あはは、冗談は止めてくれよ。うちの女房はもうオバサンだよ。他に男ができて出ていってくれたらうれしいくらいだよ」
赤城原は、笑い声を立てながら、口を開けて笑ったのは久しぶりだと思った。さきほどから引きずってきた重い気持ちが晴れてきた。
二人の会話は弾んでいった。
「正直なところ、何の職業なの?」
「大学で少し教えています」
「そこにある新しい大学?」
「いえ、違うんです。今日はそこの大学で会合があったので、その帰りです」
「お住まいは近くじゃないんだ?」
「住んでいるのは都内です」
「じゃあ、お引き留めして申し訳ないね。もうかなり遅いけど」
「ええ、終電で帰ります。どうせ一人暮らしだし、帰ってもすることがありませんから」
「結婚していないの?」
「してません。婚約したことはありますがね。ふられてしまいました」
「お気の毒だな」
二人の会話は弾んでいった。
「正直なところ、何の職業なの?」
「大学で少し教えています」
「そこにある新しい大学?」
「いえ、違うんです。今日はそこの大学で会合があったので、その帰りです」
「お住まいは近くじゃないんだ?」
「住んでいるのは都内です」
「じゃあ、お引き留めして申し訳ないね。もうかなり遅いけど」
「ええ、終電で帰ります。どうせ一人暮らしだし、帰ってもすることがありませんから」
「結婚していないの?」
「してません。婚約したことはありますがね。ふられてしまいました」
「お気の毒だな」