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7月3日・深作欣二の配慮

2024-07-03 | 映画
7月3日は、『変身』『城』を書いたフランツ・カフカが生まれた日(1883年)だが、映画監督、深作欣二の誕生日でもある。
自分は若いころ、深作監督の「仁義なき戦い」を観た。シリーズはひと通り観たと思う。戦後の混乱期から、林立していた暴力団が抗争を繰り返しながら、しだいに組織化されて現代につながってくるのだけれど、自分はああいう暴力を描いた作品は苦手である。でも、最初のを観たら、止まらなくなった。深作作品には、ある独特の味わいがあって、それが後を引いて、つい続編を観ずにはいられなくなるのである。

深作欣二は、1930年、茨城の水戸で生まれた。日本大学の藝術学部を出て、23歳になる年に東映に入社。
31歳のとき、「風来坊探偵 赤い谷の惨劇」で映画監督としてデビュー。これは千葉真一の初主演作品となるアクション映画で、深作は千葉と組んでアクション映画シリーズをつぎつぎと作った。
43歳のとき、ヤクザ映画「仁義なき戦い」を発表。大ヒットを記録し、続編がつぎつぎと作られる大ヒットシリーズとなった。
少年時代の戦争体験から、暴力を描くことで暴力を否定する映画を撮りつづけた後、2003年1月、前立腺ガンが転移し、没した。72歳だった。
監督作品に「柳生一族の陰謀」「復活の日」「青春の門」「魔界転生」「道頓堀川」「蒲田行進曲」「上海バンスキング」「火宅の人」「いつかギラギラする日」「バトル・ロワイアル」などがある。

深作欣二は、かなりハードなリアリズムを撮影に要求する監督で、リンチのシーンではあやうく俳優が死にかけたり、宴会のシーンでは雰囲気を出すためにしばらくほんとうに酒を飲んでの宴会をやってから撮影をはじめたり、熱い料理を頭から浴びせる場面では容赦なく熱々の料理を用意させたりしたらしい。

暴力映画を、実録風のタッチで撮った監督、それが深作欣二である。
海外の映画監督には、深作ファンがすくなからずいるらしいけれど、深作作品独特の味わいと同じものは、世界中見渡してみても、ちょっと見当たらない気がする。深作作品の、あのどぎつさというか、泥臭さというか、あの魅力はいったいなんなのだろう。同じアクション映画でも、ある種のハリウッド映画とちがって、なにか心にひっかかり、残るものがある。

端役を演じる役者にも、ちゃんと役者として接する。深作のおかげで、大部屋の役者たちもピラニア軍団として脚光を浴びた。
荒々しい感じの仕上がりを望みながら、その実、ちょっと顔を見せるだけの役者にも、どういう理由でそこに出てくるのかを説明して、ちゃんと納得して演じてもらうよう配慮した上で撮影に入る。
そういう細やかさが行き渡った映画作り。逆に言うと、作り手の神経の細やかさをなるたけ見せないように、荒々しく仕上げた作品、それが深作作品の魅力の秘密である。
(2024年7月3日)


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