トーマス・マン【ヴェニスに死す】(実吉捷郎訳)
ヴェニスに死す
トオマス・マン
実吉捷郎訳
トーマス・マン(1875~1955)はドイツの作家。いくつもの名誉職を兼ねる豪商の家系に生まれたが、若くして文学的才能を発揮し、教養小説などが高い評価を受けて1929年にノーベル文学賞を受賞した。ナチス政権になると国外へ亡命し、戦後もドイツに戻ることはなかった。
トーマス・マンの有名な作品です。
主人公が作曲家のグスタフ・マーラーをモデルにしていることもよく知られていますが、トーマス・マン自身も色濃く反映されているように思います。
私も若い頃、スキノ・ヴィスコンティ監督の映画を観ましたが、美少年が妙に強調されているように思えて、少々失望しました。
実際の小説の核となっているのは、言うまでもなく、すでに名声を得た初老の作家の内面的変化であり、彼が見そめたポーランド貴族の息子というのはあくまで材料。
こう考えるのは、私がそういった性向にさっぱり疎い、というか全くないためかもしれません。そのせいか、この作品を最初に読んだときは、主人公の変化を非常に醜悪で薄気味悪く感じました。
しかし、今回この小説を読み返してみて、全編が「精神と美」というテーマに貫かれているのを見て、若い頃の自分は何を読んでいたのだろうと首をひねった次第です。